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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編11】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

☆ストーリ【Story10】からの続きです是非下欄【Story11】をお読みください

    《今期最終・スポーツ・ランドSUGO》 

 レース前に必ず海斗に会う約束をしていたが別な意味で心が揺れていた、だが約束を破る訳にもいかない。 いよいよ今期最終のFormula Nippon(フォーミュラ・ニッポン)レースSUGOの開催日も迫り、

 今朝、家を出る前にベースの勤めの帰りに約束の海斗君に会い行く事をヨシ子に告げた 「チョット待って!」 キッチンからのヨシ子の声で玄関先で立ち止まりヨシ子を待った、俺の前に立寄ったヨシ子は、急いで着た俺のジャケットの捩れた襟を直しながら

 「浩子さんや以前のリュウ事御免なさい、もし浩子さんに会って相談されたら聞いてあげてね、お願いよ多分そんな気がするの私も会えたら話しをしますが今日は定時にリュウを待たずに先に帰りますから」 女の感?それとも長い友達としてか?それに何か俺の心の底を見透かされた様で気まずかった。

 俺は何処かに後ろめたい気持ちがそうさせたのか、意味も無く誤魔化し不機嫌を装い 「解ったよ!もし会ったらね、じゃぁー行って来るよ」 ヨシ子、知ってか知らずか機嫌よく手を振って 「気を付けて行ってらっしゃい」 と笑顔で俺を送り出す、いや、たぶん俺の心を見越してしての事だろう、何を言われた訳でも無いがそれとなく釘を刺された思いだ、心の疚しさで拘っているのは俺の方かもしれない。

プラモデル・フェラーリ.jpg 基地ベースでの仕事が何時もどおりそれとなく終わり、海斗の居る病院に向かう帰り道の途中、スーパーストアーのおもちゃ売り場に立ち寄りF-1フェラーリのプラモデルを購入して急ぎ海斗の待つ病院に向かった。

 俺は幾分心なし弾んでいた、それは海斗に会える事だけではなく、ヨシ子をこんなに愛しているのに何故だろう!済まないと云う気持ちが有るにも関わらず、何処かで浩子さんに会えるかも知れないと思う期待が有るからだ。

 着いたのは夕方6時を少し過ぎた頃であった、海斗の病室を期待と良心の狭間に揺れながら訪ねた、本当にヨシ子の感が当たっていた、何故こんなに俺の心がときめくのだろう!。

 たぶん海斗に病室の外に行きたいとせがまれ、ちょうど院内を車椅子で海斗と共に散歩して病室に戻った所であった。 俺は浩子さんを意識したのだろう、浩子さんを無視する様に海斗に向かって声をかけた 「よ!海斗」 此方を向いた海斗は、俺を見つけ目を輝かせて 「あ!リュウだ!こんにちは、お母さんリュウだよ!リュウが来てくれたよ」

 浩子が静かに振り向きゆっくりと頭を下げた 「先日は色々有難う御座いました、又何時も海斗に気使って下さり本当に有難う御座います、・・ヨシ子は1時間ほど前に帰りましたよ」 俺は何かよそよそしく 「あぁーそうですか、俺、海斗との約束が有ったものですから、もう気使いはよしましょう。俺はただ海斗が好きだから来ているだけですから」 何故かこんな、言い訳じみた言葉を発したのだろう 浩子さんは黙って見詰め返した 「・・・」 全て見通している様な瞳で、

 俺は意味も無く慌て 「あぁーそれにこれ海斗に」 何故か言い訳を・・彼女に!か、いや俺自身にかもしれない?何か落ち着かず、海斗を利用しているのではないかと後ろめたい気持ちがあったからだろう。 hiroko-kaito-1.jpg海斗にプラモデルを渡した、海斗は無邪気に 「リュウありがとう!、ワァー、フェラーリこれ欲しかったんだ!ありがとう」。

 浩子さん何か思いつめた顔で 「海斗良かったね、お母さん龍崎さんとお話があるの、少し良いでしょう?」 海斗は素直に 「うん・・、ねーリュウそのまま帰ったら駄目だよ!」 「判った後でね」 海斗をベッドに戻し、前髪をそっと掻き上げ横から俺を見上げる浩子さんにドキッとするほどの艶めかしさを感じた 「龍崎さん、何処か食事に行きましょうか?」

 きっと浩子さん一人で食事をする事が寂しいのだろうと思ったが、俺は何故か浩子さんを直視できず、海斗に目をやりながらかろうじて 「いいえ、ヨシ子が夕食待っていますから屋上に行きましょう?」 ヨシ子の悲しい顔が浮かぶ、心が踊る俺自身が恐く無意識に歯止めをかけたのだろう 「そう、解ったわ行きましょう」。

 夕暮れの屋上に上がり、向かいには、東京湾を挟み千葉の房総半島の明かりが微かに瞬いて見える、海からの風が肌に優しく時折通りすぎる。

 浩子さん真っ直ぐ俺を見詰め 「知っていると思いますが、私、離婚する事に決めました」 その悲願する様な眼差しに何故かドギマギするが、俺は負けずと見返し 「海斗から聞いて知っています、あなた達の都合で海斗に ”お父さんに会えないわ” は無いと思います、何があろうと海斗にはお父さんですから」

 浩子さんは意外と素直に 「はい、先ほどヨシ子と話してきました、反省しています、以前私達学生の頃から何時も一緒に行動していてヨシ子は知らないのですが、結婚前私の夫はヨシ子の事大好きだったのです、それで夫はヨシ子の気持ちを聞いて欲しいと私に頼んだのですが、私は其の当時夫の事が大好きで一緒になりたくて、つい夫の希望をヨシ子に伝えないまま、おそらくヨシ子のタイプではないし、勝手にヨシ子が嫌いと言ったと夫に話してしまって、それで夫はヨシ子を諦め私と・・、だからヨシ子に夫と二人して相談出来なかったの」

 少し驚いたが平静を装い 「その事は解りました、それまでして結婚したのですから何故ですか?・・もう本当にやり直す気持ちは無いのですか?こんな時ほど助け合わなければ・・あっ、つまらない質問してしまいました」 散々苦しんでの事だろう俺が言うまでもないだろう 「ええ、もうお互いに修復は出来ませんわ、実はヨシ子には話してないのですが、私達 別居していますのよ」

 俺は動揺したが、かろうじて理性が働き 「・・でしたら、今後の事、海斗君の事もありますから弁護士にお願いしたら如何でしょうか?・・市の相談室に行けば無料の弁護士も、有料でもっと良い法律事務所を紹介してくれますよ、訪ねてみては?」 「・・・」 「それに海斗君の看護疲れもあることでしょう、介護の問題や経済的問題は国がもっと考えるべきですよね」 「・・」 「もっと早く相談していたら多分こうにはならなかったと思いますが」 何か勝手な理由をつけてしまった。

 「ええ、そうしてみます」 「ヨシ子とは長い付き合いと聞いています、もっと気軽にヨシ子に相談しては?俺も経験が有るから思うのですが一人にならず話をすれば多分少しは気が楽になりますよ」 浩子は俯いたまま 「はい、ヨシ子にもその様に言われました」

 今度は徐に顔を上げ、訴える様に俺を真っ直ぐ見詰め 「でも私、如何して良いか・・・もう疲れてしまいましたわ、何もかも忘れ消えてしまいたい!」 突然、浩子さんが俺の胸に飛び込んで顔を押し付けてきた!余りにも意外な行動に動揺し突き放す訳にもいかず、ただ呆然とそのまま立ち尽くすしかなかった。

 一体何のつもりだ?俺はその場に固まり返す言葉も見当たらず慰めてあげる事も出来なかった。 仄かに香る香水に俺はしだいに変な期待を懐き二度目の強烈な動揺を覚えた!・・・悲しみを堪え震えて縋り付く浩子さん 「御免なさい!しばらく此の侭にして下さい」

 彼女も理性を捨て、全て壊し現実から逃避したかったと思う、 余程苦しい事が有り悩み続けた事であろう、俺にも其の苦しさが良く解っていたから優しい言葉を投掛けたかったが、出る言葉は違っていた、何故か諭す言葉が閊え

 「こっ!これだけですよ!」 喉が渇き何故か声が上ずっている、浩子さんにではなく俺自身に応えた思いで有ったのかもしれない。

 暫くしてなんという事だ!俺の方が邪悪の心に負けそうだ助けてくれ!、妖艶と思える表情と悲しみに打ち震える姿に愛しさを感じ此のままだと危険なほど心が乱れ欲望に押し流される、 これが背徳の味か!旨い事を言った人がいるものだ、悪魔の囁きが聞こえる!

 ”この腕を背中にまわせ!" 簡単な事ではないか ・・ 尚も悪魔が囁く・・  ”ほらお前が望んだ事だ!何を愚図々している!”  強烈な欲望が襲ってくる・・違う!違う!俺は違うんだ!俺はヨシ子を愛している!・・心の中で叫ぶ!。

 辛うじて本能的に俺は防御に入っていた、素直に受け止められないのは俺だけか?このままだと駄目だ!やっと逢えたヨシ子にせっかく与えられた愛と安らぎを!あの優しく包む様な眼差しのヨシ子の悲しみの顔が過ぎる、・・泣かす事など絶対出来ない!それに海斗に何って云うのだ!この平和を壊す訳にはいかない!欲望の渦から、かろうじて踏みとどまる、 「さー、浩子さんもう良いでしょう」 浩子さんの肩に手を当て押し戻した。

 男って動物は、ヨシ子を愛しているのに、なぜ?こんな気持ちになるのか?それに女性は子供の前で冷静に居られるのか?・・人間の複雑な本質を強く感じる・・。

 俺自身に念を押す様に 「浩子さん、もう良いですね!、俺なんか何の支えも力もありません、もっと確りしたアドバイス出来る人が沢山いますよ」 浩子さんも何かを感じとったのであろう危険からかろうじて俺が回避した事を!甘えてはいけないと思ったのか 「もう大丈夫です、本当に御免なさい!」

 其の苦しさ、悲しさ、不安が、わかるだけに俺は優しい言葉を投げかけてやりたかったが、俺の邪悪の心に対しても敢えて 「浩子さん、まだまだ離婚の事も海斗君の事も戦いは此れからですよ、悲観的な事ばかり考えずに一つずつ解決しなければ、確りして下さい!」 冷たく言い放った。

 浩子さんも正気に戻ったのか、戸惑いながら 「はい、ごめんなさい、もう大丈夫です・・・」 さぁー俺はゆらぐ心に、安全地帯に一刻も早く戻らなければ心の中で呟いた、俺は自分に念を押す様に 「海斗が待っていますから戻りましょう」 「ハイ、少しさっぱりしました」 二人は病室に向いながら 「学生からの友達でしょう、此れからはヨシ子に相談して下さいね、俺より余程頭が良いですから」 浩子さんは黙って頭を下げた、

 海斗の病室に戻り、暫くプラモデルの作り方を海斗に説明をして、解らない事が有ったら男の先生に聞きなさい、そんな会話をして帰る事にした 浩子さんの沈んだ顔みて 「今度ヨシ子と三人で何処か美味しい物食べに行きましょう?」 「ええありがとう、其処まで送りますわ」。

 浩子さんが病院の玄関まで見送りに来て、後ろめたい気持ちが涌いたのか 「今日の事はヨシ子に言わないで下さいね」 「別に、話すつもりも有りませんよ」 話せる訳が無いだろう!俺は其処まで云う必要がないと思ったが、敢えて俺自身に言い聞かすため 「ヨシ子は大事な人です、愛していますから」 「ヨシ子は幸せな人ね」

 「いえ、俺なんかと関わってしまってヨシ子は戸惑っているみたいですよ」 きっと何処かでヨシ子が羨ましく俺を誘惑する事で、何処かで勝ちたい気持ちが働いたのかも知れないのかな?・・いや純真に相談したかったからだ!邪推はよそう

 「生意気な様ですが、きっと楽しい日々が送れる時が来ますよ」 俺は明るく装い手を振り 「それじゃぁ、海斗に宜しくね」 自分でも歯の浮くような言葉を気取って良く云うよ!人を非難出来る立場かよう!下心見え見えの俺自身に少し嫌悪感を覚えた。

 何故か気まずい気持ちで家に帰り、ヨシ子に浩子さんと海斗の事を報告した、流石に浩子さんが泣いて俺に飛び込んで来た件は伏せた 「ありがとう、で!浩子どうでした?」 俺は一息入れ 「本当に別れるって、それで弁護士に相談しなさい、としか考えつかなかったよ、浩子さん悲しそうな顔をしていたが、何にもアドバイス出来なかったよ、後はヨシ子と相談しなさいって・・」 俺の話になんの疑いも無く真剣に答えてきた 「そう・・きっと皆に話す事で浩子自信が決着つけたかったと思うわ」 俺はどの様に答えて良いか解らず沈黙した。

 翌日、ヨシ子は職場の病院で浩子が訪ねて来て、話をしたことを事を俺に告げた 「今日、浩子が夫の事、私に話をしたの、まだ浩子と結婚前、夫が私に好意を寄せていて私に伝えてくれと頼まれていた事、初めて知ったの・・・例え知ったとしてもあの当時、彼の事なんとも思っていなかったから・・、それにもう浩子別居しているそうよ、今まで知らなかったわ」

 ハハァーンきっとヨシ子に相談できない理由も俺に話していたから俺の口から漏れるなと思ったのかな?それでヨシ子に俺はヨシ子にもっと解かり易く説明した

 「多分、ヨシ子に対してでは無く浩子さんの夫に、嘘を言った事がヨシ子に知られ、それで話が噛合わず夫に知られる事が恐かったのだと思うよ、ヨシ子に彼が(浩子の夫)相談して、彼から当時ヨシ子を好きだと伝えてくれと頼んだ事が伝わらなかった事が知れたら浩子さん困るでしょう・・初めはまだ、浩子の夫と別れる気持ちが無く、その事が知られ解ってしまう事が怖かったと思うよ、でも離婚を決めた今は違うでしょう」

 ヨシ子は少し驚いた様に 「それで変だと思ったわ、浩子だけが相談に来て ’旦那さんは?’ と聞けば何時も出張だからって言って、私も鈍感ね」 「これからは浩子さん、もっと相談に来ると思うよ」 「リュウがいてよかった、私って世間知らずねリュウの御蔭できっと浩子も少しは救われたと思うわ、ありがとう」 本当に助かったと云う面持ちでキッチンに向かい席を立ったエレン教会.jpg

 やはり、俺の邪心も知らずに少し後ろめたさを感じ!ヨシ子の後ろ姿に向かって 「そんな事ないよ、ヨシ子は自分に素直だし教養もあるし、優しいし、可愛いし、俺幸せだよ」 ポニーテルが遠心力で平らに上がる活き良いで俺に振り向き 「リュウ急にどうしたの?変よ」 鋭いな!咄嗟に 「改めてヨシ子で本当に良かったて、そう思ったの」

 今は問い詰めても仕方ないと思ったのか、素直に 「本当!リュウ嬉しいわ!本当にリュウに巡り逢えて良かったわ..安心して自分で居られるの、何か、定めに導かれた様で、私も幸せよ..あ、そうそう、肝心な結婚式、10月17日土曜日に例の港の見える丘のエレン教会に決めたの、17は私達の記念日」 「・・」 黙ったままコックリと頭を小さく縦に二度ほど振った 「ねーぇリュウいいでしょう?本当に身内だけにしょうよ」

 きっと結婚が二度目の俺に気を使っての事だろう 「あぁ、良いね、それで進めてよヨシ子に任したから」 ヨシ子は甘えるように 「本当はね、リュウと一緒に行って決めたかったの、きっともっと楽しかったのに」

 「ごめん、車の事で忙しかったから」 「解っているわ、お互い仕事ですから心配しなくて良くってよ、今年の最後のレースでしょう私25日金曜日から28日月曜日まで休み取ったから一緒に行けるわ、帰りに仙台の松島に連れて行っていただける?、ねーぇ、良いでしょう?」 「本当に?、俺もゆっくり仙台見物したこと余り無いから、良いけど、体、お腹大丈夫なの?」

 「嬉しい!、そんなに、心配し無くても病気では無いから、激しい運動さえしなければ良いのよ」・「・・リュウ!レースクイーン達に手を出せないね..冗談よ」 「ワァー残念だな!なーんてね、・・本当に俺嬉しいよ!、行ってから体調悪かったら我慢せずすぐ知らせてね、医者の不養生って言うから、じゃぁ松島の良いホテル予約してね」 「大丈夫よ心配しないで、素敵なホテル、ネットで調べて予約しておきます」 本当に素直な人だ。

   《スポーツ・ランド・SUGO》 Round 8 (Final 09/27)

  いよいよ今年の最終戦sugoへチームクルー達は前日車で出発、俺とヨシ子は28日金曜朝7時に横浜金沢文庫駅を出、横浜、東京へと乗り換えJR東北新幹線ハヤテ8:28分発で仙台へ 「俺達二人だけの電車の旅、初めてだねそのお腹で疲れない?」 ヨシ子は子供の様に楽しそうに 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、何か新婚旅行みたいでワクワクしちゃうな・・ネーネー美味しい駅弁知っている?」 「よく知らないよ、今まで旅はほとんど車だから駅員さんに聞いたら」 ・・ヨシ子が余り期待して落胆しないよう予防をした 「サーキットは、まだ先の宮城県の田舎のど真ん中で回りは畑だよ」

 「大凡のサーキットは騒音で人の生活しないところに在る事は知っているわよ、でもリュウと一緒なら何処でも楽しいしサーキットで歓喜と熱狂の瞬間をリュウと一緒に感じていたいの!私の方がレースにハマッテしまったわ、場内は人々で一杯になり、其々の熱い思いと願いが伝わって来るの」 「そうだよね、一人より皆で分ち合うほうが楽しいよね」 「ところで新婚旅行、体調心配だったり楽しめないから子供が生まれてからにしょう、取り敢えず温泉も良いし箱根が近いから、どう思う?」 「そう、リュウが休み取れるならゆっくりしようか、リュウも休み無しで働き過ぎだから休んだら?」 「好きな事しているから大丈夫だよ」

暫らく流れさる窓外の景色を眺めていたが俺の席の隣に移り 「リュウ随分熱心にPC見ているのね」 電車の中でノートPCでサーキットコースの最速ラインの復習で何回も頭に叩き込んでいた 「あぁ此処のコース初めてだから・・」 ヨシ子は暫らく俺と一緒に画面のSUGOのコース見ていたが俺に寄り添い肩に頭を預け目を閉じて休んでいる日頃の勤めがきついのか寝てしまったのかな?

 そんな中、仙台駅に到着した、ここで又JR常磐線・原の町行に乗り換え名取駅に着いた、ここからチームの竹田君がマイクロバスにて出迎え、宮城県のスポーツ・ランド菅生まで11時少し前に到着後休む間も無く練習だ、

 俺にとって初めて走るサーキットコースとマシーン全て新しい、少しでもコースに慣れる為に練習と調整に休む間も無く午後1時より一般に混じり1時間コースを借りて馴らし運転である、 笑顔で監督とメカニックの二人井原君と孝ちゃんが待っていた、後続隊は明日の夕刻に着く予定だ、

 監督、俺の肩に手を置いて、諭す様に俺とヨシ子を交互に見詰めながら 「リュウ、ヨシ子さん、ごくろうさん疲れていると思うがお昼食べて、今回からソフトタイヤの使用が出来る様になったから、それも兼ね午後から新車のテスト走行、頼んだよ」 「解りました」 監督の話を確認する様に俺はメカニックの二人に振り返り 「井原君、孝ちゃん、お願いします」 二人は笑顔で解かっているよと云う様に応えてくれた、

 監督嬉しそうに優しく 「ヨシ子さん疲れたでしょう、お昼を食べたらお部屋を案内しますから、ゆっくり休んで下さい」 ヨシ子神妙な顔で 「宜しくお願いします、リュウと一緒の部屋ですか?」 「ええ、その様にしてありますよ、それと以前言われました、救急用AEDの件、FJ委員会で扱って頂ける様になりました、元々サーキットには有るのですが、格チーム備える様になりました」 ヨシ子 「そうですか良かったですね、チームの為だけでは無く一般観客にも使えますから」

 孝ちゃんが話に割り込み 「そうよね、これで一人でも助けられたらいいよね、リュウ、スーツやヘルメットは何時もの様にキャンピングカーに有りますから」 ヨシ子すまなそうに 「孝ちゃん、何時も、リュウの世話お願いしてごめんなさい、本当に助かっているわ、ありがとう」 孝ちゃん、ヨシ子に手を差し伸べ「そんなにあらたまられると、照れるじゃない!」

 俺は慌てて話題を変えた 「何時も、ありがとう、助かるよ、ノートPCで何回も学習してコースは覚えたが、初めてだから、孝ちゃん宜しくね、とにかく腹へった、何が美味しい物ある?

 孝ちゃんは、そんな所はちゃんと調べてある 「カフェテリアに、ラーメン、お肉類、カレー、ピザなどありますから」 俺はカツカレーをヨシ子はサラダとピザを急ぎ食べ、ピットに向かう 「ヨシ子、監督に部屋連れって行って頂きなさい、ヨシ子を促がし、俺はキャンピングカーでレーシングスーツに着替え、井原君と孝ちゃんとテスト走行に向かった」road_09.jpg

 早速ピットからニュー・マシーンに乗り込み、孝ちゃんと井原君にコースや新しくなったマシーンの説明を受けスイッチ類の確認、セット方法等復習等沢山ある覚えておく必要がある、また井原君と幸ちゃん二人に安全ベルトを締めてむらい、親指を立てOKの合図、エンジンをスタートさせ、軽快なエンジン音と共にPLリミッターで速度制限してピットロードをゆっくり立ち上がりリミターを解放した、

 先ず1・2周目はコースをイメージしながら第一コーナーより各箇所のブレ-キとクリッピングポイントを確認し、流し運転、孝ちゃんと通信機能の確認取り俺は井原君と孝ちゃんに連絡を取った

 「次の周回からテスト開始だよ、やはりニューはエンジンの噴けもいい、アクセルの反応も数段良くなったよ」 連絡を入れた”フケとはエンジン回転の反応の立ち上がりの事である”、監督とヨシ子もピットに戻り指示に入った様だ

 孝ちゃん心配そうに 「リュウ、ハリキリ過ぎて壊さないでね、出来立てのニュー・マシーンよ、まだ処女の様な物だからね」 俺は本気モード開始 「OK俺好みに育てるよ、少しオーバーステァだがギヤー比は良さそうだ、エンジンも前に比べレスポンス(response反応)が良く噴き上がりが早いよ

 ラン、アンド、ピットを繰り返しスイッチ類の動作確認、リヤダンパーの規定変更の為のダンパー交換や調整それに今回よりソフトタイヤの使用許可でのタイヤのチェックや温度、足回りの調整を繰り返した、1時間半位だろう最後にタイムアタックを3周してベストラップは1’08.341初日にはまあまあだ、

 俺は気になる点を伝え 「井原君と孝ちゃん後の調整は頼みます」 井原君、俺の背中に手を沿え「今日は早めに休んで頭と体すっきりさせて下さい」 「有難う俺、初めてのコースだからゆっくりダブルチェックに歩いて来ます一時間位掛かりますから、・・ヨシ子の事頼みます、退屈だろうと思うからピットガレージに呼んでマシーンの調整見せて上げてね、邪魔だったら遠慮なく言ってください」

 何故か井原君、頬を薄赤く染めながら照れ笑いをして 「いいんですけれど、マシーン整備退屈しませんか?」 ヨシ子に好意を感じているのかな? 「何でも興味持つ人だから運転席コックピットに乗せてあげて下さい、頼みます」 俺は例により歩いてコースのカーブ等、先ほど運転し気になった点を重点的に、目標を定めながら歩いた、一時間ほどでガレージに戻ると

 YoshikoR2.jpgヨシ子が何やら楽しそうに監督やメカ達と竹田君を交え話をしていた、 ヨシ子は俺の尻を見ながら 「おかえり、リュウのお尻意外と小さいのね」 「どうして?」

 何か得意げの顔で 「リュウのレーシング・カーの運転席窮屈でやっと入ったの、リュウのヘルメットまで被りリュウの匂いで一杯だったが、写真まで撮って頂いたのよ記念に取っておいて、・・リュウ見る?」 「あぁー」 「竹田さんリュウに見せてあげて」

 竹田君が俺にデジカメを渡してくれた、5・6枚撮ってあった 「ヘー!俺より決まっているね、まるでプロの様だ!とても可愛くて良く撮れているよ、それで俺に見せたかたんだ!後でノートPCにダウンロードするよ

 「でしょう!凄いでしょう!地面に座っているみたいに低いのね、あんな寝る様な姿勢で良く運転出来るわね、でもハンドル握ると何かわくわくして来ちゃう・・走りたくなったわ」

 俺は笑いながら 「止めてくれよ!ヨシ子が走ったら何処に飛び込むか解からないよ!それより動くかな?」 俺の言葉に怒る訳でもなく、頷き 「そうね、でも走ってみたいなぁー、もっとリュウの気持ち解かるでしょう」

 「今は赤ちゃん居るから駄目だけど、一度ハコ型GT(二人乗り)のレースカーでヨシ子乗せて走らせて見たいな、ジェトコースターより凄いと思うよ、高速カーブでは凄いGが掛かり先生だから知っていると思うが、遠心力で耳の三半規管に影響があり平らな地面が斜めに見えるよ」 子供のように目を輝かせ 「わくわくしちゃう、乗って見たいわ」 「其の内ね」 「約束ね」

ヨシ子背1.jpg ヨシ子は孝ちゃんに向き直り口を尖らせ頬を膨らめ 「孝ちゃんたら、私がなかなか座れないから、お尻が大きいからだって!」 ヨシ子お尻に手を沿え振り返り見つめていた、 俺は其の仕種が可笑しく笑いながら

 「運転席のシートがピッタリ俺に合わせてあるから、車と路面の状態が解り運転し易くなるの、それと此れはね無駄なスペースが全然無いの、重量が嵩むし空気抵抗が増えるから」・・「それに乗るときは、両手を座席の両側の淵で体支る様にして滑り込まないと、座れないよ、馴れないとなかなかね」

 孝ちゃん慌てて 「冗談に決まっているでしょう本気にしないで、ヨシ子さんのお尻小さくキュウッと上ていて足も長く格好良いわよ」 ヨシ子笑いながら 「いいのよ、私赤ちゃん出来たからお尻大きくなったと思って心配したわ!」 俺は幸ちゃんに向かって 「孝ちゃん!余り俺をいじめるから、からかわれたんだよ」 

ほっぺを膨らませて 「もうーリュウまで!」 と云いながら驚いた様子で 「あかちゃん出来たのですか?ヨシ子さん!」 ヨシ子に目で確認を取り・・「リュウおめでとう!」 その場に居た井原さん、竹田君と監督は、笑いながら 「本当ですかヨシ子さん!」 「ええ」 監督自分の事の様に満遍な笑顔でヨシ子の手を掴み振るようにして 「おめでとう!良かったですねー本当に良かった!」

 ヨシ子嬉しそうに 「はい、ありがとうございます!、リュウどう?お尻大きくなった!」 「毎日見ているから判らないよ?変わらないと思うよ、孝ちゃんは女の子のお尻見たって何にも感じないよ!、皆が冗談言うから」 「本当なの?孝ちゃん!」 「私だって綺麗なお尻位解かるわよ!リュウのお尻は魅力的よ」 皆大笑い!? 「俺にトバッチリが来ちゃったよ」

 ヨシ子も和やかに皆に溶け込み、レースカーが状況やサーキットにより色々な調整が或る事を知り、改めて驚いていました 「ねー、リュウ!エンジンって心臓と同じね、弁がバブルでピストンが心室のポンプ機能、肺が過給器と燃焼機関人間と同じね過激に使うと病気なったり止まってしまうのですね」

 「少しの間に良く覚えたね」 「まだ、あるのよ、空気抵抗とか足回りの事とか」 夕食の時も、メカニックに質問の嵐、井原君も堪り兼ね 「リュウは良く知っていますから、もっとRyu.K3jpg.jpg丁寧に教えてくれますよ」

 俺は慌てて手を横に振りながら 「だめ!だめ!、井原君や孝ちゃんの方が解かり易く教えてくれるよ、何にせプロだから」

 ヨシ子真剣な表情で 「ねー、皆さん私うるさい?その時は遠慮なく言ってくださいね」 井原君何か慌てるように  「そんな事無いですよ、むしろ感心しています先生に成る人は違うなと思って」

 孝ちゃん大袈裟な手振りで 「少しでもリュウの役に立ちたくてよ、本当リュウは幸せよ、焼けちゃうわ!」 「又、俺かよ!本当にもう」 監督真面目顔を崩さず 「リュウ、尻の話だけにトバッチリだね」

 さすが監督、すまし顔で落ちを言いそれがアンバランスで妙に可笑しい、皆大笑い、俺も笑いながら 「監督!うまく、纏めましたね!」 俺はヨシ子に向かって 「ヨシ子、明日から本番だからね、皆んなの邪魔にならないように久美ちゃんに聞いて」 俺は久美ちゃんを見ながら 「そうだ!タイムキーパが良いよ、俺の走りチェクして・・監督いいですか?」

 監督ヨシ子を見ながら 「ヨシ子さん、リュウの走り甘くならない様に、確りチェック頼みます・・孝ちゃんの言う、リュウの美尻を叩いてくださいよ!」 皆吹き出すほどに笑った、監督はすまし顔で久美ちゃんに向かって 「タイムの計り方教えて上げなさい」 久美ちゃん、ストップウオッチが三連に並んだタイムボードを持ちヨシ子に示し 「これですね、後で計り方教えます」 ヨシ子神妙な顔で 「お願いね」 久美ちゃん嬉しそうに 「はい」

 俺は冗談交じりに 「監督!まだ俺の尻にこだわっているんですか?」 監督慌てて 「こだわって、いるのは孝ちゃんだよ」 孝ちゃん 「もーう!監督!」 皆、大笑い、本当に笑いを交えた和やかな時を過ごせ改めてこのチームで良かったと思った。

 その後俺達の部屋にヨシ子とクラブハウスに戻り 「皆、本当に良い人達、リュウがこのチーム大事にする事良く解ったわ、明日はリュウの大事な日、解かっていますが今日は何時もの様に私を抱いて寝て下さいね、リュウを確り感じていたいから、ベット少し狭いけどいいですか?」 俺は何時もヨシ子に添い寝をする様にして眠る、

 何時も自分の気持をはっきり云うヨシ子を快く感じている、多分何時別れが来ても後悔の無い様にだろう、ヨシ子の瞳の奥に、強い意志が感じられ訴えるものがあった 「大丈夫だよ、何時もそうしているでしょう?」 そう云えば俺がレースに出かける日には必ず俺の顔が見える真近で見送ってくれた、ヨシ子は無邪気に嬉しそうにして 「うれしい!、レースの時は眠れなくなるといけないかな?と思ったから」 「大丈夫だよ、俺も其の方が最近馴れてヨシ子がいないと寝れないから」 「良かった!」

 俺はヨシ子と知り合ってから何時もこんなに自分の気持ちに正直で素直で有って、俺に押し付ける事もなく本当に可愛い人だと思っていた、そして、今は一人でレースをするのでわなく二人で、いやお腹の赤ちゃんも入れ二人半かな?と思え、しかもスポンサーの事もあり、レースを続ける事にやはりこんなヨシ子を悲しめてはいけないと云う気持ちも湧いて一層気持ちが揺らいだ

 改めてヨシ子が話だした 「私ね、何時もリュウを愛し恋していたいの!それには夫婦の間に我慢や少しの嘘が有ってはいけないと思うの、それが積み重なる事で大事な家庭に孤独を感じたり、不満が積み重なり冷めた家庭になり破局に繋がると思うの、それに子供が生まれたってリュウに私の事をお母さんって呼ばせませんよ、何時までも恋人ですからね」

 「解っているよ、ヨシ子の気持ち素直に云ってくれる事可愛いと思っているし、俺れもそう思っているよ、大事な事と思うよ」

 「私、今回浩子さんと話し合いで考えさせられたの、大半の夫婦がお互い不満を持ちながら伝えられず最後には耐えら無くなり爆発してしまうと思うの、自分だけの思い込みで、こんな事ぐらい解るだろうとか自分の都合だけでその人に採っては大事なことなのに、話を聞かなかったり自分自身に原因が有ると思っていなくて相手に不満をぶっつけているだけなのよ、どんなちいちゃな事でも積み重なれば大きく成ってしまい、だから隙間風が吹き休める処が無くなってしまうの」

 「以前リュウが話した通り、簡単な事なのよ痒い処掻いてむらえば良い事なの、夫婦の基本なのにね、子供が親に甘えられるのは全てを知られているからなのよ、その上何時だって味方してくれるから、そう行った小さい事が大事だと思うわ、結婚してから甘えられるのは夫であり妻で無くてはいけないの、其れ以外誰であってもいけないのよ、その為の夫婦でしょう」

 クー!痛い所つくな 「俺もその通りだと思っているよ」 「其の点、リュウは本心で云ってくれるから大好きよ!、試合前の大事な時にごめんなさいね」 「いいんだよ、俺が一番甘えられ本当に安らぎを感じられるのはヨシ子だけだよ」

 「私もよ、リュウには安心して身も心も裸の自分になれ甘えられるの、駄目な事はいけないと言ってね、押し付けている訳では無いのよ..愛しているわ! リュウ私のお腹に触って!、少し大きくなったみたい」 やはり、そうだ何時又事故が起こり別れが来ても後悔の無いように、又赤ちゃんが成長する過程を母親だけでなく父親の俺にも実感させたく思っているからだ

 いとおしい人だ、俺だってそうだよ、口には出せないが心残りはしたくないよ、直接ヨシ子のお腹を手で触り 「本当だね!少しやっと、この中に俺達の子供がいるだと思える様になってきた、頭で解っていてもこの中で別な命が息きずいていると思うと神秘的で不思議だね!」 だが俺は子供が出来たと、大喜びする父親の様には、今どうしてもなれない俺は自己的で冷たい人間なのか!どうしても余り実感が湧かない、

 「何時もリュウに抱いて頂き、きっとこの子は、何時もお父さんの暖かを感じていると思うわ」 「そうだと良いが..」 「きっとそうよ!解るものなのよ」 ヨシ子は確かめる様に呟いた、俺はヨシ子を後ろから抱きうんうんと頭を振り応えたが子供をもった親父の実感はどうしても感じられない、俺が子供なのか?それではヨシ子にどれだけ悲しませるか、分っているが、何時もの様にヨシ子に触れ温もりと安らかな寝息を感じ、俺も安心出来たのか何時の間にか眠りに入っていた。

Sugo.jpg 翌日サーキットは朝5時頃から賑わい始めていた、各チームのレースカーやメカニック、ヘルパー運営委員、宣伝用商品の運び込み、販売員、華やかなコンパニオン、キャンペンガール、レースクイーンなど続々と集まってくる、皆忙しく動き廻っている、この田舎町昨夜の静けさは嘘の様に活気に溢れている!我らチームも久美ちゃん森田君がスクールの生徒達を引き連れ朝8時に到着、今日は午前10時から1時間フリー走行タイムアタックもあり重要な時だ、各チームの緊張間が伝わってくる、

 我がチーム全員雑談でざわめきながら朝食を取り、監督から例の如くスケジュールや仕事の説明や指示を受け、それぞれ役割に付いた、

 俺はインストラクターの森田君とレースコースのチェックポイントと指導に出かけ、基本的最速コースの採り方や主だったポイントを説明しながら俺自身レースのクリッピングポイントを確認し、森田君に向かって

 「タイトコーナー等を攻める場合は時により内輪を縁石よりコース外に外して走る場合もあるよ、遠心力で内輪は浮き上がっているから、落ちて前輪が引っかかることはないし余りショックは無いよ、前車を抜くタイミングにアウトを攻める振りをしてインを突けるよ・・

 ・・複合コーナーでは最終出口を如何に有利に一秒でも早く抜けられるか、最終コーナーでの立ち上がり、例えば、コーナーを80Kmと100kmとの違いで立ち上がた場合、100m先では20mの差が出来てしまう、実戦では100kmのままではなく110,120と加速も早く、もっと差がつくよ、如何に速度を上げ次の直線に繋ぐかが重要で其れの繰り返しだよ」 と説明、

 森田君は真剣な眼差しで 「スクールで説明されなかった事が沢山有り驚いています」 「スクールは基本、これから実戦で学ぶ事が沢山有るよ、早い人の走りを良く見て違いを早く学び、基本に沿って自分と車の個性と云うか癖に見合った最速コースを見付ける事だね、それと何処を犠牲にするか、何を伸ばすかマシーンと語りメカニックに伝え調整する事だよ、それも限界が有るからね」

 森田君は感心した様に何回も頷き 「はい、良い勉強になりました、此れからその様な目で見ます」 俺はこの子は伸びるな!と思った、いよいよ一般観客も入りだし賑わい始めた様だ、

 ガレージに戻り、ヨシ子に着替えを手伝ってむらいレーシングスーツを着パドックに入った、午前10時からの一回目のフリー走行の始まりである、天候は晴れコースはドライ、ヨシ子からのハグを受けタイムは確り測定しますから、と送られマシーンに乗り込んだ、井原君と孝ちゃんからシートベルトの締め付けと確認を受け、ヨシ子に投げキッスを送りヘルメットを被りグローブに思いを込め感触を確かめながらゆっくりと手を挿し込んだ、

Yoshiko & FJ-1.jpg 無線で監督からの指示 「今年最後のレース思い切り走れ、2~3周回った処でタイムアタックだ準備が出来たら合図をよこせ、よし!リュウ時間だ!」 「はい、思い切り飛ばします!」 井原君と孝ちゃんに両脇から肩を叩かれ、親指を立てグットラックの声を掛けてむらった 「良し!行くぞ!」 俺も親指を立て送り返した、もう俺らには一種の儀式の様な物、

 改めてステアリングを握り締め、メインスイッチを入れスターターボタンを押した、”キュルキュル..フォーンフォーン”腹に沁み込み耳を被うな高回転のエンジン音がアクセルを踏み込むと同時に身体に響き、俺には快く官能的にさえ感じ、野生の血が騒ぎ掻き立てられ戦闘態勢に入り込む・・バッテリーが外され監督のスタート合図を待つ、

 マシーンに乗り込んだ俺の前に立つヨシ子の姿が何時もより張り切っている様で眩しく凛として映り気持ちが引き締られた、右手の人差し指と中指の二本を立て敬礼を送るヨシ子も手を上げ左手に抱えたタイムボードを指差し送りだしてくれた、

 ステアリングに気持ちを込め新たに確り握り締めた、続いてピットレーンリミッターのボタンを押す、監督よりスタートの合図だ、ステアリングのクラッチパドルを静かに放す、ピットロードをゆっくり抜けコースに出た通常モードに戻しピットレーンリミッターを解除、一周目はコースの確認や温度、油圧などのチェックをしカーブのクリッピングポイントやライン取りの確認、徐々にスピードを上げて行く、

 今ではマシーンの状態はコンピューターで送られる、前回の事故の後遺症で恐くなってしまう人もいる様だが、俺は幸い恐怖心も起こらない様だ、此の新しいマシーンは俺にピッタリ、フットする二周した処で、タイムアタックの指示を監督に送る 「次行きます」 ”よし!行くぞ” マシーンに語りかけ、最終コーナーからスピードを徐々に上げメインスタンド前ではアクセル全開ピット前の直線を全速力で走る、コーナー毎にブレーキデスクが真っ赤に染まる、激しいブレーキングとギーャチェンジを行い足まわりとマシーンのバランスをチェック一周しピットに戻る、

 井原君にまだ少しオーバーステヤーである事を告げマーシーンを降りずにダンパーの調節を受け再出発、再アタックだステアリングをポンポン叩き ”今度は頼むよ” とマシーンに語りかけていた、今度はコース幅一杯にクリッピングポイントを正確にコースを飛び出す位に責めベストタイムは1’06.679秒午前の走行ではトップタイムだ前回までのマシーンよりエンジンの立ち上がりも良く新しいボデイのバランスがいい、ドライブし易い此れはいけるぞ!と密かに思った、

 監督も同じ事を感じていた 「リュウやったぞ!トップタイムだ、これなら行けるぞ、午後は無理するな!」 孝ちゃん解っていたよと云うような素振りで 「リュウなら、やると、思ったよ」 森田君も感心したように 「凄いですね、何か尊敬しちゃいます」 井原君は嬉しそうに 「何か他のチームに対して鼻が高いです」

sugo.jpg ヨシ子少し興奮して 「目の前を アッ!云う間に駆け抜けて行くリュウを見て、おもわずストップウォッチ押し忘れるところだったわ、何か胸がキュンとして改めて凄いなって、・・・処でリュウ、前に何が見えているの?」

 俺はヨシ子の質問の意味が解っていた、チームを変わるのか?迷っていると思いこんでいる、今迷いは消えたのか?今後本格的にカーレースの道を歩むのか?何を考え走っているかだ!俺は返事をはぐらかしおどけ顔で 「ヨシ子に決まっているでしょう」 ヨシ子真面目顔で 「私の事など忘れているのに、真面目な質問よ!」 本当はもっと深刻な事を考えていたのだが、其の事には触れず

 「今は未だ何も見えないよ!本番後だね、・・ヨシ子は以外に思うかも知れないが、運転操作は反射的にしているから、コースの直線などは観客席まで見えているよ ”あっ!あそこの席に可愛い人がいるよ” なんーてね」 「もうー!、危険だからレースに集中してね」 「冗談だよ、意外とヨシ子の事や色々考えているものだよ」 「だから!レースに集中して!」 「うん」 此れで質問の意味が解るはずだ!

 「井原君、孝ちゃん、皆のおかげだよ、大変だったね、有難う有難う!それと孝ちゃん!ヨシ子を頼みます、椅子などに座らせ休まして下さいね」 孝ちゃん心得たと云うよな顔で 「解っているわよ、任しといて!」 「有難う」 ヨシ子は俺に向かって 「そんなに心配しなくても大丈夫よ!リュウ病気じゃぁないから気にしないでね、本当よ!」

 俺も本番レースに此れなら行けると思った、気持ち我がチームの皆に誇らしげに笑顔が浮かぶ、監督手をパンパンと響くように叩き、注目させ 「さー皆、お昼にしょう、森田君皆を集めてくれ、リュウはこの後ガレージでサイン会に行ってから、お昼もか兼ねて、2時まで奥さんと休んでくれ2時半から3回タイムトライアルがあるからね」

Ryuサイン.jpg 俺は用意されたサインテーブルで30分程観客やファン達にサインを行い、ヨシ子と食事に行こうと席を立った

 「龍崎さん!」 呼び止める声のする方向に7,8人の若者達が手を振っていた、中の一人が松葉杖を付きながらこちらに近ずき 「龍崎さん、横浜の病院で」 「おぉ!お前か、来てくれたんだ!有難う、確か?」 名前を思い出せずに口ごもるっていた 「西です、其処の友達と来ています、皆サインをして頂きたくて、お願いします」

 「ああ、いいよ、もう足は大丈夫か?」 「はい、リハビリー中です、明日本番頑張って下さい、予選タイム見ましたが、凄いですね」 「あぁ、ありがとう、今日は君たち何処かに泊まるのか?後にいる人、彼女か?」 まだ幼さを残す女性がペコリと頭を下げ 「はい明日も応援しますから頑張ってください!」 

西君は後を向き友達たちに向かって 「皆、サイン大丈夫だからこっちに来て!」 とリーダーらしく皆をまとめていた、 まだ高校生か卒業したと思われる男女を含め七・八人、思はぬ飛び入りだったが、素直に喜んでいる若者達を嬉しく思った

 サインも終わりピットに戻った、我がチームの生徒達や竹田君、久美ちゃん、全員で拍手で迎えてくれた、リュウさん、おめでとう、凄いですね、俺はテレながら 「ありがとう、これからが、本番予選だよ、まだ喜ぶのは早いよ」 生徒の誰かが「私達のチームでは始めてのトップですよ、一流チームの仲間入りこれから私達も希望が持てます」

 皆の顔に明るさとプライドが出て来た様だ 俺は 「本番は明日、皆のピット作業(タイヤ交換や給油等)頼みますよ」 生徒 「そうですよね、責任重大、練習もっとして一秒でも早く出来る様にします」 監督 「そうだよ、皆頼むよ!」 俺はヨシ子と食堂に連れ立った、食事をしながらヨシ子は 「改めてリュウの凄さ解ったわ実力有るのね、だから他のチームからお誘いが有るのね」 「あまり褒められるとくすぐったいよ、本番は此れからだから」 食堂にいた他のチームの人達も、我がチームの席に来て、おめでとうと云ってくれ握手を求めてくれた、

 予選(Qualifying)開始だ!監督・メカニックに送られ一回目1’07.063、二回目R1’06.332、三回目R1’06.635 僅かの差でトップを譲ってしまった、トップは一流チームの外人ドライバーだ、其の後フリープラクテス(FreePractice)をこなし、マシーン温存の為少し抑えて走りこんだ、チームの皆は残念がっていたが、抑えて走った俺と監督には明日の本番には行けると核心していた、チーム全員でサーキットのカフテリアで明日の予定を確認と取りながら他のチームも交えお祭り騒ぎで夕食を摂った、レース関係者の社交場である、

 やはり、前回からのスタートポジションと前回の事故、それに今回の結果否応なしに注目が集まる、中にはあからさまに、あの人よと指差す人や目配りで其の気配を感じた、互いに探りあったり、交流を深めたり、スポンサーと話し合ったり、騒めきで大変だ、

 「さー、ヨシ子疲れるからそろそろ部屋に戻ろう」 「ええ、リュウ凄い注目の的だね、少し疲れたわ」 明日の為に俺とヨシコは早めにクラブハウスに引き上げ風呂に入り早めに休んだ、むろんヨシ子とお腹の赤ちゃんを充分感じながら..。

R-Queen.jpg 決勝当日の朝が来た、曇りで午後からは少し雲行きが怪しく雨になりそうだ、俺達のレースのスタートは午後二時過ぎ午前中は他のレースや子供を交えた企画があり俺達は暇である、朝飯をゆくり摂り、レースクイーンやコンパニオンが興奮気味に甲高い声であちらこちらで話しあっている ヨシ子も少し興奮気味だ 「リュウ良く眠れた?」 「うん、大丈夫だよ」 「リュウ、昨日から注目されているね、視線を感じるわ、リュウの目が泳いでいるわよ、レースクイーンがいっぱいで楽しいでしょう、皆若くてピチピチでいいでしょう?」 「まーね、皆可愛いから目の保養だよ、今まで長い事こんな世界にいる俺だよ、それほど感じないよ、それよりヨシ子ほど魅力有る人は滅多に居ないよ、ヨシ子の方が男の視線感じない?」

 ヨシ子も満更でも無い様だ 「いいわよ煽てなくても、本当に口が上手いんだから、他の人にも云ってない?」 ちょっとヨシ子、怒って見せた 「煽てじゃないよ」 ヨシ子悪戯顔で 「ちょっとリュウをからかっただけよ」 「それよりお腹大丈夫かよ」 「大丈夫よ、ちょとだるかったりする事があるが心配しないで」 「これから俺達のスクールの宣伝ブースに応援に行こうか?」 「ええ、そうしましょ」

 朝から観客も沢山入り始めて混雑して来ている、俺達のメイン・レースの前に色々なデモストレーションや前座レースがある.  我々のレーシングスクールの宣伝ブースでは久美ちゃん始め竹田君、スクールの生徒達がパンフレットを配りながら、説明に大忙しだ、久美ちゃんが俺達を見つけ 「龍崎さんお早う御座います、リュウさんの効果で大分お客さんが集まりスクールの入校や内容を質問してくれます、多分入学希望者が増えていると思いますよ」

K.Ryuzaki.jpg 目ざとく俺を見つけた観客の人達がサインを求め又列になり話も出来なくなってしまい、生徒たちが気を利かし6,7人で終わる様に取り計らってくれブースの奥に隠れるようにして、久美ちゃんがヨシ子に 「奥さん、あかちゃんが出来たそうで、おめでとう御座います、何時のご予定ですか?」 ヨシ子お腹に手を充て 「ありがとう、来年の3月頃だと思いますよ、久美ちゃん結婚は?」 「そのつもりでいますが、まだ竹ちゃんが?」

 ヨシ子怪訝そうに 「そうなの、聞いて見ましょうか?」 久美ちゃん恥じらいながら 「いいです、そんな事!」 「久美ちゃんは結婚したいのでしょう?」 俺は 「久美ちゃんに任して置けばいいよ二人の都合も有るから、あんまりしつこくすると嫌われると思っているから、ヨシ子とは立場が違うの」 ヨシ子怪訝そうな顔で 「そう?そうかな~ぁ、解った!とにかく頑張りなさい」 俺 「そろそろ、部屋に戻るよ、ヨシ子はどうする?もっと別な所見ていきますか?」 「リュウと一緒に戻る、こんなに大勢の人込み少し疲れたわ」 「大丈夫?」 お昼は久美ちゃんにお願いして部屋まで届けて頂く事にした。

 クラブハウスの部屋で久美ちゃんの運んでくれた食事を採りながら ヨシ子やっとほっとした顔も束の間今度は悲しげに 「あまり人気が有り、なんだかリュウが別人のよう、こんなに近くいるのに手の届かない処の人に感じたの」 突飛な言葉に返事戸惑った 「なに!変な事云うの?・・俺だって、病院でのヨシ子は別人に感じ近寄り難い時が事あるよ、其れはプロに徹しているからと思っているよ、お互いプロでしょう、ヨシ子は初めて今回長く居るから色々見えたんだよ」

 「私だめね!病院の事意外全然知らないから、でもね本当に少し悲しかったの」 「なんって言ったらいいか、その気持ち嬉しい様な困る様な」 「許してね、リュウの方が余程大人ね」 「そんな事ないよ、俺が子供だからヨシ子が何でもやらなくてはと思っているでしょう?、今回ヨシ子は一度に一杯詰め込み過ぎだよ、もっと遊び感覚でいたら」 「だって、リュウに少しでも近ずきたくて、後悔..うんうん、いいの」 俺にはヨシ子が云をうとした事が解っていた、あの事故以来何時つも一日々を後悔の無いようにだろう..それには触れず 「凄く有り難いと思っているよ、もし俺が医者の勉強するとしたら、頭が痛くなりとても疲れて出来ないよ、ヨシ子だってそんな事望んでいないでしょう、望まれても俺出来ないよ、それでいいんじゃない?」

 ..改めて年上なのに可愛い人だなと感じていた..そしてソファーに座っているヨシ子を後ろからそっと抱きしめた、ふと、こんな場面何処かにあった様な気持ちになった内容は違うが..あぁ前の奥さんだ、悲しそうな顔の彼女を良くこんな風に抱き締めた、俺が幸せに成る度に思い浮かぶ如何して居るか気になったが..あわてて打ち消しヨシ子のお腹を擦り ”頑張ってくるからね” と心の中でつぶやいたがなんでこんな時に!又同じ不安が襲うレースを辞める時なのか?

 ヨシ子は俺の手をゆっくり外しながら 「リュウ、もう大丈夫だから、大事な試合前にごめんなさいそろそろ時間よ、リュウ着替えなければ手伝うわ」 気持ちを切り替えレーシングスーツに着替え、熱いキスを交わす、よしやるぞ!ヨシ子お腹を擦りながら 「短気起こさないで、充分注意してね、この子の為にもね」。

 決勝レース(Final Race SUGO pm2:30)

SUGOスタート前.jpg 天候は大分悪くなって来た空は黒い雲に覆われ、今にも降りそうである、着替えを終え俺達はピットに向かい、フアンから頑張って下さいと、声を掛けられる、手を上げて応えた、監督と天候とレースの運びを打ち合わせ、「今年最終レースだ、思い切り遣って来い!」 「はい」 ヨシ子と黙って然り抱き合い、ヨシ子を手で押し出すように監督に預け、

 コース上のメカニック達の待っている場所に宣伝用アンブラレを翳すレースクイーンを従えスタートラインに向かう、最前列のポジション、コースのアウト側だ井原君と孝ちゃん森田君達が待っていた、二人に 「ご苦労さん、二人とも遅くまで本当に有難う、凄く乗りやすくなったよ」

 マシーンに乗り込み、俺達の儀式、安全ベルトを確りと井原君と孝ちゃんに何時も様に締めてむらう、相変わらず孝ちゃんの 「リュウ頑張ってね」 を聞きながら、身体を左右に振って安全を確かめる、両者に親指立てOKのサインを示し、今日は何故か自信があった俺は 「任して!チームの為に笑顔で終わる様に頑張るよ!」

孝ちゃん.jpg 孝ちゃんはニンマリしながら 「リュウ絶対チャンスだからね、ものにしてね、愛してる!グットラックよ!」 二人に両脇から肩を叩かれヘルメットとグローブを被り、孝ちゃんはドサクサに紛れなんって事を! 「孝ちゃん井原君有難う、でも孝ちゃんダメ..」 「もうー粋じゃないよね!解っているわよ!行ってらしゃい、頑張ってね!」 親指を立て 「オッケイ!」 のサインを送った、

監督&ヨシ子・ピットにて.jpg エンジンスタートの合図でメインスイッチを入れエンジンスタートボタンを押した、相変わらず腹に沁みる快い振動とエンジン音が響く、全ての人達が退き、

 指定された回転数バーンアウトにセットする、スタートのグリーンランプが点きペースカーが走り出すステアリングペタルでシフトアップしアクセルを踏み込む、トップに続き、サーァ出発だ、第一コーナーを回り蛇行運転タイヤに熱を入れ地面との粘着度を高める、同時にタイヤ圧も高める、監督からの指示が入る「リュウ聞こえるか、調子はどうだ、どうやら、雨が降りそうだ」 「マシーンは順調です、雨ですか?」 「タイヤ交換時期は後で知らせる、頑張ってこい!」 「ハイ、了解!」 一周でペースカーが抜けスタート位置に付く。

 いよいよ、本番だ何時もより落ち着いているが、毎回今まで何回スタートを迎えた事か?何回経験が有ってもこの待ち時間ほど嫌なものはない、何故か、ヨシ子、監督、竹ちゃん、孝ちゃん、他のチームの人達やレーサー達、の顔が浮かぶ、皆の努力に報いなければ、敵は自分自身の心の中だ!、先ず自分に勝つ事だ、と何時ものように自身に言い聞かす、辺りは13台一斉のエンジン音で他の全べての音がかき消されているはずだ、13台最後のマシーン全車が整列した、

リュウヘルメット1.jpg ヘルメットと耳栓を兼ねたイヤーホンで覆っている、だがエンジン音は聞えてる筈だが、俺はスタートシグナルランプに集中している為か、静寂そのものだ、俺の動作は今までの経験と各レースの度、何回も頭に叩き込み尚ミスの無いように工程を確認しマシーンのスイッチ類の設定を行っている、ドライブモードをドライ通常スタートに切り替える、ただ異常に心臓の鼓動の高鳴りが聞える、ステアリング・クラッチパドルを右手人差指と中指で引き左シフトバドルでギヤーを入れる俺の心の中では全てがスローモウションを見ている様だ

  赤いスタートランプがゆっくりと1・2・3....4と付き始め5個全てが付き、次の瞬間、現実に戻る、全てのランプが消え、ブラックアウト、スタートだ!

 反射的にステアリング・クラッチを放しアクセルを踏込、スタート俺のレースマシーンが動きだす 「よ し綺麗にスタート出来た、行くぞ!」

 パドルで2速3速とシフトアップ、同時にアクセルを床が抜ける位、踏み込む、この一連の操作はレースで身に付いた経験で、無意識の中で最良のタイミングで行われる、すでに其のとき全ての不安は消えスタート第一コーナー.jpg去り、獲物を追う闘争心の塊一匹の黒ヒョウに変わり、ひたすら第一コーナーを目指す..トップのマシーンが焦り、アクセルを踏み込み過ぎタイヤをスリップさせ僅かに出遅れた様だ、幸い俺はコースのイン側をキープしトップで第一コーナーに入る事が出来た 「よし、行ける」

 俺はすかさずイン側ぎりぎりに入り込み、正確にクリッピングポイントを目掛けて急速なブレーキング同時にシフトダウン、幸いライバル車も無く、

 前回の事故での恐怖心も無く、左右に微妙なハンドル捌きで何の影響も躊躇も感じず冷静に第一コーナーを駆け抜けた、前回俺自身の運転ミスで起きた事故では無かったからと思う、次のコーナーまでの間にペダル・スイッチを通常モードに戻す、バックミラーで後続車を確認、素早く計器類に目を移し異状がないか、確認する

 其のままトップをキープ後ろでは、順位の入れ変わる激しいバトルが始まっている、もう一度バックミラーで確認する、

 順調に最終コーナーを立ち上がりメインスタンド、ピット前をトップで通過、監督から 「いいぞ!其のまま焦らず慎重に行け!後続は離れ始めている」 「はい、了解!」 2番手はマシーンの調整が少し悪かったのか?実力は十分ある、油断は禁物と自分に言い聞かせる!

 7周め辺りから、とたんに空が暗くなり霧雨が降り始めた、俺と2番手は後続を大分離し始めていた、監督から 「タイヤ交換の準備が出来ている、何時でも良いぞ」 俺は路面が少し濡れ始めていたが、雨はそれほど降らないと、判断した「監督!此のまま行けます」 監督「そうか!用意は出来てる、状況に応じて何時でもいいからな、後続は交換に入った」 俺はピットに入らずそのまま続行した、

 「はい、連絡します」..何時もと勝手が違う、やはり俺はハンターだ、そして俺の祖先も狩人だったのではないか?..ふとそう思った、前に追う車がいないと何か不安になる、追い詰める、あの快感が無く、今度はマシーンの心配ばかり、バックミラーや油圧計、水温計、エンジン音に心が行く、監督から 「ラップタイムが落ちているぞ」 の連絡が入る..此れではダメだ、ベストラップをたたき出す気持ちで集中して挑まなくては!、又監督からの連絡で他車はレーンタイヤに交換し始めている10周目で2番手はタイヤ交換に入った様だ、

 気持ちに気合を入れ、コーナー、ギリギリまで攻め込み、ベストラップに闘志を湧かす!少しでもタイヤ交換の時間を稼ぎ出したい、俺はマシーンが少し滑りだしたので14周次の周で入る事にした 「給油も同時にするから」 と連絡をオーバーテイク.jpg入れ、ピットイン、皆手初めての生徒も居るのに馴れた手つきでタイヤ交換や給油を行ってロスタイムも余り無く出発来た、

 ピットロード出口トップのままコースに戻れたが二番手が真後ろに近ずき盛んにアタックして来る、アウトに出たり、インに入ったり、上手く押さえ暫くバトルが続いたが、ニュータイヤの表面も剥け路面に馴染み始め、オーバーテイクを使い少しずつ離す事が出来た、..やはり俺は此のバトルが好きだ、俄然闘志が湧く..

 幸いその後雨も余り激しく降らず回復に向かっている、コースに水溜りも出来ず、順調の周回を重ねた後続車とは14秒程の差を付け39周めに再び給油とタイヤ交換に入る、順調に運び其のままトップをキープする事が出来た、ベスト走行ラインをなるべくキープする事に勤め運転がラフにならない様に勤めた、

 後はマシーンが順調である事を願い走るのみだ!..何て!不安な事か!思わず、マシーンに呟いてしまう ”頑張れ!もう少しだから機嫌良く頼む!” ..雨も止み始めコースのコンデションも良くなり、監督の興奮した声が聞こえる 「よし!よし!よし!が繰り返し聞こえる、後続と10秒以上離れている、慌てるな!後7周だ!良し!」 「OK!了解!」 監督の方が興奮して慌てている様だ、

 今回、何故か俺は冷静でいる余り興奮もしない、ただマシーンが壊れない事を願うのみだ、監督は俺の今の気持ちを察してか一周過ぎて又連絡が入る 「リュウ後残り6周だ、そのまま行け!」 何か監督の方が興奮しているようだ、

 此れ程残り周回を長く感じたことは無い後6周か!マシーンを労わり、いよいよラスト5周も終わり、ファイナルラップ62周目だ、観客が手を振る、騒めきが手に取る様に解る、最終コーナーを立ち上がる待ちに待ったチェッカーフラグが俺に向かって振られている、一度もトップを明け渡す事無くゴールが出来た、初めて感情が湧き上がる 「ヨーシ!やったね!有難うありがとう!」 ピット側すれすれにチェッカーを受ける。

 右手を突き上げ俺達のピット前を通過、クルー達がジャンフしながら手を振って居る様子が、解る、「ありがとう!」 後は言葉がでなかった 監督から興奮した声で 「良く遣った!良く遣った!」 監督も声がイチオクターブも上がっている、一周ゆっくりと、コースをまわる後は観客に右や左の手を上げながら、声援に応える、 やっと優勝の実感が湧いてきた、

 所定の位置にマシーンを止め上に乗り立ち上がり両手を力強く挙げ観客に応え、勝利の挨拶を送りおもむろに車から降り労わる様にマシーンのフロントカバーに手を置き 「ご苦労さん!ありがとう」 と思わず呟いていた、チームクルーから背中や肩をメチャクチャ叩かれ祝福の洗礼を受ける 「ありがとう、ありがとう」 井原君と幸ちゃんを目で探し胸の処で手を握り締め ”やったよ” と挨拶をおくる

 体重検査の為部屋の中に入り、体重計に乗り検査を受ける、監督とヨシ子が待っていた、ヨシ子は俺を見つけると駆け寄り抱きついてきた、受け止め抱き上げながら一回転し 「やったよ!」 ヨシ子の目が涙目で光って見える 「うんうん!リュウ凄いよ凄すぎる!良かったね、おめでとう」 俺はヨシ子の頭に手を充て 「うんうん」 と答えながら監督に目をやり 「監督!有難う御座います!」 監督の万遍な笑顔で迎え 「良くやった!これから表彰式だ、行こう」

 孝ちゃんも涙目で 「リュウおめでとう、良かったね!ヨシ子さんずーと力が入って、両手を合わせたり握り拳作ったりして祈っていたわよ」 俺はヨシ子を笑顔で見つめ 「そうだったの?」 ヨシ子バツが悪そうな顔で 「そんな事ないわよ、少しは力入ったかも知れないけど」 尚も孝ちゃん笑いながら 「自分では解らない物なのよ!リュウの為に一生懸命だったわよ」

 俺はヨシ子の頭の手を有難うの思いを込め軽く叩いたり撫で回した、ヨシ子は髪の乱れも気にせず興奮状態 「孝ちゃんや、井原さん、森田君の方が応援、凄かったわよ、飛び上がったり、手を握り締め、良し行け行け!て、生徒達もすっかり興奮して、もうリュウの虜よ」 「休み無く、俺の為に色々調整、して頂いたから、井原君や孝ちゃんのお陰だよ、ありがとう」 ヨシ子は頷きながら 「そうよ、井原さん、最後の5,6周なんてエンジン壊れないように祈っていたわよ」

 表彰台に上がり優勝のトロフィーを大会委員長から受け、その他にも、もうこの業界では新人と言う年齢では無いが新人賞(ルーキー・オブ・ザ・イヤー)も受けた、嫌いなインタビューで俺は戸惑いながらも 「天候とピットインのタイミング監督の指示が良かったし、メカニックの調整力に助けられドライブしやすかったチームの皆に感謝しています」 どうにもインタビューは苦手だ、今年このカテゴリー全てのレースが終わり、幸い年間チャンピオンのインタビューがあり、俺へ質問は早々に切り上げインタビューは年間チャンピオンに向かい助かった。

 興奮して疲れた顔のヨシ子から 「少し疲れたから、部屋に戻るわ」 「解った直ぐ行くから、久美ちゃんに送ってむらいなさい、無理するなよ」 少し心配で有ったが 暫くもみくちゃにされて挨拶に追われた、此の後懇親会や今後のレース方針などに参加し、又皆にもみくちゃにされる前に早々に引き上げる事にした。   

 主だった人々に挨拶して監督やチームクルーにお礼を述べ、宜しくお願いして、妻が身籠り中で有り疲れが出た様で、先に帰ることを告げた、竹田君に最寄の駅(名取)まで送って頂き、車内で流石に疲れた様でヨシ子は言葉少なくまだレースの興奮に沁たっている様だ、俺に寄り掛かっているヨシ子に 「大丈夫か?」 「ええ少し疲れただけ、丈夫よ」 ほっとした、正直俺は普段のレースドライブが終わった事と余り変りなく優勝の実感は余り無かった、ヨシ子は俺の肩に寄り掛かり名取駅に着き、竹田君に皆さんにお礼を伝える様にお願いして、宮城県松島に向かった。

タッチおじさん ダヨ!.jpg  エエ!此処まで来たんだ、最後まで読むか!..此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【Story12】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-21是非お読み下さる事お願いね


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編9】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

 ☆=Story【前編8】からの続きです、是非下欄【前編9】をお読み下さい=☆ 

 《ツインリング茂木サーキット》 Round 6  

 8月7日朝から ムゥとした暑さを感じる、何時ものようにヨシ子と海の公園でジョギングを終わり、互いに背中合わせに腕を絡み俺の腰を曲げた背の上にヨシ子を仰向けに持ち上げ何度か屈伸運動のストレッチを繰り返したのち、俺の背に海老反のまま乗ったヨシ子は苦しそうに話しかけた、

 「リュウ!今日から行くのね、気を付けて」 なおその体制のまま話を続けた 「フゥー・・・後から日曜に海斗君達と行きますからお願いね ・・フゥ・・ また寂しいなぁ」 息を詰まらせ話しかけるヨシ子を背から降し 「たった二日だよ、竹田君が日曜の朝7時に病院まで迎えに行くから必要な事は彼に遠慮なく伝えて」 なおも俺は 「それに何度も云う様だが 今日も蒸す様な暑さになりそうだから 充分気を付けてよ!・・・海斗何か心配だなぁー」 余りにも心配し過ぎの俺に腹が立ったのか

 ヨシ子は険しい目を向け 「リュウ!私は先生よ!信じられないの?それに院内カンファレンス(conference)も行っているのよ」 きっと自信なければこんなことはしないだろうと思うが 「そう云う訳ではないけれど・・ただ移動中に・・」以前 前の奥さんが 車で旅行中に突然心臓発作が起き 大事には至らなかったが大変な経験をした思いがあったから ついしつこくなってしまった、

 ヨシ子は慌てて自分の言葉を取り消す様に 「リュウの気持ち汲み取らずごめんなさい!・・充分気を付けますから」 俺も云い過ぎたと思い 「優秀な先生達と思っているけど 救急車ではないし病人を運ぶの初めてだから・・持ち物やエヤコンなど竹田君に指示してよ」

 こんどは明るい笑顔で 「解かったわ!必要な物は用意しますから・・ 心配ありがとう きっと海斗君楽しみに待っているわよ」。

 朝の軽い運動を終えマンションに戻り シャワーを浴び、ヨシ子の方針と言うのか健康志向の朝食は野菜ジュースと野菜サラダそれにソーセージやハム等お肉を加えたもの 何時ものように確り食べ ヨシ子は病院に出勤準備で忙しそうに 「リュウ! 今日と明日は実家に話もありますから あちらに泊まりますよ」 「うん」

 軽く唇を合し 俺より先に出勤するヨシ子は 玄関ドアを開け俺に振り向き手を振って 「気を付けて行ってらっしゃい!」 俺がまだ家の中に居ながら 出勤するヨシ子から妙な送り出しをしてむらうが 何か不思議な気持ちである

 「 俺は 8時30分頃迎えが来るから、それに くどいようだが長い道程 病人を運ぶのだから充分気をつけてね」 「はい!リュウもね」 「じゃぁー 後で」 ヨシ子は後ろ向きのまま軽く右手を上げゆっくり手を振ってヨシ子は出勤した きっと俺に心配するなと云う事か。

 竹田君が予定どおりマイクロバスで家まで迎えに来た、ノンストップで茂木まで運転をする竹田君に向かって 「おはようー よろしく」 運転席に座り笑顔で迎えた竹田君軽く頭を下げながら 「お早う御座います」

 運転席のすぐ後に座った俺は笑顔で迎えてくれ運転を始めた竹田君に向かって 「竹ちゃん 久美ちゃんと旨く行っている?」竹田君はテレを隠すように左手を首筋に充て 「はい大丈夫です 有難う御座います」

 久美ちゃんのあの悲しそうな面影が浮かぶ 「まぁー 俺が云う事ではないが自動車レースの世界華やかな所だから 可愛いくてスタイルの良い子が大勢いるし 色々目に付く人は沢山いると思うが、・・最終的に自分が本当に心から休める人だと思うよ」 「はい」 この何処とはなく曇った返事にはなんとなく竹田君の反発を感じ 俺の手前仕方なく答えたように思えた

 「人は其々だが 外見だけで取り返しのつかない事にならない様にしないと」「・・」 「時々疎ましい思う事が有るかも知れないが、久美ちゃんは 人に配慮が有るし気持ちが優しいし綺麗だし 押し付ける訳では無いが俺は良いと思うよ」

 竹田君は運転を続けながら、神妙な顔で 「はい 今回で尽くづく分りました 反省しています」 だが彼の心に響いてはいなそうだ 何だか口先だけに聞えた、まだ遊びたい時期だろう返事も上の空だ 俺は少しきつく 「何が有ったかは知らないが!中途半端は相手も自分も傷つくだけだよ、間違いはやり直す事が出来るが心の中の傷は一生消すことが出来無いよ」 強く言い過ぎたのか 「リュウさんも以前は・・」 全く彼の言う通りだ

 俺は空かさず 「だからこそ!・・・いや・・男だから解らない事は無いよ、それに竹田君の人生だから」 「・・・」 「でもね一つも良い事なんか無いと思うよ 互いに傷付くだけだよ」 俺の反論に逆らってはいけないと思ったのか 「はい解りました」 これは駄目だ!今は何を言っても聞く耳は持っていない様だ 口先だけの反抗的返事だった、

 解っていないな・・無理も無い曽ての俺もそうだった、自分に言い聞かす様に 「本当にそう思っているかな?」 「・・・」 それ以上追求はしないつもりだが これだけは伝えたかった 「俺もそうだったが人間は愚かだから経験して初めて判るものだよ、 まぁー その時ではでは遅いと思うよ」 その後二人だけの長い道のり運転も有るので 話題を変え新しいスポンサーを監督と心辺りを訪問しているとの事に話を切り替えた、

 今わ不況で中々良い返事は中々頂けないなど監督から竹田君も頑張っている事等聞いていることなど話が弾んだ、途中休憩を取り12時頃茂木サーキットに付いた。

もてぎbrick-img.jpg 時間どおり孝ちゃんが万遍な笑顔で迎えに出ていた 「リュウ 久しぶり」 得意のウインクを俺に向かってしながら 「車の準備出来ているから、それから監督からの伝言 午後からテストと調整走行1時から予約とって有るとの事よ、先ずお昼でもどうぞ」 俺は 「孝ちゃん 何時も良く気が付くね有難う」 孝ちゃん肩をすくめ 「リュウの為だものー」

 俺達はフードコートに向かいながら幸ちゃんに尋ねた 「1時からかテストか!あまり時間ないなぁー、監督は?」 「監督達お昼終わって、相変わらず井原さんとパドックで渋い顔をして話しているわよ」 孝ちゃん、演技抜群で両手の指を丸め眼鏡を作り顔に充て監督の顔を真似て顰めて見せるそれだけで聴く者を和ませる

 俺は他のチームの事が気になり孝ちゃんに尋ねた 「何処かのチーム来ている?」 「あーぁ、リュウは初めてだから知らないと思うけどぅー 他のチーム今回此のサーキット2回目になるからぁー 今夜辺りから準備に入ると思うわよ」 両手を広げ首をかしげてみせる、俺は竹田君と顔を見合わせ、孝ちゃんの相変わらずのオーバーアクションに苦笑い 「そうだよな!・・じゃー竹ちゃんと急いでお昼食べて直ぐ行くよ」 報告の終わった幸ちゃんも忙しそうにパドックに向かう、

 俺達は後ろで何時もより少し控え目に立っている竹田君と供にフードコートに入り、カフェでボリームの有るサンドイッチとコーヒーを注文、竹田君と他のチーム状況を冗談交じりに話しあいながら、昼食を済ませ急いでレーシングスーツに着替えて監督の待つパドック(paddockとはレース前の車の整備や準備をするところで各チーム其々区切られて並んでいる、レース中にタイヤ交換や給油修理など行い其処からレースコースに出られる場所)に急いだ。

 俺はパドックの監督と井原君に向かって挨拶、左手を軽く胸の辺りまで上げ 「監督!井原君!ご苦労様です」 井原君は笑顔で会釈、監督は相変わらずキビキビ手際よく予定をこなす、

 監督はマシーンを見詰めながら 「リュウ走行予約時間だから直ぐに乗れ」 井原君 油で汚れた手を拭きながら 「ご苦労様!」珍しく笑顔で積極的に俺に挨拶をし、コックピットの中への乗り込む俺を井原君は何時もの様に手慣れた動作で手伝い 「気候も暑いし極端なブレーキ箇所も多いから、もっと風が入り易い新しいブレーキダクトに取り変えて置きました」 とマシーンに手を加えた個所の説明を加えた 俺はレーシング マシーンに乗り込み 「本当に良く気が付いて助かるよ有り難う!」

 俺はドライビングシートに滑り込み楽な姿勢を確かめながら納まりの良い位置を決め、井原君を見上げもう一度改めて 「井原君の云う通り此処のサーキットはブレーキ使う回数が多いから助かるよ!・期待通りのドライブしなくてはね」井原君は ”大丈夫だよ!” と云う意味で親指を立てて見せた、車の調整の事は無論だが 何時も俺からの一方通行が初めて井原君が明るく俺に話しかけてくれた事の方が嬉しかった、例の如く孝ちゃん ヘルメットとグローブを俺に手渡しながら色っぽく 「リュウ気を付けてね!」と声をかけ何時もの様に井原君と共に安全ベルトを確り閉めてくれた この二人灰汁は灰汁を制すると良く云ったもので なかなか気が合っている。

 エンジンをスタートして快い排気音を残しピット・ロードを出た、サーキットのコースは普通の公道路面よりタイヤの接着率を上げる為 ヤスリの様な荒い路面になっている(モナコの様に公道サーキットは例外である)全面改造が無い限り 走るコース自体も変りませんが部分的補修により滑り易い所 食いつき易い所等 多少変化が有り縁石も修繕して変っている所がある、先ずはコーナー付近のチェックを兼ね 数回ゆっくりとコースを走り次第に全力走行に移った。

 監督から無線交信のチェックも兼ね 「タイトコーナーが多いから余り速度を落とさず 最終コーナーで少しでも早く立ち上がる様に」 監督は矛盾した事を言いやがって それじゃぁコーナー飛び出すよ! と思ったが ”出来なければ辞めちゃえ!” と言はれそうだ、一秒の何分の一でも縮める 其の挑戦がレースだ それに挑み乗り越えた者が勝利に繋がる。

 「交信OKです クリアーに聞えます」続いて小声で「本当!全く難しい注文だよ!・・やってみるしか無いね」 俺の皮肉が聞えたか聞えなかったか解らないが何の返事も無かった、あの監督の渋い顔と苦笑いが浮かぶ、コーストラック三周のチェック走行も終わり パドックに戻り 「井原君 だいぶコックピット暑さが薄れ 運転し易くなったよ、それと2速と3速のギヤー比を一つ下げて下さい コーナーでの立ち上がり少しでも良くしたいから」

 何処の業界でもそうであるが 営業と技術者の対立がある、ドライバーとメカニックの対立も多いなか 井原君は俺の一言々を静かにかみ締める様に聴いてくれた 「解りました 前のドライバーの好みのままで調整したので直ぐに直しておきます」何時でもそうだが自分

の好みやドライビング方法を的確にメカニックに伝える事が重要になる

 其々ドライバーの癖や好みが違う たぶん 俺も機械いじりが好きで論理的に相談するからだろう、井原君は本当に静かで 冷静沈着とは此の人の事を云うのだと思った、それ以上に最近は笑顔が見られ 技術的相談や彼自身の考えも打解けて お互いの考えのぶつかり合いもある そればかりか実際にテストで証明し合う様になった、 

 「ありがとう それと此処のコース直線が短く少ないからダウンホース前後とも少し気持ち控えて下さい、普通ならダウンホースを増しグリップを良くする所だが 俺の気持ち的に立ち上がりと短いストレートのスピード増したいから試してみようと思って 幸ちゃんごめんね」 孝ちゃん右手にラジェットスパナを握り空転させ胸の辺りでジーイジーイ音を立てながら俺に近づき 「普通はカーブが多く食いつき良くダンフォース加えるのにリュウはハッキリ指示してくれるから助かるわ リュウの為だもん 調整しときますー」話しながら俺にウインクする 俺は監督に向かい 皮肉と冗談交じりに 「監督から難しい注文だから」 監督も元レーサー俺の皮肉には乗らず指示が飛ぶ 「リュウ!今日はもうテスト時間が無いから明日だ、ゆっくり身体休めとけ!」 言葉はキツイが顔は笑っていた 俺は首を窄め 「解りました」また メカニックやチームのクルー達が笑顔で受け止めている 本当に良いチームだ 。

 俺は井原君の肩に手を置き 「井原君と孝ちゃん、後調整頼みます」 孝ちゃん嬉しそうに 「今回もキャンプングカーで寝泊りですよね?」 「あぁ・・そうだが?」 「一応窓を開けて空気入れ替えてベッドも特に綺麗にしたから」 俺に伝えながらウインクを送ってきた 「ありがとう、相変わらず孝ちゃんは気が利くね ホテルの部屋より 休まるよ」「変わり者だね でもリュウの為だもの」と笑顔で答えた 幸ちゃんに向かい 少しきつい様だが念を押した 「俺 結婚したんだよ!」 幸ちゃん両手を握り胸の処で拳を作り力を入れ、両手を小さく上下に振りながら小さなジャンプも加え 「もう!寂しい事云うのね!念を押さなくても解かっているわよ!」 「ごめん!」 何故かなんの理由もなく 幸ちゃんに謝っていた、こうした事には慣れているのだろうか すぐに笑顔に戻り 「あぁーそれに・・子供のレーシングスーツ置いてありますから」 俺は少し可愛そうと思ったが冷たく 「ありがとう じゃぁー 先に休むよ」とキャンピングカーに乗り込み まだ話足りなそうな彼を残し 車のドアーを閉めた 何か罪悪感交じりの息をフーと吐いた、

 奥のベットの脇の小窓の縁に俺のレーシングスーツと海斗の小さなレーシングスーツが並んで掛けてあった、これも孝ちゃんの配慮だろう 小さくても本物そっくりのスーツに思わず微笑んでしまった、大小並んで余りにも可愛いく感じ和みを感じ 海斗のレーシングスーツ姿を思い浮かべ 暫らく眺め寝る事にした。

 翌朝、キャンピングカーの外から監督の声が聞えた 「リュウ!起きているか?入るぞ!」 俺は眠気まなこでドアーロックを外した 「はい、おはようござ監督.jpgいます」 監督すっかり身支度を整え車に乗り込みながら 「おはよう、リュウ例の移籍の件本当に良いのか?家のチームでは故障やミスで壊してしまっても予備のマシーンも無いぞ」 余りにも単刀直入に訊ねてきた、これほど早く噂が流れていることに驚き 俺は途惑いながら

 「勿論判っています!・・迷惑ですか?」 俺は開き直る様に答えた 監督 真面目な顔で俺を見詰め 「リュウ! 冗談じゃぁ無く せっかくのチャンス何時でも良いんだぞ、俺だったら迷わず移籍するよ」 俺は確り監督の目を見て 「もう止しましょう決めたんですから 監督だって 同じ様な事が有ったら移籍出来ないくせに! お願いします、・・それと 子供服ありがとう御座いました」

 監督は俺から目を離し暫くボンヤリ窓の外を眺め適切な答えを模索しているようだ、それから俺に向き直り 「かもな よし 解かった!」監督は自分に言い聞かす様に「 もっとスポンサー見つけなければ・・・リュウ 10時からフリープラクテスだから ドライビングスーツに着替える様に、・・先に行って待っているよ」「はい、スポンサーの件 竹田君にも聞いています あちこちあたっていると聞きました、有難うございます」「あぁー なかなか見付からなくてな」監督はそれだけ云うと俺の肩をポンポンと軽く叩き行ってしまった 確かに監督はクリエーティブ(creativ-名伯楽)な人だが 今のご時世 中々スポンサーを見つける事は難しい 。

 パドックでは各チームも集り始め、俺は早速移籍の話のあったチームを訪ね其処の監督に移籍の件丁重にお断りした 一流チームの監督すでに其々の事情や他のチームの内情は調べてある事だろう、内心はどの様に考えているか判らないが 「龍崎君何時でも相談に乗るから その時は迷わず来なさい」話は聞き取れないだろうが 全員一斉に このチームの人達の鋭い目線を感じる 「はい 有り難うございます」 丁重に頭を下げ 我々のチームに戻った。

 我がパドックでは生徒達を全員引き連れ 北原監督は実戦教育に忙しく指導をしている、監督は俺が他のチームから戻った事を確認する様に俺を見つめた 俺は左手の親指を胸元で立て続いて無言でOKマークを示し 監督の了解の顔を確認し 忙しく働いているメカニック達の処に向かった

 メカニック達はマシーンのセットアップに 営業の竹田君はスポンサーとスクール宣伝のブースの準備に忙しそうだ、俺は彼らに軽く挨拶をして 気持ちを落ち着かせる為にコースの再チェックをすることにした、今日も朝から気温も湿度も高く暑いコーナーやタイトなカーブが多く ブレーキに負担が掛かりシフトチェンジの回数や加減速が激しく運動量が多くこう暑いと体力とドライバー技量が試させられる所だ!。

 いよいよタイムアッタクの時間だ、motegi.jpgパドックでマシーンに乗り込み、3回挑戦し一番早いタイムを取る、今日は路面温度30度それに加えて湿度が非常に高い、マシーンにも俺にも過酷だ!、井原君、幸ちゃん両メカニック、笑顔で揃って親指を立て発進準備よしの合図、何事も無かったかの様に冷静な監督からの無線通話 「リュウ聞えるか?締まって行くぞ!」 「ハイ!」 俺は答えながら手で準備OKの合図を送り、監督からのタイムアタック開始の合図がありパドックを出た!、

 ・・コースに出2周目から激しく挑戦、他のチームのマシーンもアタックが始まっている、やはりかなり過酷な暑さだ!レーシングスーツ内は汗が流れてぐっしょりだ、今回はマシーンの立ち上がりが良くなり好タイムが出そうだ、2回目のトライ1’35.347でスタートフニッシュラインを通過、それを見て監督 「よし!よし!リュウ2番手のタイムだ、良くやった」 3回目は暑さで集中出来ず少しタイムは悪くなった、マシーンを降りた俺は監督に向かい 「監督、ブレーキにもっと冷気が入る様に井原君に改善してむらいましたが、とにかく今日のこの天気、マシーンも俺も凄く暑くてたまらないす!集中力が途切れてしまいますよ」 何処のチームも同じだろうが、初めての俺の愚痴、監督は黙って聞いて厳しい顔を崩さず 「うん・・・!」とだけ考え込む様に答えた、俺は今朝の引き抜きの事を思い出し ”しまった” と思った、なんて軽率な態度に出てしまった事を少し後悔した。

 1回目のタイムアタックが終わり、スタッフ全員大喜び、孝ちゃん俺の手を取りピョンピョン跳ねながら 「リュウ、こんな事初めて嬉しいよねー」 「井原さんと孝ちゃん、夕べ遅くまで調整していたからとても乗り易くなったよ、ただ今日の天気暑くて最後までもつか心配だよ」 井原君下向き加減に一点を見詰めぼっそりと 「何とかするか」 俺を見てニッコリ笑った 「うん、又午後にたのむよ」 井原君手でOKマークを作りマシーン向かった、2時から2回目のタイムアタック1’33.977少しタイムを短めたがやはり、2番目だ、明日のスタート位置はトップラインの外側だ、明日はフリー走行が有るが 順位の入れ替わりがあるかもしれないがマシーンを温存する為直接本番決勝レースに望む事にする。

 一夜明け今日は決勝レースの日だ 予想通り順位の変更は無かった、海斗の来る日でもある 何故か今朝から小ちゃな恋人を待つように不思議とワクワクして心が躍っている!何がこんなに俺の心が躍らされるのだろうか?あの純粋な目で俺を信じ慕い、あの憧れの眼差しか?自分でも不思議に思う、・・長い道のり大丈夫かな?とにかく待ちどうしい!、午前中フリー走行が有るので朝コースの下見をしてメカニック達と食事を取った。

 孝ちゃん嬉しそうに 「リュウ、コックピットも暑そうだから井原さんと余り効果は期待出来ないが、もっと冷気を取り入れられる様に暑さ対策したよ」 たぶん監督からの指示だろ 「何時も二人共良く働いてくれて助かるよ、ありがとう・・監督は?」 「久美ちゃんと生徒達とで宣伝ブースへ行っているよ」 「じゃぁ、監督と打ち合わせに行ってくるよ、井原君!孝ちゃん!・・ありがとう!」 井原君照れ笑いをしながら ”解っているよ” との思いだろう、手を上げ応えてくれた 「マシーン頼みます、今日は特に暑いので少しでも効果ある事を期待しているよ」 これから行われる決勝レースの展開で無論このタイムならトップを狙える、無論その為の打ち合わせを監督とした。

 我がチームやスクールの宣伝に忙しそうな久美ちゃん達をからかいながら宣伝ブースの手伝いをして気を紛らせ海斗達の到着をまった、お昼少し前に孝ちゃんから、ヨシ子達が付いたとの知らせでサーキット内のレストランに向かった、

 車椅子に点滴用器具と酸素ボンベを付けた元気そうな海斗の姿見つけ、ヨシコと浩子さんの笑顔を見付けホットした、二人に会釈し車椅子の海斗に近づき 「海斗、来たか!疲れたろう?」 海斗は、あたりを興奮したような目で見回し 「リュウ、平気です凄いですね」 長い入院生活がそうさせたのか相変わらず言葉使いが丁寧だ 「そうか、冷たいジュースでも飲んでから案内するよ、とにかく暑いからヨシ子も浩子さんもレストランに入りましょう」

 ヨシ子はチームのロゴの入った帽子にチームのTシャツ・ストレッチスキニーデニムパンツ涼やかな目に大きなサングラス、機能性を重視したスタイルの良さと賓のある顔立ちは俺の自慢である、浩子さんは黒色に大きな翼にリボンの付いたスカラハット、ノースリーブで胸元が大きくV字開いたマーメイドラインとでも呼ぶのか体に添ったタイトで太ももまでスリットの有るロングドレスにその上派手な鏡の様に反射する黒のサングラスを掛けていた、弥が上にも人々の目を引くナイスボデイである、おもむろに辺りを見回し、レース場は初めてであろう、其々の目的の車や、用品、お土産、食料等を求めて賑わっている人々を見回し驚いた様に 「ビックリするほど沢山の人達ね、時々雑誌や写真みる事あるけど、こんなに凄いなんって!」 俺の方が浩子さんにはビックリ!しかしそれにしても妖艶な好い女だ! ヨシ子は得意げに説明をした 「ええ、この賑わい何時もなんですよ」 

 ヨシ子、浩子さんを横目に嬉しそうに 「リュウ 予選どうでした?」 「予選13台中2番目だよ」 浩子さん一つも聞き漏らさない様子で即座に質問してきた 「龍崎さんはそんなに成績良いのですか?ビックリしました」 ヨシ子得意げの顔で 「そうよ!一流チームから引き抜きが有ったのよ」 「もうー」気軽なヨシ子の言葉を制したが  「本当の事だから いいじゃないの!」 海斗は自分の事のように「リュウは絶対やると思ったよ」 「おぉ!海斗ありがとう、ヨシ子も浩子さんもお昼にして下さい 此れから忙しくなりますから」 俺はヨシ子に顔を向け 「ヨシ子!海斗大丈夫なの?」

 海斗を見守りながらヨシ子は竹田君にお礼の言葉を述べた 「大丈夫よ竹田君が気を使ってシートをリクライングさせ旨くベッドを作って寝かせたくれましたから助かりました、流石にレーシングスクールの皆さん運転お上手ですね、海斗君は少し興奮しているが病気も気持ちの持ち方で少しは左右する様で何にか元気になったみたい、でも充分気を付けるわ」

海斗ワー.jpg 各チームのパドックを車椅子を押して通り過ぎる 「ワァー!ほんものだ!すごいよ!」 「海斗、楽しいか?」 「はい」 「レースは何が起きるか解からないから最後まで見てちゃんと学びなさい、皆努力して勝利を掴み取ろうと頑張っているんだよ、後でリュウの乗るマシーンに乗せてあげるよ」 「ほんとう?嬉しいな早く見に行こうよ!」

 其処から車椅子をUターンさせ食堂に向かったが、海斗は食事より車や設備を早く見たそうにしていた 「海斗、お昼ちゃんと食べてからだよ一つずつちゃんと守らないと元気に成らないよ、リュウもお腹すいたから確り食べて力付けるから」 「はい」 ヨシ子は海斗の血圧や脈とり診察しながら何を思い出したのか、きっと以前俺が話しをした ”腹が減っては戦が出来ぬ・・と思うが” あの時の意味でクスクス笑って 「リュウはこれから戦が始まるからね」 と言いながら俺を見上げウインクをした、

 俺は浩子さんに向かって 「お口に合う物が有るかわかりませんが、夕食迄長いので十分採ってくださいね」 浩子さんハイと返事をしてヨシ子と連れ立って食事を選びにいった、やはり二人が立つと目立つ食堂にいた人々の目を奪っている。

 早めの昼食も終わり海斗に取っては見る物が全て本物、少し大分興奮気味だ、俺は心配になりヨシ子の顔を見た、俺の心配を擦し 「リュウ 心配しないで海斗君は脈拍も血圧も大丈夫よ」

 海斗の為に暫く休息を採り、俺のキャンピングカーでレーシングスーツに着替える事にした、海斗の驚きの顔を早く見たい気持ちで海斗を車椅子から抱き上げたが意外と体重が軽くビックリする!、海斗は何の躊躇いもなく手を俺の首に回した、何と暖かく柔らかく弾力が有る、こんな感触初めてだ嬉しそうにしている海斗の顔に思わず頬ずりがしたい思いに駆られた、何だろうこの気持ち?心の底から抱き締めたくなるが海斗が壊れてしまうだろう、その海斗を抱いたままキャンッピングカーに入った、

 海斗、見る物全て珍しくあちらこちら見回し 「わぁー これがリュウの居る所なの?凄いね!」 「そうだよ、これ俺のレーシングスーツだよ それにこの小さいの誰ーれのだ?」 車中のベッドに海斗を腰掛けさせ海斗に説いた、海斗は目を丸くして 「もしかして・・・僕のですか?」 期待を込め俺を見詰めた 「そうだよ、チームの皆からのプレゼントだよ」 「本当ですか?頂いても良いのですか?」 直ぐには信じられない顔をしていた 「海斗のだよ」 海斗の表情は一段と輝きその目は一層キラキラと輝きを増した 「リュウ ありがとう! 本当にありがとう!」

リュウ.jpg 俺はヨシ子と浩子さんを呼んで 「海斗を着替えさせて下さい」 浩子さんは不審な表情で俺を見ていたがヨシ子は以前スーツを注文した事を知っていたので意味が直ぐに判ったのだろう、ヨシ子は俺に了解の合図を送りキャンピングカーに浩子さんを招き入れ急かすようにキャンピングカーに乗り込んだ 「浩子さん、中に入りましょう」 海斗が嬉しそうな笑顔を見せ 「お母さん、リュウがスーツプレゼントしてくれたの」 浩子さんは珍しいのか不思議そうな顔しながら、海斗の小さなレーシングスーツに目を移し驚いた顔で 「龍崎さん、こんなに気を使って頂き有難う御座います」

 浩子さんは軽く頭を下げた 「堅苦しい挨拶はもう止しましょう、これチームの皆が協力してくれましたから」 ヨシ子は俺を援護する様に 「そうよ楽しみましょうよ、海斗君着替えるでしょう」 俺は車の中が狭いので 「じゃぁ、車狭いから着替えるまで俺外で待っているよ、着替えたら呼んで」

 俺は海斗の着替えを待っている間にも観客にサインを求められ応じていた、海斗の着替えが終わり浩子さんに抱かれて、得意げな顔で出てきた 「おぉー海斗!カッコいいよ決っているね!」 海斗テレているが嬉しそうな笑顔だ 「リュウありがとう」 俺は親指立て 「海斗 決まっているよググッグーだよ、今度は俺が着替えるからそこで待っていてね」 浩子さんと車椅子に戻った海斗を残し

 俺とヨシ子が交代、着替えに車に乗り込みドアを締め一歩踏み入れた途端 ヨシ子が俺の首に手を回し抱きついてきて軽いキスをして 「逢いたくて 寂しかったわ!」 家を出てそれほど日にちが経っていないのに 「実家で何か遇ったの?」 そのまま俺に密着し見詰め 「いいえ ただ逢いたくて、それとレースの後で報告があるの 着替えましょう手伝うわ」 「どうして後なの?」 「いいから心配しないで・・良いことよ」 俺は其のとき勝手に結婚式の事だろうと思い それ以上質問しなかった がヨシ子の態度が後で解る事になる。

 レーシングスーツに着替え、外で待っている、海斗と一緒にパドックに龍崎 健司.jpg行くことにした、海斗は俺と一緒に歩くと言い出した、俺は救いを求める様にヨシ子に目を向けた、以外にもヨシ子からOKのサインがあり 俺は海斗を抱き上げ 地上に立たせた 海斗は少しフラついたが大丈夫のようだ、それよりなんの疑いも躊躇も無く俺の手を確り握り懸命に俺に従い歩いた、

 俺の顔を嬉しそうに見上げる瞳は信頼に溢れて 見詰る瞳は青く澄んで喜びにキラキラ輝いている・・なんだろう? この小さな手から柔らかく暖かい何とも云えない温もりが俺の心を弾ませ じんわりと心に伝わる、何だろう この暖かさ この仄かな感激 説明が付かないが心がワクワク踊っている?・・そんな俺自身に戸惑い驚く!なんで?胸がこんなに熱く感じるのだろう?

 例の如く ファンにサインを求められ又囲まれてしまった、仕方なく海斗を抱き上げ車椅子に戻しサインに応じた、浩子さんもこの観衆や初めてのレース場の華やいだ雰囲気に興奮している様子 「龍崎さんて凄い人気ですね」 海斗も自慢げに嬉しそうに見ていた 5,6人サインをして 「皆さん御免なさい もう時間が無いので又後でお願いします」

 俺は後ろに振り向き浩子さんの耳元で 「・・・浩子さんの事も皆さん憧れの眼差しで見ていますよ」 照れ笑いをしながらも まんざらでもなさそうだ 「まぁ!龍崎さん お上手ね」 俺は追い打ちかける様に 「本当のことですよ」 実際にヨシ子と浩子さんが並んでいるとキャンペンガールやレースクイーンとは違い本当に男達は皆 場違いな場所に舞い降りた鶴でも見ている様に 二人の雰囲気に圧倒された眼差しで通り過ぎて行く

 海斗1.jpg車椅子を押し海斗をパドックに連れて行き、約束の俺達のマシーン(車)に海斗を抱き上げ運転席のシートに座らせて上げる、海斗が大喜びで 「リュウ、凄い、凄いよ!、僕も早く運転したいな」 感激の表情で俺を見上げる 「そうだよ、今度はリュウと競争だね」 「駄目だよ、リュウに絶対負けるから」 「どうして?まだ海斗は戦いもしないうちに、負けちゃうの、駄目でしょう!此れから海斗は元気に成りリュウを負かしてチャンピオンにならなくちゃ、リュウ悲しいな!さっきも言ったでしょう、何でも最後まで諦めては駄目と約束したでしょう」 「リュウ判った約束するよ」 「約束だぞ!」 「はい」

 監督も嬉しそうに俺たちの会話に目を細め来ていたが 「リュウそろそろ時間だぞ 準備に入れ!」 「はい、よし気合を入れて行くよ!・・海斗、交代だ!」 海斗を抱き上げ親指を立てた、海斗はリュウに笑顔で応え 「リュウ、頑張ってね!」 「おぉ」 そのまま海斗を浩子さんに抱き渡し、暫くヨシ子と監督を交え雑談をして気持ちを落ち着かせて、俺は無言でヨシ子に目で ”行って来るよ” の挨拶を送り、ヨシ子は俺の目を見ながら微かに顎を引き小首を振った、それだけで二人には全て心が通うじ合っていた、迎えに来たチームのグリッドガール(レースクイーン)に宣伝用ビッグ・アンブレラを差されスタートラインに運ばれたマシーン(車)に向かう。

 既にレースのスタート位置に運営委員やオフィシャル各チームのメカニックやレースクイーン報道関係者が集まっている、俺は気持ちを落ち着かせ大きく深呼吸をして予選順位順に並んでいる二番目のマシーンに乗り込んだ、例の如く井原さんと孝ちゃんに安全ベルトを確り締めて頂き、両側の脇から肩を叩かれグットラックの声を掛けてくれた、俺も親指を立てステアリング(ハンドル)を確り握り締めた。

 監督から無線チェックを兼ねた声がヘルメットの中に響いた 「リュウ落ち着いて行けよ」 「はい」 フォーメイションラップだ、エンジンが掛けられ全チームのメカニックや関係者達が立ち去る、先導車に従い全車順次走り出す、ウォーミングアップの為時々蛇行運手をしながらタイヤを暖める、油圧、水温のチェック、一周して先導車がパドックに入るがレース車両はそのまま予選順位の従い各スタートポジションに

      ・・・・ (ここからこの小説の冒頭に記したレース場面に入る)・・・・・

リュウヘルメット.jpg 俺は二番目のスタートラインに付く、外側の最前列だ、前には前車や遮る物も無いが、今度はやけに後ろが気になる、エンジン音が一斉に高鳴るがこの待ち時間は俺にとっては、毎回の事で有るが集中の為か何も耳に入らず静寂だ!俺の心臓の高鳴りだけがやけに大きく感じる、

 この緊張間、何回経験した事か全く馴染めない実際は数分の事だろうが俺にとって何と長い待ち時間、それに各コックピットに収まったレーサー達の目が爛々と輝き燃える様に迫る俺は彼らの威圧を緊緊(ヒシヒシ)と感じる、此のときばかりは皆、獲物を狙う孤独のオオカミ達であろう、最後尾のマシーンもスタートライン付いた。

 いよいよだ!スタート合図のシグナルランプがつき始める1,2,3,4,5全て付き、次の瞬間ブラックアウト全て消える、スタートだ!同時にクラッチバドルを放す、タイヤが白煙を上げ廻り始める、もう一度クラッチを引きながらシフトアップ、アクセルを床が壊れるほど踏み込み第一コーナーに傾れ込む、

 旨くトップを押さえインに付く、コーナーぎりぎりで今度は思い切りブレーキング、フロントのブレーキデスクが熱をおびて真っ赤に染まる後輪も真っ赤に焼けているだろう想像できる、すかさずギア(gear)をシフトダウン同時にエンジンブレーキと併用する、

 その瞬スタート事故1jpg.jpg間何か後ろから押されマシーンが回転し舞い上がった、空と地上が逆さに見えた瞬間 強い衝撃を受けそのまま意識が無くなった。

 後は関係者から総合的に纏め、第一コーナーのエスケープゾーンの砂地に真逆さまに着地したマシーンの下から駆けつけた係員とオフシャル(official)の人達の助けにより俺を引きずり出し、ちょうど其の頃監督とヨシ子が駆け付けた、

 ヨシ子は私は医師ですからと関係者に伝え、俺の脈を取り呼吸を確認してヘルメットを外し、頭、首、胸、腹、腰、手足を順序良く、手のひらでさすり押さえ負傷箇所の確認をした 同時に監督に救急車を要請した様だ 係り員が無線でレース場内の救急車を呼ぶ、

  ヨシ子の何時もより冷静を装う様な際立った声で 「何処にも骨折も出血は無さそうね 多分後頭部の強打により気絶と思いますが 無闇に動かさないで下さい!」それから常にレース中待機している医師と救急車いる事の知らないヨシ子は少し取り乱した様に一際高く「誰か近くの病院に連絡を取って下さい!」と叫んだ 待機していた救急車と救急隊員が直ぐに到着 ヨシ子先生はあまりにも素早い対応に驚いた様子だが直に理解した、其の後幸いコース上を外れていたのでレースを中断される事も無く、俺の事故車も取り除かれレース用のペース・カーも安全を確かめレースを中断する事なく続行した。

もてぎ観衆.jpg 事故を見ようと集る観衆、サーキット内の救護班も直ぐに到着し外科の専門ドクターも見え、ヨシ子先生の診断通りで茂木駅付近の整形外科の病院に運び込まれた。

 其処の整形外科医のベッドで俺が目覚めたのは30分足らずと思われる、母と思ったのはヨシ子の声の様だった、でもあの小ちゃな女の子は何だ!・・

 やがて完全に意識を取り戻した俺にあらためてヨシ子の確認の診察が始まった 「リュウ、深く深呼吸して見て、・・何処にも痛み感じない?」 「うん」 「はい!もう一度深く息をすって・・どう痛い所ない?」 「大丈夫だよ」 「次はお腹出して」 ヨシ子は俺のレーシングスーツのジッパーを全開に下げ、胸や腹をあちこち、手のひらの指先を揃え押して

 「痛くない?」 と真剣な表情で質問してきた 「痛くないよ」 「両足の爪先、動かして、痺れた所はない?」 ヨシ子に診察を受ける何って変な気持ちだ、つい 「しびれた処?ヨシ子先生にだよ」 ヨシ子は冗談と気が付かず 「うん!私ではなく?・・・リュウ!」

 気が付いたようだ、すこし怒ったような声で 「ふざけないで冗談では無いのよ!、本当に危なかったのですよ!如何なの?」 「大丈夫だよ」 「次は両手握って、開いてー、どう異状ない?」 「どこも痛くない・・普通にできるよ」 

 少し安堵の表情を見せ 「自分でレントゲン室まで移動できる?」 「あぁ少し痛いが 出来るよ」 此処の老先生だろう 「大丈夫か?自分で起き上がる事が出来るか」 此処の医院の寄り掛かったら倒れてしまいそうな痩せたお年寄りの先生の助けをかりたが意外と力があり助かった、レントゲン室に移り直ぐにX線の検査を受けた。

 首や背骨を重点的に、何処も異常が診られなかった改めて脈拍と血圧を測り 「良かった、此処の先生と首から下のレントゲンを検査をしたのですが何処も異常が無いようよ、まだどこか痛みがある?、体全体を診察ましたが今の所、内出血もなさそう、はれた処も無い様ね、異常を感じたら直ぐ教えてね」

 先ほどまでの甘えていたヨシ子ではなく完全にドクターだ 「先ほど横浜の私の所の病院にベッド予約入れましたから、今日は其方に泊まり翌日、頭と脊髄のMRIとCTスキャンをします、リュウ分りましたね」

 何時もなら大丈夫だからいいよと云うところだが、おもわず!夢の中で金縛りの出来事を思い出し 「MRI!磁力が!」 「エッ!MRIやCTがどうかしたの?」 ヨシ子は不思議そうに俺を覗き込む!

 「CTは放射線・・MRIは・・磁気が・・」 「リュウどうしたの?・・へんな人 MRIは頭等に向いているのよ」 「いや!べつに・・判りました先生、それで海斗達は?」

 思わず先生と応えた俺とヨシ子の会話が可笑しく感じたのか先ほどまで心配そうな孝ちゃん笑いながら俺を見て 「先生か!だよね・・・」 引き続き俺の心を察し

 「そうだ!海斗くんの事ね、・・リュウが最後までレース見なさいって 約束だからってリュウの事心配でたまらないのに唇噛んでホントに動きそうも無かったですよ、 かえってその方が私達に都合が良いので其のままレースが終わるまで浩子さんとチームの皆さんとで観戦して頂いています」

 「そうか、海斗はもうレースを見る機会が・・」 俺は軽率な言葉を慌てて飲み込んだ 「俺はどうやら大丈夫、海斗も大丈夫そうだから皆を待ってからにしょうよ、良いでしょう?ヨシ子」

 ヨシ子も今は落ち着いて 「ええ、そうしましょ浩子には海斗の緊急処置話して有るし、何かあったら電話する様に伝えてありますから皆さんが戻るまで暫らく此処に居ましょう」 此処の老先生に許可を求める様にヨシ子が見詰めた 「その方が良いだろう、ここで休んで居なさい」

 監督は安心した表情をみせ 「リュウ、大丈夫そうだから、サーキットに帰って後片付けに戻るよ!終ったら竹田をまわすから」 俺は頭を下げ 「監督!心配をおかけしました・・あと宜しくお願いします」 「心配するな!暫らく休め、レース終ったらなるべく早く竹田君と海斗君達を此処に寄こすよ」 と言い残し病室を出た

 孝ちゃん、唇の所に両手を合わせ静かに近づき 「リュウ、本当に心配したんだから、缶コーヒーとソーダ水置いていくよ」 「ありがとう、相変わらず気が利くね、コックピット涼しくなったか判らない内に終わちゃって井原さんにごめんと伝えておいて、皆にも大丈夫だから宜しく言って」 「伝へておくわ」 幸ちゃんは監督を追う様に病室をでた。 老先生も診察も済み続きの母屋へ戻った。

 暫らくは、ベッドの上の俺とヨシ子だけになった 「リュウ何処か痛みと腫れてきた所無い?」 ヨシ子が余りにも真剣な表情なので少しリラックスさせようと思い「痛みは安全ベルトの跡くらいかな、腫れてきた所は・・ここ!」 俺の股間を指差した 俺は先生の張り詰めた緊張をほぐしたかっただけだが、ヨシ子は呆れたように少し怒って見せた 「バカ!もう本当に心配したんだから、お腹とか胸よ 内出血が有ったら本当に恐いのよ!」 「ゴメン 大丈夫だよ 何も異常無いから」 もう一度 俺の体を調べながら 「何処も無いのね 良かった!」

 ヨシ子はやっとホットした顔になり、ベッドのクランクを廻し 俺を起し缶コーヒーの蓋を指先が痛そうに開け 俺に渡しながら 「本当に驚いたんだから 震えるほど恐かったわ、私の方が心臓止まりそうだったわよ!、駄目ねこんなに冷静さを失うなんて!・・さぁー コーヒー飲みなさい」 緊張が解れたのか缶コーヒーを渡す手が小刻みに震えていた、ヨシ子の手を握りながら 内心もう止めて欲しいと言いたのでは?それをじっと我慢しているかなと勝手に想像してしまい、美奈子の時の事が甦り またレースを辞めなければと 言い知れぬ不安が襲った!

 俺は自分の不安を打ち消すか様に 「有難う心配かけて御免!・・そうだ! レース前に話があるって?」 ヨシ子はベットの俺の膝辺りに頭を預け、俺の手を握りながら 「こんな時に告げたく無いけれど」 「いいから話してくれよ」

 暫く考えている様子で、思い切った様に顔を上げ 自身のお腹を擦りながら「・・リュウ 出来たの! ハッキリするまで言えなかったが 少し前から体調が変だったの・・で昨日 産科で調べていただき 3ヶ月だって、きっと最初の日か二日目にリュウと結ばれた時と思うわ」 嬉しそうに俺の顔を窺うようにしている、

 「出来たって?・・子供?・・本当かよ!・・夢の続きじゃ無いだろうな?」 一瞬そう思えた!、ヨシ子は不安そうに 「女にはなんとなく解るのよ」 ヨシ子怪訝そうな顔をして 「ゆめって 頭 大丈夫!」 俺は正直レースを続けられるか否か正直それどころではなかった、それに現実に目の前に赤ん坊がいる訳もなく如何のように表現してよいのか?  正直 他人事の様で驚きも喜びも感動も感じられなかった 多分 俺の想像だが若さが衰え何かを伝えたく思った時に初めて感じるのではないか? 他の男たちはこの様な時どの様に思うのか? 唯 当惑だけが残った。

Formura-RYy1.jpg この仕事をしていると 生きている実感が危険と隣合わせで肌で感じられ 今のこの様な事は まだ夢の中の出来事の続きではないか?本当に俺は目覚めているのか そんな錯覚に陥りそうだ!

 もしもこの俺が死んだら俺の子が生まれようが周りの者がどうなろうと、喜びや悲しみを感じる事もこの世の行方も全ての存在が無だ! この世の中が俺の世界から消えてしまう 一体俺の存在とは何んなんだ!夢の中のあの子に引き継がれるのか?

 今は亡き有名なF-1ドライバーの言葉を思い出す レース中に神を観た!と語っていた事があるが その事を思い出していた?、人によってはそれも有りうる様な気がする 何故この様な考えが浮かんでしまったのか 俺にも解らない?。

 ヨシ子は不安そうな顔つきで俺を見ている 「うん後で話すよ、さっき気が付く前に変な夢見ていたんだ!それで」・・「それより俺に子供?..何か実感がないよ! 如何して何時の時か分るの?」

 俺は子供と聞かされ、それほど戸惑いも無かったが ハッキリ云って他人事の様に感じ 本当に自分の子供に対しての実感は湧かなかった、それが俺達に取って重大な事は理解していた 俺が何を思うが受け入れ無ければならないと思った事も確かだった。

 大喜びする男もいるが そんなに嬉しく思うのか 今の俺には解らない?、正直自分の家庭や子供?そんな事考えも及ばなかったから まだ俺には遠い先の事と思っていた、

 俺の気持ちを察したのか不安そうに 「もっと喜ぶかと思ったわ!・・リュウ嬉しくないの?」 ヨシ子の実感だろう 本当は子供が出来た事を喜べば良い事は解っているのだが、

 俺はヨシ子に悪いと思ったが、今の本当の気持ちに正直に答えた 「嬉しいとか?嬉しく無いとか?本当に実感がないんだよ!」と俺もバカ正直応えたものだ! 「中には子供で繋ぎ留め安心するカップルもいるだろうが、俺はただへーそうなのと受け入れるしかないのが本当の気持ちだよ!」 

 ヨシ子は少し落胆した様であったが俺を非難したりはしなかった、直ぐに表情を明るくして 「・・男は実感湧かないよね自分のお腹ではないからね、皆 本音はそうだと思うわ、リュウは何時も本心で言うから心にも無い事を云はれるよりその方がいいわよ・・それより・・お腹触る?」

 「え?どうして」 と質問したが 慌てて訂正した 「うん」 俺は余り無関心ではいけないと思い慌て ”うん” と言い返した、 ヨシ子は立ち上がり 服の上から俺の頭をお腹にゆっくり引き寄せた、俺は耳をヨシ子のお腹に付け 暫く聞き耳を立てた、

 ヨシ子を見上げ「何も解からないし聞こえないよ・・?」 「フッフ!気が早いのね まだよ・・此れから少しずつ大きくなるの」・・「それにリュウは自分の夢を追っていて まだ夢を失っていないから、子供への期待も夢も湧かないのよ」ある意味ヨシ子に採って、俺も子供 私の子供が二人なったと思っているのが実感だろう。

  思わぬ事故に耐えているヨシ子を凄く愛しく切なく感じ その上今 子供の事を知らされて、以前の妻の事柄がよりいっそう甦りまたもレースを辞めなければならないかと急激に不安に駆られ 思わず俺はヨシ子を抱き締めた、何も言葉が浮かばず俺は・・只々、不安を押し隠す様に幾度となくヨシ子のお腹に頭を押し付ける事しか出来なかった。

 ヨシ子は 俺の不安を感じ取ったのか優しく俺を抱き締め 「リュウ、解かっているから良いのよ、何も云はなくて・・・解かっているから」 かえって、優しく慰められる様にヨシ子のお腹に俺の頭を優しくそっと押し付け

 「良いのよ、安心して私は大丈夫よ、此の子が出来たからと言ってリュウにレース辞めてとは言はないわよ」 何か不用意に発した俺の言葉を反省し、ヨシ子を此れほど、愛しく切ない思いを感じた事はないと思った、もっともヨシ子が俺と結婚を決意した中に子供を作る事が重要な目的でもあったのだろう、そんな事は俺も解っていたはずだ!でも余りに俺に取っては早過ぎた。

 ヨシ子はなおも明るさを装い 「それに体調の変化はあったが、子供の事、私にもあまり実感湧かないの、でもね此の子がリュウの事、確り感じていると思うから」 ヨシ子は俺にお腹を触らせる事で、無意識に俺達の子供を少しでも俺に意識させたかったのだと思う 「うん、子供に解かるのかなぁー?」

 「そうよ、リュウの子ですもの、少しずつお腹大きくなったらリュウも実感するわよ、リュウと出会った事も不思議なのに、リュウの事が堪らなく好きになり、新しい生命が生まれたのよ、その小さな細胞が二つになり四つになり八個になって徐々にDNAによって遺伝子が形成されてやがて二人の魂を受け継ぐのよ、性は生なの大切な命なのよ、リュウと出合った事も奇跡なのに、なんって神秘的なんでしょう・・・きっと此の子がリュウを守ったのよ」

 やはり、こんな時も説明が医学的だ、リアル過ぎるがそれだけヨシ子の真剣さがわかる、本当に俺の子供が出来たのだと!、俺に理解出来る様にの配慮だろうが俺にはピンとは感じず それより俺は夢の中での子供の出来事を思い出しそれを重ね合わせ 「本当に神秘的だね!」

 自分でも意味不明な事を口走っていた 「俺もそう思うよ・・と云うか、信じた方が俺とヨシ子とお腹の子が幸せにいられるよ、だからヨシ子の云う通り此の子が俺を守った事信じるよ」 ヨシ子は呆れた様に 「もう!素直じゃあ無いから、これは現実よ!もう!理屈屋なんだから!」 少し怒っている素振りをみせた。

 本当に実感は無く 「俺、形ちの無い物は信じられないが、今回だけは違うよ!そんな気がする きっと女の子だよ、あの夢もそうだから!」

 そうか、俺の何処かで子供は邪魔になりレースを辞めなければならなくなる恐怖があり、それがあの夢の赤ちゃんとなって現われたのかもしれないと思っていたが、又俺の潜在意識の中に子供は女の子が良いなと思っていたからなのか?、それにヨシ子を失いたく無いとの思いも強く有ったからあんな夢を見たのか?

 ヨシ子は俺が今回の事故に遭って、子供のことと混乱しているのではないかと思ったのだろう、優しく

 「今は調べれば簡単に子供の性別は判りますが、まだ男の子か女の子か聞いていないわ、フッフッフ、リュウの希望的観測ね女の子が欲しいのね」 「かもね」 そうか、もし子供が出来るのなら女の子がいいなと無意識に心の奥底で考えていたのかも知れない

 「ねー、リュウの見た夢って!詳しく聞かせて」 「俺も理解できない事が多くて整理して後でゆっくり説明するよ」

 「夢って理解出来ないそんなものなのよ、でも聞きたいわ後で話してね、リュウの心の奥底の潜在意識が見えるかもね、冗談よ」 「うん、何時だって全て俺の気持ち知っているくせに」

 「どうかな? 私、感じたのリュウの海斗を見る目お父さんの様だった、さっきほど後から見ていて浩子も感じていましたよ、海斗君があんなに懐き甘えて本当のお父さん見たいだって、将来のリュウの姿見えた様で嬉しかったわ」

 俺は海斗が懸命に俺に手を差し伸べる仕種を思い浮かべ 「何んだろうね?海斗・・何のためらいも無く其れが当然で有る様に何の躊躇も無く心から信頼して、俺の手を握って来るんだ、マジ俺、子供は煩くて嫌いだったよ、でもあの感触・・何とも云えないよ、小さくて風船見たいに弾力があり軟らかく温もりが有り笑顔で無心に俺を見詰める、全てを信頼し懸命に握って来るあの小さな手」 ・・あの感触を思い起こすように、俺は手のひらを眺めながら・・

 「ヨシ子とは又違った愛しさを感じるよ」 ヨシ子は嬉しそうに 「それだけリュウの心に余裕が出来たのだと思うわ、良かった!もう直ぐ会いに来るリュウと私の子供に優しく出来るね、私も確りしなくては今のリュウを選んだのだから」 ヨシ子はもう一度訊ねた 「ねー、気絶している時に見た夢ってなに?知りたいわ」 「うん・・・」

  暫らくすると、海斗の興奮した甲高い声が聞こえてきた、レースも終わり竹田君と久美ちゃんが、浩子さんと海斗を連れ戻った、浩子さんは心配そうに 「もしかして駄目かと思いましたが監督達に伺いまホットしました、本当に大丈夫なの?」 ヨシ子が医師の立場であろう自分のお腹を擦りながらそれに応えた 「今の所、この子のお蔭で奇跡的に何の異状もないようよ、横浜に帰って精密に検査しないと」 子供の事はレース場に来る時にでも話していたのだろう、浩子さんほっとした様に 「ヨシ子が付いているから大丈夫と思ったが、よかったー」

 浩子さんは車椅子を俺のベッドの脇に押して海斗の顔を真近に寄せた 「リュウ、やっぱり大丈夫だったね信じていたんだ!でも・・心配だったんだ、リュウが最後まで見なさいって」 海斗の中では、きっと俺はウルトラマンか仮面ライダーそんな何かだ! 「そうか、レース面白かったか?」 「うん、リュウが一番だったのに後ろの奴は汚いよ!」 「海斗!それは違うよ俺が後ろなら同じ事に成ったかも知れないよ」

 海斗は大きなめをもっと大きく見開いて 「リュウはそんな事しないよ!」 「海斗、俺も皆もレースをしている人は皆勝とうと思って戦っているのだよ、避けられない事も有るんだよ」 「デモ」 「海斗、デモはいけないでしょう、リュウの事応援してくれて嬉しいけど、相手の車もダメージを負ってしまい相手の人も死んでしまう事もあるんだよ、皆フェアプレイで戦っているから、さぁーお腹空いただろう?何処かで美味しい夕飯食べて帰ろう!海斗は何が好きかな?」

 竹田君久美ちゃんと心配そうに後ろに控えていたが 「キャンピングカーから龍崎さんの着替え持って来ましたから、それと久美子、龍崎さん達が心配だから一緒に横浜に行くそうです」 「ありがとう、ご苦労さんお願いするよ、着替えて直ぐに行くから車で待っていてよ」 俺はベッドから降りようとしたが、検査の時までは緊張で打撲の痛みを余り感じ無かったが痛みが出てきたようだ、滅多の事に痛いとは言はないが思わず「いたたた!」 ヨシ子思わず俺に手を貸し 「大丈夫?着替え手伝いますから」 ヨシ子が診察室に残り俺の着替えを手伝ってくれた、

 着替えながら海斗の事で世話になり、竹田君や久美ちゃん達の事もあって、俺は相談も兼ねてヨシ子に尋ねた 「竹田君達、今日朝から海斗君や今回の俺の事故事で大変だったから、何処か二人を横浜に泊めて上げようかと思って、どう思う?」 「二人一緒に?」 不思議そうに尋ねた 「あぁ、あの二人もうーとっくに出来てるよ!」 「それでしたら良いとおもいますよ」 「ヨシ子、二人の為に港未来のホテル予約取ってよ」 二人の事を話したばかり、ヨシ子は察しが良く 「分ったわ、一部屋でいいのですね」 「ああ、海斗君や俺の事で迷惑掛けたからお礼のつもり」 「リュウって、優しいのね、こんな時まで」 俺自身の事で大変な時にと思ったのだろう 「俺、監督に許可とるから連絡入れるよ」 携帯から監督に 「リュウですが」 「おぉ、大丈夫か?」 「はい、少し痛みますが大丈夫です、それとマシーン(車)どうですか?」

 「そうか、余り無理するなよ、井原君が調べた処やはりチャーシ(車体)に大分皹が入り駄目だそうだ、ダメージの個所の写真撮って明日リュウの診断書と保険会社に掛け合って来るから」 (皆レース前に車もドライバーもピットの中で働いている人達に普通の保険より、かなり高いが掛けてある、車が作業員の中に飛び込む場合もあり何処で何が起るか知れない)

 「そうですか、宜しくお願いします」 今後レースが続けられるか、不安が過ぎったがそれには触れず 「それに今回海斗くんや俺の事で大変で竹田君達遅くなりますから、今晩横浜に泊めていいですか?明日久美ちゃんと竹田君休ませて頂けますか?」 監督暫く考えている様子だったが 「そうだな、明日は事務所は休みにするから大丈夫だ、あの二人此処の処休まず働いていたからな、俺からもゆっくり休んで来なさいと伝えてくれ、・・それとスクール名で領収書むらって来いと伝えてくれ」

 「ホテル代は俺の気持ちですから」 監督変わらず低い落ち着いた声で 「そんな心配はいらないよ、今回事故でのリュウの付添経費の一部だから保険請求するから心配するな」 やはり経営者回転も速い俺には経営なんて無理だな!兎に角レースを中断する事が残念だった 「はい有難う御座います、やはりマシーン駄目ですか・・休みの件二人に伝えておきます、また後で」 監督は俺を気使ってか 「残念だろうが それより大きな怪我が無くて良かった 気を付けてな!」 ヨシ子もホテルの予約出来た様で、ここの医院の老先生に挨拶をすませ、俺達は横浜に向かった。

  途中で夕食を取り、海斗は、興奮してレースの話で夢中だったがさすがに疲れ、マイクロバスの倒したシート席でベッドを旨く竹田君に作って頂き、すやすや寝てしまった。

 海斗の母浩子さんは、今までに無い別世界を見その上、俺の事故、海斗の生き生きし輝き興奮した別の顔、全て初めて体験を一度に味わい、何から話して良いか戸惑いながら言葉少なく 「海斗が何時までも子供と思い気が付か無かったわ、別な面を知り、何時に間にこんなに成長して居たのかビックリしているの」 ヨシ子は自分の考えが正しいと確信したのか 「海斗君なりに、お母さんを自分の病気で苦しめて悲しませていると思い、反って浩子に気を使っていたのよ、今日、本当に浩子に甘えられる子供になったのよ、あれは駄目此れは駄目で浩子が悲しい顔ばかり見せていたから」 浩子は反省するように 「気が付かなかったわ・・・そうよね」 と ぽつりと洩らした。

 俺はなんの思いも無く、自分の過去の経験からヨシ子より浩子さんに助け舟を出していた 「もーう、浩子さん解かっているよ!、此れは長く看護した人しか判らないよ!」 ・・以前、俺もどんなに投げ出したく思った事が有ったか、誰に訴えてもお前の奥さんだろう、当り前と云はれるのが落ちと決め込んでしまった自分と重ね合わせ 「どんなに疲れても世間からは母親だからて、当たり前だろうって言はれ相談も出来なくなり、口先で ”分るわ” と言ってる人が本当に追い詰められた人をどれだけ解かっているのか?」 どちらでも無く俺の経験を愚痴を交え口走っていた・・

 「老夫婦が妻の痴呆症で疲れはて、何の助けにも成らない口先だけの言葉など要らなくなってしまい、しかも企業である程度高い地位にある人ほど、退職後尋ねる人も少なく、懸命に生きて来た人生はいったい何で有ったのか虚しくなりその上、看護で本当に疲れきり思考力も失い、相手に許しを乞い、泣きながら殺さなければならなく、自分も自殺してしまう、そんなニュース等聞くとどんなに惨めに苦しんだか、心が締め付けられ切な過ぎてたまらないよ・・

 ・・むしろ見た目は同じでも、感情を入れず仕事と割り切れ義務だけで看護出来る人の方が楽でしょう、これは長期に心から患者を思い愛し看護した者しか解らないよ、浩子さんの気持ちも解ります」  尚も俺は自分の事の様に喋り続けたが、知らず識らず俺自身の辛かった経験もありヨシ子を傷つけてしまっていた。

 「でもね、俺もそうだったが浩子さん一人で抱え込まず気軽に皆に話してみたら、ヨシ子は浩子さんに分って欲しく、医師という立場を超えて危険を冒しても力になれればと思ったからでしょう、もっと素直に苦しさをぶっつけたらいいよ」

 つい長々と俺の思いを話してしまった、浩子さんは海斗の寝顔を見ながら海斗の頭に手をやり 「はい、皆さんのおかげで、海斗がこんなに生き生きして、心から笑った笑顔何時見たかしら・・長い事見られなかったわ皆さん!ありがとう御座います、今日一日皆さんの暖かい気持ちが本当に嬉しく心に沁みました、何か気持ちが楽になったようです」 ヨシ子ホットした様に 「浩子、本当に良かったわね」・・「それに竹田君とクミちゃん、疲れているのに有難う」 竹田君も久美ちゃんも話に入り込めず 「いえ、仕事ですから」 と笑顔をみせた。

タッチおじさん ダヨ!.jpg フー!次に行くか!・・此処まで読んで下さり有難う御座いますStor【前編10】へ続きますクリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-23是非お読み下さる事お願いね
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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編7】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

   ☆=Story【前編6】からの続きです、是非下欄【前編7】をお読み下さい=☆ 

  《鈴鹿サーキット》 Round 5 (07/12)  

  スクールのマイクロバスが家まで迎えてくれた今日から鈴鹿でのレースに向かう、鈴鹿まで約4時間から4時間半のドライブ、俺は迎えに来たレーシングスクールのマイクロバスに乗り込んだ、先ずは運転席に座って笑顔で迎えた竹田君に挨拶をかわす 「お早うッス!」 竹田君、俺に顔を向け 「お早う御座います!ご苦労様です」 何時もの様に清清しく礼儀正しく挨拶をかわす竹田君の運転で途中監督と変わるらしい、

 明日からのレースに備え後部座席にて体を休める事にし、バスの中ほどに進む、レサーの卵達の弾んだ話し声で賑あっている、バスの中ほどで生徒達に囲まれて何やら楽しそうに受け答えをしている監督と軽く会釈を交わす、監督を囲む様に生徒達が十五人位座っている、夢と期待にキラキラ輝いた瞳が俺に向かって一斉に集中し

 「宜しくお願いします」 と挨拶  俺は慌てて 「やぁ、こちらこそ」 まだ何かを期待した無数の瞳が俺を催促 俺は逃れる様に 「監督から指示があったと思うがよろしくね!」 生徒達頷き、元気の良さそうな生徒の一人 「はい!監督から聞いています、タイヤ交換や給油ですよね」

 俺は思わず笑顔で答えたが 「慌てず 安全で的確を重視してください!」今度は真剣な表情で 「ですが! レースは一秒を争う競技です 状況の判断と素早い作業が要求されます 暗反する作業ですので真剣にお願いします」 普通の学校とは違って本当に車好きでレースが大好きな人達である、先輩のレーサーから何でも吸収しようと好奇心と憧れの眼差しで痛いほど見詰められ、俺もレースを始めた頃を思い浮かべて、生徒達一人ずつ目を合わせ会釈をした。

 生徒の一人が得意げに俺に話かけてきた 「ピット作業は少しでも早くでしょう」 生徒達の輝いた目に迎えられ、俺は監督と目を合わせ思わず苦笑する 「あぁーそうだ 一秒でも速く!、それに 繰り返す様だがあくまで安全第一に怪我の無いように・・ 又 レースにはアクシデントは付き物だが 効率よく作業をこなす事を心掛けて監督に従ってください」 生徒達は何かを吸収しようとする輝きのある目で一斉に俺を見詰める 質問してきた生徒 益々瞳が輝き明るい笑顔を見せ 「はい!気を付けます」

 他の生徒達も これから起こる期待で一杯 彼等は今からエキサイトして友達の間で甲高い声が飛び交っている、 監督は説明指導の為 生徒達のグループに混じって席をとって生徒の質問に答えている、

 俺は彼らや監督から離れ静かな一番後ろの席に移動した、奥に進むと 何時も竹田君の運転席の隣にいるはずの久美ちゃんが一人ぽつんと後部席に座っている、今日はおかしいなと思いながら、

 俺は久美ちゃんの隣の席に座り 「よう!宜しく 相変わらず可愛いね」 久美ちゃん、俺の顔を見てホットしたような笑顔で挨拶代わりに 「また!誰にでも言うんでしょう・・何か飲みますか?缶ジュースかコーク・コーヒーがありますが」

 「ありがとう、じゃーコーヒーにして」 缶コーヒーを受け取りながら 「俺 少し寝るから夕飯の時に起して」 久美ちゃん しょうがない人ねと言う様な顔で 「夜遊びが過ぎるから 眠いでしょう」 俺は曖昧に笑いながらまだ何か話かけようとする久美ちゃんに 「ああ眠い」 と呟きコーヒーをサイドホルダーに入れ薄手のチームの宣伝の入ったパーカーのフードを頭から顔を隠す様に被りそのまま暫らく寝てしまった。

海老名サービスエリア-1.jpg 東名高速の海老名SA(サービスエリア)夕方5時半頃、肩を揺り起こされ、目の前に久美ちゃんの顔が余りに近くに迫って覗き込む様に俺を見詰めていた、

 俺は驚き思わず 「おぉ!・・ビックリしたな!」 「・・!」 俺の言葉に無言でただきょとんとしていた  俺は急いで冗談で 「美人のお化けが迫って来て 俺の純真無垢な唇 奪われるかと思ったよ」 久美ちゃん俺をきりりとした目つきで睨むように 「もう!どうせ私はお化けでしょうから・・皆食事を採るそうよ、監督達先に行きましたから」

 「美人だって言っているでしょう・・怒った顔が堪らなく可愛いね!」 俺の言葉を無視し 「危ないあぶない! 其れよりヨシ子先生に叱られますよ!さぁー行くわよ」 何が危ないか 聞きたかったが そんな冗談に付き合う暇もない様子だ もう車内には俺達以外誰もいない、 全員夕食を取る事にした様で 急いで後を追った。

 生徒達と監督達はレストラン街のダイニングCASAに決め、先に友達同士席を取って相変わらず楽しげな話が交差していた、久美ちゃんは俺の隣で食事を取ったが何か様子がおかしい 「久美ちゃん 竹田君の処で食事したら?」 久美ちゃんはチラリと生徒たちのケヤーをしている竹田君を見て 「いいの・・此処で!」

海老名SAうまいもの横丁.jpg 何かおかしいが まぁいいか、何か気まずい気配を感じとにかく話題を換え話しをしなければ、さっきのお化けの件もあり俺は 「久美ちゃん 相変わらず綺麗だね!」

 久美ちゃんは伏せ目がちに 「また!お世事ばっかり、本当に危ない人ね・・後で相談が有るの聞いて下さい」 何か深刻そうだが冗談で言葉をかえした 「ん・・!俺で良いの?危ないよ!」 俺の言葉を無視して 耳元に近付き小さな声だが強い口調で 「真剣なの!後で聞いてください」 後は澄まして食事を取り始めていた。

 生徒達はやはり共通の車の話で 各自友達も直ぐに出来た様子 各々気の合うグループ同士話しが弾んでいる、相変わらず生徒達の声でザワザワ賑った食事である、食事も終わり生徒達は各々グループを作りマイクロバスに戻り気の合う生徒同士席を移り変わり座っていた、

 武田君を無視した様に 又クミちゃんが俺の隣の席に乗り込んできた、俺は竹田君に対して勝手に何故か気まずい気持ちになり バスの運転席に乗り込んだ竹田君に向かって大声で 「タケちゃん 運転変わらなくて大丈夫か?」 生徒達の質問に答えていた監督慌てながら 「俺が変わっても良いぞ」と提案した

 タケちゃん 運手席に付きながらバックミラーに目を移し 俺とバックミラー越しに目が合い慌てて目を逸らし 「大丈夫です このまま行きます」監督 生徒達の間の席に戻り 「疲れたら何時でも言え!運転変わるから」 「ハイ」 と答える。

グリッドガール.jpg 高速道路でタイヤの擦れる音や風の音で話し声等、余程大声でない限り周りには聞えないと思うが 久美ちゃん小さな声で俺の耳元で呟くように 「ネェ~聞いて下さい、竹田君がレースクイーンの人と付き合っている様で いくら問いただしても話してくれないの、如何したら良いか解らなくて」 何か入り込んでいる様子だ 「そう云う話 俺には無理だよ 自分の事も良く分らないから」 久美ちゃんは耳元で 「他に相談出来る人いないの お願い!」 悲願するように呟いた、

 「俺が何かを話すとすれば男同士 竹田君の気持ちになるだろう そんな俺じゃ如何する事も出来ないよ」 久美ちゃんは尚も目で必死に訴え 「ネェ~おねがい話だけでも・ね!」 「う~ん そうだね 今回のレースが終わってから 詳しい話聞くよ! それと久美ちゃんには悪いと思うが 二人の問題、両方の話聞かなければ ね」悲しそうな目で 「レース前にこんな話御免なさい レース終わった後でお願いします」

 俺は勝手にヨシ子を持ち出す事に躊躇を覚えたが なぜか女同士 相談する方が良いと思い 「じゃぁ帰りに家寄ったらいいよ 女同士ヨシ子に相談したら?その方がいい考えが浮かぶと思うよ」 久美ちゃん元気に 「はい お願いします」 「あぁ!俺少し休むから」 「御免なさい、どうぞ休んでください」 夕べはかなり遅くまで起きていてまた眠気が襲ってきたパーカーを頭から被り寝てしまった・・・どの位寝たのか?。

クミちゃんにゆり起され 俺の携帯が鳴っている事を告げられた、ヨシ子からだ 「はい」 聞きなれた 元気そうなヨシ子の声が聞えた 「今 どちらですか?」 外を眺め久美ちゃんに 「今何処?」 「豊田市だと思います」 俺は携帯に向かい 「名古屋の豊田市辺りだよ 如何したの?」 「別に何も無いけど リュウの声聞いて寝ようかなと想って」・・急に声のトーンを変え・・「何か・・寂しいの・・」 

 「俺もだよ」 「ほんとう?今までリュウから愛しているって聞いた事ないから 今聞きたいの!」 「ええ!そうなの? 急にどうしたの! 云っている様な気がしているけど それより俺と一緒にいて判らないの」 急に大きな声で 「リュウの鈍感・今聞きたいの!ね~言って!」 なに・・なんで今だよ!と思いながら何か気恥ずかしく 小声で 「えーと!じゃぁー 愛しているよ」 「じゃぁー! じゃぁーでは無いでしょう! それに良く聞き取れないわよ」 益々小声になり口と携帯をカバーするようにして 「うん ・・愛しているよ・・ ヨシ子が一番解っているのに」

 全く!愛の安売りじゃないよ、価値が下がる様な気がした 「リュウ恥ずかしいのでしょう?女は分かっていても 確かめたい物なの! これで眠れるわ」 「まったく 解っているのに! 愛の安売りじゃないよ」 今度は ご機嫌良く 「でも聞きたかったの、リュウは直ぐにカーとなるから 気を付けて冷静にね、じゃぁーおやすみなさい」 「もぅー 俺は何時も冷静だよ!」「フッフ! どうかな?」

 「なんだよ それ!・・あのさぁー!久美ちゃんが何か相談があるって 帰りに家に寄りたいって?」 「そう分ったわ・・リュウ意地悪では無いのよ、純粋に確かめたいから 女心よ! 女は時々寂しくなるのよ」 俺は周りを見ながら小声で 「愛しているよ!・・じゃぁ 切るよ」

 電話を切ると、久美ちゃんが俺の心を探る様な眼差しで 「まぁ!幸せそうで羨ましいわ」 俺は何故か意味も無く 「ごめん へんな話 聞かしちゃって、全く照れるよな!、それより クミちゃん 余り深刻に考えるなよ、もっと色々見たりして世の中広いよ 一人に決める事無いと思うけど、其のうち良い事もあるよ」 ・・ヨシ子だったら如何対処するのだろうか?とフッと考えていた。

 何故か竹田君に対しこの気まずさを逸らす為に大声で 「竹田君運転変わろうか?」 監督達も起してしまった 監督 「俺が変わるよ!」 竹田君はサイドウインドウに右片肘を付き前方を見詰め左てをハンドルに添えたままリラックスした様子で 「大丈夫です、このままサーキットまで行きます」 目を閉じていた監督ねむそうな目を開き 「そうか、無理するなよ」 車内の生徒達は寝ている者や相変わらず話に夢中な者もいる。 

 俺はヨシ子の電話で目が覚めてしまい、クミちゃんに話しかけた 「竹田君との交際やめるつもりは無いのだろ?」 久美ちゃん驚いた様に 「ええ、まあー」 何故?そんな事を聞くのと云う様な顔で俺を見詰めた 「壊すつもりなら良いが、彼と交際続けたいのならもう何も云わないこと!、黙って助手席で竹田君の眠気覚まし(彼に話かける事)を手助けしたら?」 益々解らないとの表情で 「如何してですか?許せと言う事ですか?」

 解らん人だなと思いながら、少し声のトーンを高め 「許せなかったら如何するの?止める事が出来るの?」 久美ちゃんは、俯いて答えが見付からない様だ 「・・・」 俺は追い討ちを掛ける様に 「彼と一緒にいたいのだろう?・・素直になれよ!」 「・・」 久美ちゃんは無言でその通りと云う様に頭を立てに振った 俺は諭すように 「だったら今更知って何になるの? 互いに嫌な思いをするだけだろう、本当に彼を失いたくなく続けたいのなら いま竹田君の助手席に座り道案内の手助けをしなさい、何か解った処でどうなる物でもないよ惨めに成るだけだよ! 心無い人を無理やり引き戻して攻め立てても虚しいだけと思うけど?」 俺は追い立てるように 「今は黙って行きなさい 本気だったら久美ちゃんの処に戻ってこないよ、 きっと謝ってくれると思うよ そのうち久美ちゃんの良いところ解ってくれるよ、変な意地を張らずに一度位許して上げたら?」

 俺の話した意味がやっと少し理解出来た様で久美ちゃんはしぶしぶ返事をした 「はい そうしてみます」 「うん そのほうが良いと思うよ 行きなさい」 久美ちゃん重い尻を上げる様に 「じゃぁー話してきます」 と云って竹田君の運転する後ろの助手席に移り、一度振り返り俺を確かめる様にして 何やら竹田君と話始めた様子 一安心、俺の昔の経験から男の気持ちが解るから 出来てしまった傷を突いて広げた処で返って反発を覚え修復出来るものも出来なくなるだけ、相手の心が自分に向かわなければ なんの解決にも成らない、その辺女性は理解出来ないのかな?それとも初めから別れる気なんか無かったのかもしれない 女心は ややこしいな!

 俺の横の座席が空いたのを見定め生徒の一人が隣に座りたいのだろう 「此方の席空いたんですか、移って良いでしょうか?」 「あぁ どうぞ!」 生徒、急いで移動して俺の隣に座った 「龍崎さんは なぜこの道を選んだのですか?」 「何故って?レースが好きだから・・」これでは 応えになっていないのか?「まぁー それにより 早く走る為だけに無駄を省きテクノロジーの推移を集めた車に 魅力をかんじるだよ

 「好きだからと云って、何処まで出来るか解らないでしょう?」 生徒は自分の進む道を模索しているのか 内心何と優柔不断な奴だと思いながらも、その生徒の目は初めての経験に輝いていたが 何かが不安なのかな?何に迷っているか? 「レースが好きで来たのだろう?」 「はい」 「まだ レース始めたばかりだろう」

 「えぇー ですが」 俺は矢次早に質問をした 「ですがって 何を迷っているの? 兎に 角今は 全力で当たってみる事が大事でしょう?」 「うーん・・・いえ、何でもないです」 「とにかくやるぞ!と云う気迫が無ければこの道は進めないよ、憧れやカッコ良いだけなら止めた方が良いよ 映画や漫画の世界では無いよ 見た目は派手な世界だが 地道な努力有って結果が得られるのだよ、スクールに入ればレールに乗って行けると思っているの?」 生徒は慌て 「いいえ それは」 「ここでは基本を教えるだけだよ 其の上で考えて見ては?」 「・・・」

 「とにかく!・・君は車の運転 人より才能が有ると思ったからでしょう」 「えぇー そうですけど 此処に来てもっと上手い人が沢山いる事が解りました」 「だから・・辞めるの ナニクソと思わないの?、何時か連中を負かしてやると云う気が無ければ この世界では駄目だよ、ただ初めから上手く出来る人はいないよ」

 「えぇ そうですが・・」 「先生がよく教えてくれなかった、そんな事知らなかったとか言っていないで、走りが早くて上手い人の走りをその目で視て自分と違う所を覚えるのだよ、此処に来てどれだけ吸収できるか・・それでは何をやっても駄目だと思うな」 輝きを増した目で俺を見つめ 「はい わかりました」

  「それに 今の世の中は型に嵌め過ぎていると思うな 固定観念に縛られず 根本を見失なはなければ其々の感覚や個性も有るから 自分に合ったものを作りだすつもりでやってみたら」 「はい 有り難うございます」

 何時もより到着する時間が長く感じようやく鈴鹿についた クミちゃんも機嫌よく竹田君と話をしている、人に関わる事が嫌いな俺らしくも無く 久しぶりに熱弁をふるった事に戸惑い照れていた 本当にあぁ~ぁだ!。

suzukajpg.jpg 俺達がマイクロバスから降りるのを待ちかねた様に 前日整備と準備の為マシーンと共に到着していた 孝ちゃんが走って来た 「リュウ遅かったわね マシーン準備出来ているよ! それとキャンピンカーも綺麗に整理して掃除したからね」 「有難うご苦労さん やっと孝ちゃんの顔見れてホッとしたよ」 孝ちゃん顔をほころばせて 「もぅー リュウたら ”ホット” したなんて嬉しい事云ってくれるわね!」

 「明日朝早くコース下見するから、レースカーを見てから今日はもう休ませてむらうよ」 孝ちゃんは嬉しそうに 「分かったわ それをするからリュウはレース早いのよね、マシーンは確りチェックしてあるからゆっくり休んでね」

 「ありがとう 監督に伝えて、じゃぁーおやすみ」 俺は休む前に一人ガレージに向いマシーンを長年の癖で手で車体を押し付け車を軋ませタイヤの緩みをチェクして乗り込み、滑り込む様にシートに身を預けハンドルに手を置き、ぼんやり薄暗くなった薄霧の中のコースに思いを巡らせた。

 翌日金曜の朝、何時もの様に走るコースを確認とチェックに歩いた、複合カーブは状況により異なるが、一般的には最終カーブ出口を少しでも速度を上げ抜ける事だ、以前走っているがここ暫らく走ってはいない、コースの看板や路肩等少し変わっていたがさほど違いは無い。

 携帯が鳴りヨシ子からだ 「お早う!」 「リュウ おはよう良く眠れた?」 「うん ヨシ子は?」  「リュウの声聞いたから大丈夫 其れより朝食消化の良いもの食べなさいよ、それとリュウは短気だから冷静にね」

 「そんなに短気じゃぁないよ!、そう言えば食べるで思い出したが 少し足を伸ばせば伊勢湾、海産物が美味しいよ 牡蠣や蛤 アワビ 伊勢えび が浮かんで来るだけでもお腹空くよ、今度ゆっくりヨシ子と来たいね」 「本当?期待しているわ、私 今日から忙しくなるから 兎に角冷静にね・・いい!解かった?

 まるで母親だ 其れも悪く無い 「うん解かっているよ、其れより俺のおふくろに会うの一人で大丈夫?」 「リュウのお母さんだもの大丈夫よ心配しないで、それじゃぁリュウこそ落ち着いて冷静に頑張ってね」 「あぁ 愛しているよ」 ”気持ちを伝えなければ判らないでしょう” とヨシ子に言われ、愛の安売りには少し抵抗も有ったが、あれ以来俺は敢えて口に出すよう心がけている 「ウッフフゥ 嬉しいわ!私もよ愛している、気を付けてね!」

 一通りコースのチェックが終わり 朝食に向かった、突然俺を呼び止める声がした 「龍崎君!」そちらを振り向くと他の一流チームの監督からだ 「龍崎君 君来年うちのチームに来ないかね?」

 「ええ!・・・急に言われても」 俺は 突然 余りにも単刀直入の彼の言葉に戸惑いを覚えた、戸惑いを察したのだろう 「返事は 今で無くて良いから、ところで 今君は・・失礼だが契約金幾らむらっているの?」 「ええまぁ・・幾らと云うか・・」

 その辺は心得ているのでしょう 「まぁいい!悪い様にはしないよ・・考えておいてくれ」それだけ話 無駄口も無く立ち去って行った、

 流石に一流チームの監督 俺は暫くポカンと監督の後姿を目で追っていたが 我に返り 小さくガッツポーズ をとり ”よしっや!遂にやった!やったぜ!” 俺のドライブ・テク認めてくれたんだ!本当に嬉かった、だが反面今のチームを捨てる事が俺に出来るのか?どんなに一流チームで有ろうがスポンサーは必要だろう頭を過る、いろいろ考えるのはよそう今はこのレースに集中だ!。

 朝はサーキット内の食堂 ”サーキット ダイニング” そこはバイキング形式でボリュウムもある、我らチーム全員集まり、スクールの新人生徒達は いよいよ実体験も兼ねた研修にはいる、例の如く食事を済ませdinning-img.jpg監督の挨拶 皆の紹介が有り其々生徒達の持ち場を指示と練習に入る、此処にいる若者達は皆其々個性があるが、彼等に共通する事は目が生き生きと輝いている期待と不安で生徒達は微かに昂揚している様子だ。

 俺は午前中一時間ほど午後二時間のプラクテス走行があり、井原君や孝ちゃん達と車の調整走行(adjustment &  test-drive)の繰り返し かなり俺好みに仕上ってきた 好きなこととは云えメカニックの二人には感謝の思いだ、

 俺は孝ちゃんに尋ねた 「ねー コウちゃん彼女欲しくないの?」 孝ちゃんキョトンとした様子で 「私?正直 女性には興味ないの リュウ 知ってるくせに!」 俺は幸ちゃんの返事に当惑しながら 「御免、本当に 俺 解らないから聞いているの それで寂しく無いの?」 訴える様な目付きで 「寂しいわよ!、でも 自分でも如何する事も出来ないの・・リュウ愛してくれる?」

 俺は返事に慌て 「エェー おいおい 俺は無理だよ! 女好きだから」 幸ちゃん独特の演技であろう 「どうせ私は化け物だから・・」 本当に悲しそうな顔をみせた 俺は慌て言い訳を探し 言った 「そう言う訳じゃ無いよ!」 「冗談よ!リュウは本気に聞いてくれて 嬉しいわ」 俺はホッとして 「苦しんで来たんだね、誰か孝ちゃんを理解する良い人見つかると良いね」

 「いるわよ」 「ほんと!よかったね」 「リュウの鈍感! リュウがいるじゃない!」 俺の驚きの顔見て 「しつこいと思っているんでよう 解かっているわよ 何も云はないで! ・片思いそれでも良いの このままそっとしといて お願い!ね」 俺はどうしょうも無いなと言う態度で 「全く!・・解ったけれど俺には如何する事も出来ないよ!、早く相談出来る人見付けろよ!」 珍しく井原君が私的な事に重い口を開き ぼそっと 「そうだよ 誰かキットいるよ、良い人見つかると良いね」 心配そうに幸ちゃんに語りかけた

 孝ちゃん、急に少し涙ぐみ 「バカ!皆優しい事云はないで、今まで皆に片端者あつかいされて、本当に嬉しいの」 ・・俺は急に以前の妻、美奈子の事を思い出し 「孝ちゃん、美奈子だったら 孝ちゃんの事、人間で最も進化した人だと きっとその様に言うよ」

 孝ちゃん大きな目をもっと見開き 「リュウ、美奈子ってだれよ」  思わず美奈子と云った事を後悔した 「孝ちゃんの知らない人、俺も孝ちゃんは片端、何て思ってもいないよ、本当に人間の一番進化した形なのかも知れないよ」 「進化!なんって御世辞でもうれしいわ・・本当!リュウは人を乗せるのが、うまいんだから」 「俺は乗るほうだよ」 と言いながらレース・カーを指さした、幸ちゃん笑顔で 「ほんとうだ!私が乗せる方よね」 パドック内は笑いに包まれた、

 俺は井原君の言葉に驚き、井原君の重い口が開いたことの嬉しさで、二人に向かって 「幸ちゃん本当にそう思うよ!・・ヨーシ!今日はマシーンの調整も順調に仕上がって来たし、これ位にして、スクール宣伝ブースの監督達の所に手伝いに行こうか?」 二人を促す様に観客席近くのスクールの宣伝ブースに向かう。

 鈴鹿紹介.jpg久美ちゃんと竹田君が仲良くスクールの宣伝ブースで働いている 「クミちゃんもう良いの?」 「はい、おかげさまで 気の迷いだったそうです、誤ってくれました でも 何か納得出来ないわ!」 「クミちゃん!もう黙って許してやれよ」 「はい そうします 有難う御座いました」

 コウちゃん目敏く 「リュウ 久美ちゃん何か有ったの?」 「なんでもないよ 犬も食わないってやつ」 コウちゃん そう云う処察しが良い 「なんーだ 知和喧嘩なのね! 仲が良いから」 「ほんと バカらしい そんなところだよ」 本当は大分深刻だった様だ、

 「タケちゃん 久美ちゃんに心配かけるなよ! あんなに良い子はいないよ ・・もっと大事にしろよ!」 竹田君気まずそうに首に手を充て 「はい 心配掛けました 有難う御座います」また忙しそうに仕事に戻った 孝ちゃん 小声で 「大変ね でも 皆リュウちゃんを慕っているから」

 「監督は経営の事で頭使っているから 少しは手助けしなければね」 「だからリュウの事 皆好きになるのよ」 俺は少し照れ気味で 「もうー 孝ちゃん煽てるなよ!明日はタイムトライアルだから 頼むよ」 孝ちゃんは俺の耳元で 「リュウ!私知っているのよ」 「何が?」 「引き抜きよ! 私さっき聞いちゃった 凄いのね!」 俺は驚き! 「まだ何も分からないよ 皆には絶対内緒だよ! バラしたら許さないよ!」 孝ちゃん得意そうに片目をつぶり俺にウインクしながら 「その位 分かっているわよ」

 俺は孝ちゃんを皆と離れた場所に連れて行き 念の為 「俺の口から監督に話すまでは 誰にも云うなよ、それと孝ちゃん女の気持ち判るでしょう?」 幸ちゃん真剣な顔で 「ええ まぁーそれが何か?」 久美ちゃんと竹田君の事を詳しく説明し 俺が久美ちゃんにアドバイスした事が良かったか尋ねた、

 「リュウ それで良かったと思うよ、責めれば責めるほど男の心が離れてしまうのに 女は自分以外の女性は許せなくなるのよ、それで彼を攻め立てその女性を彼の心から抹殺したいのよ 自分の方が絶対上と思いたいの、人には優劣を付けられないのにね それが女心、色々な好みが有るのにね 大丈夫よ久美ちゃんはそんなに馬鹿じゃないから」 水を得たりと得意げに話す 「なら良いが?恐いね!」 「そうよ リュウも気を付けなさいよ」 

 「リュウ、久美ちゃんは本当に大丈夫よ・・それより リュウの婚約者ヨシ子さん リュウが惚れたの解るよ! 普段は自分に厳しい人だが リュウには完全に女になって凄く素直で可愛いい人ね、あんなに可愛い人いないよ その上リュウを見つめる目 可愛い子供を見守る様な あれは女性と云うより母親の目よ、悔しいけど負けたわ リュウ大事にしなさいよ」

 俺は笑いながら 「俺は餓鬼だからな、本当にそう思ってくれるの? ありがとう!」 俺が心無く云ってしまった女性の名前気にしているのだろう 「当たり前でしょう、美奈子って誰か知らないが 男は直ぐに浮気するから リュウ! ヨシ子さんを泣かさないでね」 美奈子って まずい事言っちゃった 言い訳は尚へんに思われるから それには触れず 「オォ! ありがとう 大事にするよ」 それ以上の 孝ちゃんの 追及が無くポットする。

 翌日、天候も良く暑い位だ Free Practice(フリープラクテス)1’42.522秒で四番手始めてのコースではsuzuka.jpg上出来だ、監督 眼鏡越しの驚きの目を輝かせて 「リュウ良くやった!午後からQualifying(予選)だぞ 気を抜くな」 「はい 皆の御陰です 何時も夜遅くまで有難う、井原君とコウちゃん S字カーブから後の逆バンクでフロントが流れてしまってスピードがそのままキープ出来ないんだ ダンロップコーナーまで 此処が一番重要だから」

 孝ちゃんマシーンを調整する時は真面目に 「リュウ 了解よ! フロントウイングもう少しダウンフォース掛けるね、リュウはお昼食べて 少し休んでね その間に直ぐ調整出来るから」 「ありがとう」 午後から三回の一番良いタイムが採用される、ヨシコの言葉を思い出し冷静にを心がける 孝ちゃんの調整が良く 1’42.036秒貴重なタイムアップ 三番手に決まり 上々の出来だ!、これで 明日の決勝レースに望める、

 孝ちゃん 「リュウ凄いわね、前のドライバー何時も10番前後よ」 「そうだったの? コウちゃん達の調整が良かったからだよ 有難う、暑さで負けない様にレーシングスーツに風入る様にしてくれて ドライブし易くなったよ、それに井原君のエンジンの調整力は抜群だよ、立ち上がりも以前より かなり良くなったよ」 「リュウの実力よ だから..」 俺は慌ててコウちゃんを睨み付けた

 7月12日 鈴鹿 いよいよ本番 suzuka-s.jpg

 天候:晴 コース:ドライ 気温:30℃梅雨明け湿度も高い俺達ドライバーに採って暑く辛いコンデションの中で43週の長丁場だ、

 孝ちゃんと井原君がコース上のマシーンサイドで俺を迎え、例の如く 俺がマシーンに乗り込むのを待って 安全ベルトを締め 確り締まっているか確認後 俺に向けて孝ちゃんが親指を立て グッドラック!の賭け声がヘルメットごしに聞えた 俺も右手の親指立て返事の合図を送る、

 エンジン スタートの合図があり 俺はスタートボタンを押す ”キュルキュル フォフォーンフォーンフォーン” レース用エンジンの高回転な独特な音が一斉に響く、バッテリーを外し 各チームのメカニックやレースクイーン達がパドックに引き揚げる、

 スタートランプがグリーンに変りフォーメーションラップがスタートした、先導車に従いRPMパターンをバーンアウトにセットし俺は時々蛇行運転しながらニュタイヤの皮を剥き同時に適正温度に暖め路面との接触を良好に保つ 監督から路面温度44℃と聞かされた少し高い、車の油圧 水温 等確認し デモンストレーションの一周が終りスタートラインの三番グリッドに付く、

リュウヘルメット1.jpg この緊張感は大嫌いだ!、何時もの事ながら回りのドライバーが気になる 胸は最高に高鳴り、本当はライバルは自分自身! 先ず自分を超える事からだ やっと其のことに気が付てきた、

 バックミラーで後方うを確認13台全マシーンがグリッド定位置に付いたであろう、バーンアウトからスタートにセットする クラッチバドルを引いて シフトバドルでギヤーを入れる アクセルペタルを踏み込む エンジンが吹き上がりリミッターで制御されているが回転数が跳ね上がる、あとはスタートランプを凝視 スタートを待つ 嫌が上にも緊張が最高潮になる、

 スタート合図のレッドシグナルが付き始めた、一斉にエンジン音が高鳴る 全ての不安が掻き消されランプに集中する、1・2・3・4・5ブラックアウト!

 よし行くぞ!同時にクラッチバトルをはなしギャーを繋ぐ 上出来のスsuzuka-start.jpgタートだ!そのままインをキープしサイドミラーで後続を確認 俺より少し離れている 3番手で第一コーナーを順調に無事抜けた、

 スタートのドキドキ感も消え 獲物を追う闘争心の狼に変わる、監督から無線だ 「後続4番は少し離れている、その上 スタートでフライング ドライブスルーペナルティの様だ 落ち着いてそのポジションをまもれ!」 監督の声など耳に入らない 前車との差が少しずつで有るが近ずく、

 俄然闘志が湧く 23週で2番手がピットイン給油だ、25週でトップがピットへ 監督より ピットに入れの指示 「次の週に給油とタイヤ交換だ!」  給油タイヤ交換も順調に進み3位をキープしたまま前車を追う、

 32週目 「よし 射程圏内に入った! プレッシャーを掛けるぞ」俄然闘志が沸く アウト側から並び掛け ブレーキと共にシフト ダウン 突然 5速目のギヤーァが入らなくなった

  「なんだ!如何した!」 危なく前車に接触寸前何とか右前輪を縁石脱輪し回避し 素早く何回もギヤー チェンジを試みるが だめだ! 「監督 5速のままギヤーが動きません!」 「何とか走れるか?」 「はい!何とか?

 だが 立ち上がりが悪く エンストを起こさない様に走るのが 精一杯だ! 監督からの指示が跳ぶ「そのまま走行キープしろ!」 此のレーシングマシーンには7速の変速ギア・トランスミッションが付いている、Rの小さいカーブでは なるべくアウトからインにコースの幅いっぱいに緩やかに試みるが 立ち上がりが悪く 一気に7~8秒ほど周回速度が落ちる4,5番手に抜かれてしまう 「あぁーぁ また駄目か! 何て事だ!」

 監督からの無線指示  「リュウ 諦めるな!最後までやれ!」 「はい! ・・クソ!何とかなってくれ !、入れ 入れよ!」 じりじりイライラした気持ちで..バドルを何回もシフトチェンジを試し続ける 自然にマシーン(車)に話かけていた「お願いだ機嫌を直してくれよ 如何したんだ 頼むよ!」

 其の度 幾度もギャーチエンジを試みる 偶々 何かのショックで噛んでいるギヤーが外れてくれた 電気的配線なのか機械的ギヤーの噛みあわせか?は解らないが37週目にまた何故か通常に回復した!

 「ヨシ ラッキー! 監督ギヤー直りました・・このまま続けます!」 ”よしいいぞ 其の調子 頑張ってくれよ” ..又マシーンと話していた 「あわてるな!そのまま いい子でいてくれよ! 少し調子を見てからだ」 監督からの怒鳴り声がイヤホンに響く 「リュウ 熱くなるな!冷静に!一周位は確認を取れ」 「大丈夫です 行きます!」

 今度は頼むよマシーンに話しかけ猛アタックを開始する、2、3周すると前を走る五番手が見える 最終コーナーから直線に入る もう止められない 俺の獲物を追うオオカミの血が騒ぐ、五回まで使えるエンジン・リミッターを外しアクセルを目一杯踏み込み 前車に追いつきピッタリ付きスリップストリーム(slipstream)に入る、

 相手の車の気流(負圧の力)を利用して牽引して頂き エンジンに負担をかけず追随する、第一コーナー手前でイン側に飛び出し風圧が急に掛かるが 何とか上手く追い越す事が出来た、もう監督の制止の言葉など上の空 尚も前車の獲物を追い求める、ハンターの血が騒ぐ もう監督の声など耳に入らない

 一周後前車四番に追いつき完全に射程距離に入る逸る気持ちを抑え冷静に1週 後ろに付いてプレシャーを加える よし!このS字カーブで抜ける、カーブ入り口でアウトに飛び込む ブレーキを我慢して 頭一つ出た このままキープだ、

 此処はお互い譲れず闘争心の激突だ、次のカーブうまくインに飛び込む車体がアウトに流れる、相手も抜き返そうとアウトから突っ込んで来る、フロントタイヤが軽く接触、

 反射的にカウンターステヤーを充てリアが滑る事を押さえマシーンを立て直す、マシーどうしが触れそうに迫るが何としても譲れない!何とか頭一つ出る、相手も並び掛けて来るが、ねじ伏せ逆バンクを抜ける事が出来、何とか抜く事が出来ダンロプコーナーを直線的に走り、最短距離で少しでも後続車を引き離す

 ..ヤッタぜ!、此れだ、このバトルが快感だ..三番の獲物を追う、前車の真後ろに迫ったが相手も強く百戦練磨、俺の攻撃を上手く左右を押さえる、また監督からの指示だ 「リュウ、聞いているか!冷静にしろ、テンション上がりすぎだ!」 「ハイ」返事はしたものの俺の闘争心に火が付き最後まで追回しバトルを続け、幾度となく並びかけたが鈴鹿ピット.jpg抜くまでに至らず、悔しさが残った43週、4番でチェカーを受けた、

 監督の声がヘルメットの中に響きわたる 「リュウ、良くやった!良くやった!惜しくも賞々台には上がれなかったが上々の出来だ、これでスポンサーも納得するよ」 例によって表彰式と全チーム集まった会食パーティーが行われ、他チームとの交流の場である、大分盛り上がっていた、皆から良いレーサー見つけたねと云はれて北原監督も上機嫌、中にはあからさまに家のチームで引き取りたいとまで出る、和やかな時間を過した後、監督やメカニックに後片付けや、レースーカーの運搬等お願いして、先に帰りたい生徒達とタケちゃん、久美ちゃん達とで帰る事にした

 帰りかけた時、監督から呼び止められた、眼鏡の奥の瞳が刺すように見えた 「リュウ、解っているだろうが熱くなるだけでは、レースに勝てないぞ、お前の悪い処だ!気持ちは解るが、もっと冷静に考えろ!」 怒りを堪えた声だ 「・・はい、すみません気を付けます」

 監督の言う通りだ、結果的に最後まで走りきらなければ意味が無い、だがこれがレーサーの心情、ヨシ子にも注意されていたのに、闘争心に支配されてしまい冷静な判断に欠けてしまった、駄目だな!、もしかして俺の心に他のチームの監督にもっとアッピールする気持ちが働いたのかも知れない、メカニック達の最高のテクノロジーと監督とドライバーのヒューマンの結合で有る事を俺は忘れていた

 俺は一刻も早くヨシ子の元に帰りたく、井原君と孝ちゃんにお礼を述べ早く帰りたい生徒達と帰途に着いた、マイクロバスはタケちゃんの運転で助手席に久美ちゃんが座りようやく定着指定席に収まった、もう家により話をする必要は無さそうだ、俺は生徒達と雑談して 生徒達はレースの感想を話していた、生徒の一人が離れた席から感激した様に 「龍崎さん マシーントラブルで残念でしたね、でも後半の追い上げ凄いと云うより あのバトル執念を感じました」 俺は監督への反発も少しあったのかもしれない 「君達も戦へば解かるようになるよ 勝たなければ 意味が無いから、まだまだ だよ、今日監督から注意されてしまったよ」 途中夜食を取り今日のレースの展開を生徒達の興奮した話し合いに 俺もレースを始めたばかりの頃を思い出していた、

 夜11時に横浜金沢柴町のヨシ子のマンションに着いた、生徒達とタケちゃんにお礼を言い別れ ドアーホーンを押し 「鶴見さん!ハート付きの電報です!」 「ハーイ、リュウ今開けます」 ドアーが開き どちらかとも無く抱き合った

     《結婚!》

 俺は気になっていた事を先ず訊ねた 「おふくろ 如何だったの?」 「リュウ リュウから報告して」 「分かったよ とにかくコーヒー飲みたいな、荷物を片付けてくるから」 その間にコーヒーを入れてむらい、一息入れ飲みながら マシーンが故障しながらも何とか4位になった事など それに竹田君達の事、最も肝心な 他のチームからの契約の誘いの件を話した 「凄いね リュウ やっと認められ良かったわね!、何か観戦したかったな」 ヨシ子は冗談顔で 「いよいよ リュウのマネージャーやらなくちゃぁーね・・それは嘘よ 自分の仕事有るし そんな事出来ないし 其れよりリュウに五月蠅いと言われ嫌われそう」「だよね!それより自分の仕事の方が大事だよ」「フフ リュウ ホッとした顔してる」 

 「それより、ヨシ子はどうだったの お母さん なんだって?」 ヨシ子が母との会話を思い出した様に顔が綻び 「私 お母様の事大好きになっちゃた」 「あんな厳しいお袋 なに云われたの!」 今度は俺を説いて聞かすように 「リュウは、甘えていて、お母様をちゃんと見ていないから、 お母様、云ってらしたわ、リュウには、一番甘えたい時期に、お父様が無くなり、可哀想だったが、四人の育ち盛りの子供を抱え、それ処では無かったて、お母様の実家の方の援助もなく、子供達全員高校まで行かせて お姉様とお兄様は自分で大学まで行かれたの事」 「お袋、そんな事まで話したの?」 「そうよ お姉さんも学校の先生 それに旦那様 東XXの大学院で教育学研究課程修了 次期教授候補だそうですね、いろいろあって今は教育心理学を研究されているのですね、それから お兄さん夫婦にも一緒に会いました 優しい方ですね、リュウは何も私に話さないから」

 「そんな事 俺とヨシ子に関係ないから」突然! 今までに無いキツイ声で 「関係あります!リュウが私の家を尋ねた事! 私がリュウの家を訪ねた事! 両家の協力が必要だからでしょう!」 「なにも そんなに怒らなくても 本当は俺の随一 自慢できることだよ」 少し押さえた様に 「リュウ、それならそれで素直に話したらいいのに 怒っている訳で無いのよ、現実に、私達二人だけで、生きているのでは無いのよ、それにお母さん、こんな事も言っていたわ、健司は変った子ですが、ヨシ子さんならあの子の事、理解してあげられる人だからって」

 今度は俺を諭すように 「ごめんね、リュウの気持ち判っているの、二人の愛情の問題だから、家族の自慢やそんな物でリュウを好きになって欲しくないと思ったからでしょう?良く判っているわ、そんな事で、私が変わると思ったの、..でもねリュウ、両親がいて私達がいるの、二人だけでは、リュウも私に会う事が出来なかったのよ、リュウがレース出来る事も皆さんの協力が有り関わっているからでしょう、もっと大人にならなくては、だめよ」 初めて、こんなに叱られてしまったが、あまり腹は立たなかった 「悪かったよ、ごめん」 

 「それでね 私も精神医学や心理学を習いたいとお話し、お兄さんと話が盛り上がり 楽しかった これからも色々お話ができるわ」 「あぁ 兄は会社勤めの間に お母さんの学習塾も手伝っているから」 「お姉さんも名古屋で高校の教師だそうね それに旦那さんは大学の教授、教育一家ね でも今の教育方針は嫌いですって ただ外面の形だけの理想を追いすぎているって、只外国の教育は良いと採り入れて 最っと日本の昔からの教育の良さ 何故良いのか悪かったのか 見直し考えるべきだと云っていましたよ、私もそう思います」

 「だから龍崎家 俺だけ悪い意味で異端児と云ったでしょう、そんな家庭に息が詰まりそうで、お母さんに悪いなと思いつつ何故か自分に嫌悪感を持ちながらも母や家族に尚更反発ばかりして」 又俺を優しい目で 「お母様がね、健司は一番甘えん坊で なかなか乳離れしなくて困り オッパイにお塩を塗ったんだってね、それと人見知りが激しく 何時もお母様のお尻の後ろに隠れていったて、あの学生を叱った人が今では考えられない 可笑しくなっちゃいました」 「そんな!・」 俺はただ頭を掻いた

 「お母様がね 何処が気に入ったか判りませんが、ヨシ子さん貴女で良かったわ 健司をお願いしますって、言って頂いたのよ 本当に嬉しかったわ」 「ほんとうに あのおふくろが? そんな事云ったの!」 

 実は、一昨日、土曜の夜、お母さんより電話で話があり、そんなに驚いては居なかった、..” 「お前にはもったいない位、お前の様な、糸の切れた凧のようにふらふら、何時までも子供の様に家族皆に迷惑かけヤンチャは、やっていられませんよ!、ヨシ子さんに確り助綱を握って頂かないと、素晴らしい人です、確りお願いしましたから、大事にしなさい」”..と云ってきた 「お前は二度目で、ヨシ子さんは言い出し難いと思うから、女性は結婚式楽しみにしているからお前から云って上げなさい」 と、聞かされていた

 俺はヨシ子に改まって 「俺まだ正式にヨシ子に申し込んでいないし、返事むらっていないよね!..ウッウン!エート、俺と結婚してくれる?」 ヨシ子は俺の気配で察したのか 「はい!不束ですが宜しくお願いします..リュウ、本当はもっと以前にムードのある場所で云って欲しかったなぁ」 「だよね・・!」

 「でも、あの雨の富士でお互いの確認取ったから、リュウの腕時計戴いたとき、どの位高価な物か知っていたし、リュウに断られると思ったわ、それを何の躊躇もなく私に預け、私を本当に信頼しているのだと感じたの、それにあの時、リュウのレーシングスーツ姿、カッコよかったよ、リュウに後から抱きついた、あの時に決めたのよ」 「・・」 「リュウはレースの事で頭一杯だったからね、あの時云って欲しかったな」 「ごめん、何か苦手でね!このままズルズルになるのが嫌いだからハッキリさせたかっただけだよ、そういえば 何時もその腕時計しているね」 ヨシ子は右手首にした時計に目を落とし 「そうよ、約束だもの それに何時もリュウが側にいてくれているようだから」・・・

 改めて俺の目を見て 「本当ね、言葉って大切よね もう少し気の利いた事 ・・少し期待外れだったけれど 雨の富士で私決めたのよ! これでケジメが付いたわね」 何か念を押された様な気がした 「そうか!それで、俺って鈍感だねムード台無しだね」 又何時もの笑顔に戻り「いいのよ リュウのそんな処も好いのかも」

 「ヨシ子、結婚式如何するの、何か希望有るの?ウエデングドレスとか、日本式か教会?」 急に抱きついて来て 「リュウ 嬉しいわ!ありがとう、..予定ねー?、カレンダー見てリュウの都合も有るし ゆっくり決めようね」 「ねぇー リュウにも聞いて頂きたいの」  改まった感じで俺に訊ねた 「何ですか?」 

 ヨシ子は座っていた椅子に姿勢を正す様に座り直し、真剣な眼差しで 「私の学校の事、お兄さんに会って 益々勉強したくなったわ、心臓病で手術待ちの子供達 国内にドナーが中々居なく外国でも絶望的に待たなければいけなし経費も凄く掛かるの、そんな子供達の精神的心のケヤーをしなければいけないと 益々強く思い、本音を云はず都合の悪い物、汚い物には蓋をしてしまう人たち、思春期の悩みや患者の悩み 先ず自分自身を見直し対処しなければいけないの」

 ヨシ子は言葉を選ぶ様に息を深く吸い込み意志ある力強い目で俺を見詰め、俺に解り易く説明した 「それで リュウ此れは真面目な話よ、以前リュウが哲学者みたいな顔をして云ったでしょう 例えば夫婦が肩を揉みあって、其処が良いのとか そこじゃぁ無いよとか 平気で言うでしょう、でも殆んどの人達の性行為はタブーしされ、ほとんど話し合いは無いと思うの特に女性は 不安で自分が正常で大丈夫なのか? こう感じたのよとか、こうして欲しい これでよいのか?お互い話あった事は無いと思うのよ、

 男も女も自分は正常なのか?その事で悩んでいる人が多いの、でも相談する場所も相手もないのよ、現に院内の若い看護婦からも不安で時々相談があるの、でも 私自身何も知らないから答えようが無かったの、お互い愛情があれば 相手の為になりたいと思うでしょう、だから私もリュウに感じた通り伝えたかったの

 リュウは意外と知っていたから本当に良かったけれど、私 自分の体 変になったって戸惑ったの、おまえ変だよ 変わっているって言われたら一生傷つき落ち込んでしまうでしょう、それだけではなく かるはずみに云った言葉で その人の大事な人生を一生狂わせてしまう事も有るのよ・・リュウ私の言ってる意味解るでしょう?」 「あぁ それ位解るよ」俺は実際に話の上では理解できるが 俺の女性へのイメージとかけ離れ戸惑いが有ったが何か凄く楽になり ある意味自分の欲望にも素直になれるような気がする、

 尚も自分のミルク・ティーにも手を付けず 真剣に話が続く 「それに女性特有の病気、乳癌や癌で子宮や卵巣を摘出手術を受ける人達、不安で一杯なの、其の上もう女では無くなるのか?、女性として生きて行けるのか?悩んでも、そんな事考えているのか!命の方が大切でしょうって云われそうで、女にとって大事な事なのに聞きずらいから質問も出来ない人が多いのよ、其処から考えたかったの、女性として子宮や卵巣だけでは無く、子供の問題や其の後、性交渉は出来るのか?夫婦にとって大事な事、悩んでも聞きたくても聞けないでいる人達が大勢いるの

 手術前後の心のケアも大切なの、此れもリュウが力説した通り当っていたわ、私も勉強したの、人の心や脳で大部分、体を支配する事が分ったわ、それによりホルモンバランスも左右されるの、その上で、夫婦間も含め、そう言った女性や思春期等の精神科を専攻したいの、どう思う?」 長い説明で有ったが、真剣である思いが俺にも伝たわり納得させられた 「どうって?そんなに、思い考えているのなら、いいと思うよ」 明るい顔で 「本当に、解ってくれて良かった!」

 「あたりまえだよ!お互い良いものを感じられる事が、ストレスも解消され、より互いの愛を深めるし、そう云う病気で、沢山悩んで居る人がいると思うよ、結婚しても、性行為が嫌いな人もいるし、不幸にも幼いときの体験やショックで恐くなり駄目な人もいるよ、女の先生の方が、女性同しもっと気楽に相談出来るし、それに想像の世界の説得よりも実感があって、説得力有ると思うよ、俺には専門的な事、解らないよ、日本では、大切な事なのに、いやらしく不純に思っている人が大勢いるから、本当はそう云う人ほどいやらしい人と思うよ、とにかく新しい取り組み、ヨシ子がやりたいと思うのなら、迷わず、やったら、今だから出来る事も有るし後悔して欲しく無いから、やって見なさいよ、生活の事は何とかなるよ」

 「よかった!性の事も大事ですがリュウに判り易く例えばの話をしたの、もっと実際は生死に関わる事が多いいの、前にも話したでしょう、患者や対象者と話し合ってよりよい治療法方を探すのインフォームド・コンセント(innformed consent)に役立つの」 「ふ~ん」

 俺が不満そうに思えたのか 「・・リュウいろいろ知っているのね、驚いたわ!..学校、行って良いのね、なるべくリュウに迷惑掛けない様にするから」 「医師でしょう人間の生態や体の仕組、本質、俺より数十倍知っているでしょう、其れにヨシ子の言う様に人の心が一番大事な事だよ、間違っているわけないよ、堂々として」 「有難う、優しいのね」 「お互い様だよ 俺も好きなことさせてむらっているから..ちょと、待ってね」 俺は、小物入れのバックを自分の部屋に取りにいった、バックとノートPCを持ち戻った

ノートPC.jpg それは二人して鎌倉鶴岡八幡宮に行った時から心に響いていた事である 何故かと言うと 俺は家庭や子供の事など余り真剣に考えた事一度も無かった、自分の目的以外余りにも自分本意であり 以前の結婚の時すらほとんど考えた事は一度も無かったのに ヨシ子が子供を持ちたいと願った時に その重大さに初めて気付かされた思いであった 

 バックの中から貯金通帳を全部出しヨシ子に黙って渡した、多分ヨシ子は俺の収入など全然、充てにはしていないと思い、 ヨシ子「なに?これ」 「それで全部だよ!」

 通帳をめくり 「なにこれ!管理してもないじゃない ほんとう?ゼロに近いよね!今までどうやって食べていたのよ?」「まあー それなりね ・・ほとんど車の部品などに化けてしまったよ・・」「それほどまで・・あきれた 人ね!」「 それより ヨシ子のお父さんに 言いがかり上 つい大きな事 言ってしまって・・恥ずかしいよ」

 ヨシ子は本当にビックリした顔で 「そうとは 思っていたが これほどとはね」 「それより毎月の収入を見て それで生活費 何とか成ると思う?」

 ヨシ子改めて俺を見て 「ちょと待って 今頭が混乱して リュウはそんな素振り一度も見せなかったから、ネックレスとピアス買うときも こんなこと知っていたら 無理させんかったのに、その上スポンサー探しに苦労しているみたいでリュウの夢消したく無いし、だから私のお父様に頼んだの それとリュウのプライド傷つけたくなかったし 初めからリュウにお願いするつもりはないのよ」

 「だけど これからは俺が生活費 責任持たなければいけないでしょう? その俺の給料で生活費は何とかなると思うかなぁ~?」 ヨシ子は通帳をめくりながら 「私にもわからないわ!でもこれで出来る様にしなくてはね」・・もう一度通帳を見ながら「これって 毎月同じ金額が入っているのですね 思ったより頂いているのね、それなのに何処に消えたのかしら?」「”おあし” って言うでしょう」「呆れた人ね! リュウは先月 余り務めに行かなかったのでは?」 

 「それは 給料と云うより契約ですから、アメリカの仕組みは必要で有れば毎年契約してくれます でも要らなくなったら切られてしまい 毎年不安だったが カーレースを本業にしたかったから 今までさほど気にはしていなかったの、 だから これからは日本政府からの方が安定しているって話した事有りますよね、レースでの収入は余り当てにならないし」俺は徐に別の通帳を取り出し 「それで こちらの別の通帳分はレースでの契約金やレースで得た賞金これは 俺に使わせて下さい 色々出費があるので いいですか?」

 ヨシ子はハッキリと 「ええ 勿論よ! 何回も言うようですが 初めからリュウに頼むつもりはないの! これはレースに必要なおかねでしょう?」 俺はほっとして 「じゃぁー いいんだね」 「リュウって わざわざ見せることないのに 驚かされる事ばかり? 子供か大人か解らなく成ったわ リュウに聞いても ”どうにか成るよ” だけで..そんな夢を追ってるリュウを見るのが好きになったのだから ・・仕方ないわ」

 「それで私のお金は如何するの?」本当に俺の金など充てにしていなかった、俺の夢を壊す事はしない覚悟で結婚に踏み切ったと思われる..とても其の心が嬉しく思った 笑いながら 「そうだね!此れからヨシ子の”ひも”でもやろうかな!」ヨシ子は笑みを浮かべ「リュウには出来るわけないよ きっとそんなリュウ自身が嫌になり 何れ破局よ!」

 俺は自分に言い聞かす様に「そうだよね! これから やってみなければ解らないよ 結婚するって こう言う事だよね」「ほんとに 子供なんだから」「うん! 此れから何が有るか解らないから それはヨシ子自身の為に捕って置いたら、銀行取引や振込みはインターネットで出来ますから それとネット銀行 此れは電気製品が好きなので ネットショップの為少しだけ ヨシ子もネット利用すれば、必要な分普通銀行から暗礁番号などもれ易いから そのつど振り込んでいるの 後で暗礁番号など教えるよ」 「それは後で考えておくわ」 「とにかく 今日はもう遅いから休もうよ、あまり言えた事ではないが 本当にヨシ子の進みたい事をやれば良いよ」

 ヨシ子はまだ信じられない顔をしながら 「でも正直に話してくれて ・・リュウは好き勝って自由にやっているかと思い 充てにはしていなかったの」「もう自分勝手やっていられないし これ以上誰にも迷惑掛けれないよ」「・・」「 まだレースの事で話したい事あるけど もう遅いから明日にしょう」

 俺は疲れと眠気を感じベットに、しばらくして睡眠前の手入れを終えたヨシ子もベットにもぐり込んで来て 「もうリュウが居ないと寂しくて、リュウの体どこか触っていないと眠れ無くなっちゃた!」 「あぁ、俺もだよ」 「ほんとうに?」 「あたりまえでしょう!俺はここかな!」 手を伸ばしてヨシ子の胸を触った 「フッフッフー・・・リュウは、お母様も話していらしゃいましたが甘えんぼうでオッパイ離れしなくて困りましたて・・それで今も大好きでしょう?」 「男はみんな好きだーよん~」

タッチおじさん ダヨ!.jpg アーァ!後は惰性で!..此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【前編8】へ続きますクリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-26是非お読み下さる事お願いね


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編6】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

 ☆=ストーリ【前編5】からの続きです、是非下欄【前編6】をお読み下さい=☆ 

 俺は横浜本牧のマンションに向かい取り敢えず 必要な着替えや剃刀・ローション・ノートPC・靴・スーツ等 後デスク形PC等は後にする、少しでも早く先生に会いたくて休む事なく踵を返し金沢文庫柴町の先生のマンションへ、弾む気持ちを抑えドアホーンを鳴らした また悪戯心が起こり 「宅急便ですが、ハートマークのお届け物です」 エレベーターを上がりドア前でもう一度チャイムを鳴らした、

  内側からドアを開けながら 「ハーイ!リュウ今開けますから」 「なんだ又 判ちゃったか!」 当然解ると思ったがテレが有り何か話しやすく出来ると思ったからだ 「お帰りなさい、ハートはリュウ以外ないでしょう」 エプロン姿の先生の声に、その昔子供の頃学校や遊びから帰り母に向かって声をかけた時の様に、その声を聞いただけで何か凄く平和で安らいだ気分で安堵感を覚えた!、

 今までは帰っても侘しい一人暮らし 其の以前は俺が守らなくてはと思い安らぐ事などあまり出来なかった、 決して前の奥さん(美奈子)が悪いのではなく それどころか誰よりも俺を気使ってくれとても優しかった、 かえって取り返しの付かない それが間違っていたとしても 俺なりに愛していたのに、愛の方向が間違ってしまい辛い悲しみを与えてしまい 本当に可愛そうな事をしてしまった。

  他の接し方が有ったのではないか?十分解っていながら如何にもならない深みに落ちってしまって ・・ポニー.jpg何時までもくよくよ考えるのは止そう先生にもどちらにも悪い!、

  もし これが初めから先生に出合っていたのなら あたり前に思え こんなにも感謝と感動はなかったであろう、このなんでもない普通の営みが こんなにも大切に感じられ ある意味それが感じる事が出来良かったと思う・・何故だろう! 俺が幸せであればあるほど心がやけに痛む! あれほど 純粋で普通の人では考えも付かない視点で物を見る彼女を理解出来る人は そうは居ないと思う 幸せで有ろうはずがない 別れた美奈子が浮かんでしまう 俺自身の問題と思うのだが、

 もうダイニングに足を運ぶと料理の匂いが漂い 先生の優しい笑顔で迎えられ ”あぁ 俺にこんなに安心して帰る場所が出来たのだ なんて幸せの事か!”、

 気持ちを切り替え キッチンで料理中の先生に向かって「ただいま・・お肉の匂いたまらないな!」 急がしそうに空き部屋のドアを指差しながら 「もうすぐ仕度出来るから 取り敢えず あちらの空いている部屋リュウが使ってよいから 荷物運んで終わったら手を洗って此処に座ってね」 先生の声を背中に受けながら 「OK すぐ終わるよ とにかく喉が渇いたな!」

 荷物運び終わって手を洗いダイニングテーブルに付くと テーブルにはサラダにオニオンスープ・グラタン・フランスパン(バゲット)のスライスなど並べられていた、

 先生はエプロンを外し冷蔵庫からスパークリングワインを取り出し俺に手渡し 「リュウ! 開けてちょうだい、今日は特別の日 半日で帰らせて頂き準備したの リュウ其処のワイングラスに注いで」 栓が飛ばないように押さえて抜いてテーブルの端に置いてあった二つのワイングラスに注いだ 琥珀色の液体に微かに細かい泡が次からつぎえと幾つも弧を描いて立ち上がりシャワシャワ音を立て弾けている、

 スパークリング・ワイン.jpg先生のこぼれ落ちそうな笑顔で 「さぁー 今日から二人の門出よ!、リュウ宜しくお願い致します」俺も釣られ笑顔になっていた 「俺こそ!こんな準備してくれて 本当に嬉しいよ」 先生はワイングラスをしなやかな指先で持ち上げ 「リュウ乾杯しょう、これからの二人の幸せを願って乾杯!」

 俺もグラスを差し出し 「・・・乾杯!」 先生のグラスと合せた 静かな部屋に周波数の高い ”チーン” と涼しげな澄んだ音が静寂のダイニングルームに静けさを強調する様に共鳴し染み渉り広がった、まるで仏具の輪(リン)の様に数々の乾杯が有ったが思わず目を閉じて耳を傾けていた 其れほど俺の心の奥深く染み渡り 全ての邪心を取り除く様な感動さえ覚えた、

 先生も同じ思いだろう 互いに暫く無言で見詰あった・・最初の一杯は喉の渇きのためか 炭酸が快く一気に空けてしまった 先生は俺のグラスに二杯目を継ぎ足しながら 「リュウ飲めるのね 改めて・・宜しくね!」「俺こそ急いで帰って来たから喉が渇いて それに今日はもう運転しなくて良いからね、俺アルコール弱いから 安心して酔っちゃうかも」 先生は目を優しく細め 「嬉しいわ 意外と真面目なのね、・・リュウって酔ったら如何なるのかしら?」悪戯ぽく笑った顔は何か色っぽくさえ感じる、こんなに色々の姿を魅せる先生に驚きの感動を覚えたが 俺は澄まし顔で 「さーね、車の仕事だから、余り呑んだ事ないから、少し笑い上戸かな?解らないよ、

 「リュウを酔わしちゃうかな!・・今日は止めとこうと、この後大事な事あるからフッフフ・・」 医者の家庭に育ち自身も医師になり 人間の生理を知っているからだろうか、本当に自分の気持ちに率直でオープン 余り罪悪感を抱かせない人だ 俺もついニャリとして 「だよね!」。オニオンスープ1.jpg

 「ねぇー 味に自信ないけど召し上がって、誰にも邪魔されず二人だけで 新しい出発を祝いたかったの!」「美味しいよ 幸せをかみ締めなくちゃぁー」・・俺は少し躊躇したが「あのさー このオニオンスープに・・ピザ用チーズある?」先生は何故と言う顔で「有るけど?」俺は僅かな時間を惜しんで懸命に用意した先生を思って 「怒らないでね 心込めて作っていただいたのに・・其処のフランスパンにガーリックバターぬってトーストしてからオニオンスープに浮かし入れてチーズたっぷり乗せて三・四分位チンするの もっと美味しくなるよ、其の方がきっと美味しくなるよ 良いでしょう?」 先生は嫌な顔もせず素直な人だ 直ぐに席を立ち 「今日はリュウそこに座っていて 私が作るわ」暫く手持ち無沙汰に待ったが 自分の手で仕上げたかったのだろう 俺に言われた通り手を加えてくれた 「リュウ 如何かしら?」「うん バッチリ美味しいよ」先生も早速口にした「本当美味しいわ! リュウ如何してこんなに知っているの?」「うん 自炊が多かったから でも和食は全然駄目だよ」

 先生は折角用意してすぐに食べてほしかったのに 怒るどころか 「それにしても良く知っているわ 教わらなくてわね」と謙虚なのには驚きを感じた「そんな事ないよ、ヨシ子こそ此れだけ出来るんだもの 勉強ばかりして他の事は正直あまり出来ないと思ったよ・・でも驚いた 本当に美味しいよ!」俺を可愛く睨んで見せたが怒ってはいなかった「さぁー飲んで俺先生と逢へ本当に嬉しいよ! こんなに和やかに出来る日が来るなんて思いもシーザーサラダ.jpg依らなかったよ」先生はただ にこやかに俺を見ていた

 先生も ワインで艶かしく嫋やか(たおやか)な優しさを見せ「私もよ 学生の時お母さんの言う事聞いて料理習って良かった リュウとだと本当の自分になれ心から休めるの、それとねリュウがどんなに怒っても 私の胸の中で眠っているリュウを思うと 何故か全然恐くないの信頼しているから」お酒が入ったせいか先生は笑顔でよく喋る

 「なんだ! 全然子供みたいだね」「子供と違うわ 肉親の様な本当に心から裸になれるの! 身も心もって云うけれど本当にそう思えたから、リュウと一緒だと今まで感じた事が無い位心から休めるの だからリュウにも疲れを感じたら休めてあげたいの、リュウはそんな気持ちを抱かせるのよ」 きっと俺以上に俺の事を愛おしく感じているのだろう それに兄弟のいない先生にとって 俺は弟か子供の様に思う時もあるのかもしれないと思った。

 そのれを裏付けるか様に俺は話続けた!「俺 あの日あんなに素直に安らげるなんて! 先生が何の恐れもなく全てをうけ入れてくれたから」 先生も真面目な顔で 「私もよ 何が有ってもリュウから離れられないわ!」・・笑いながら「 ”覚悟して!”・・ な~んってね」 俺は怖そうに「おぉー 恐いなぁ!」 俺を見て笑い 「そうそう 今度の土曜日 私の両親に合って下さいね、連絡してありますから」・・「あ!それとハンバーグ・オーブンに入っているから出して」

ハンバーグとグラタン.jpg 多分 俺のハンバーグと思うが先生の倍以上の大きさだ 「この大きいのが俺の?」 「違うわ!大きい方が私よ 実はね私大食いなの 驚いたフゥフッフ」 「・・・!」「大きい方がリュウのに決まっているでしょう・・驚いた?」 「だと思ったよ、でもTVで大食いの女の人見たから まさかと思ちゃった」 俺は真剣な顔で  「うん!このハンバーグ変だぞ!すごく塩からい」 先生は驚き 「え!本当?」 俺はニヤリとして 「嘘ですよ!今の仕返し 凄く美味しいよ 本当に美味しいよ!」 「もう!リュウたら」笑いながら子供に’メ!’をする様に俺を睨む

 「あのさー 孝ちゃんが言った ヨッちゃんって先生のこと呼んで良いかな?・・それなら呼べそうだから」 俺の顔を真っ直ぐ見て 「リュウがヨッちゃんって呼ぶの可笑しいでしょう!」 「そうかなー?」 「いいからヨシ子って呼んで見なさい! リュウは私の旦那さんよ!なにか遠慮が有ってよそよそしいでしょう!」以前、何か有ったのかなぁー 少し言葉が激しい? まぁーいいか質問はよそう「じゃぁ・・ウン」 何故か何か喉に詰まった様に咳払いをし思い切って名前を呼んだ 「ヨシ子! コーヒー入れてよ」 ヨシ子はニッコリして 「ハイ旦那様 直ぐ入れて来ます」と答え 付け加えた「ほら云えば簡単でしょう」先生は決して自分の立場を誇ったり自慢する様な事は無く 本当に楽しい一時を向かえられた。

 翌日から 俺は先生をヨシ子と呼ぶ事にしたがまだ抵抗がある、ヨシ子は病院勤め何時も整った服装だ 俺はベースへの勤務、ヨシ子にも説明したが外人の兵隊の中ではスーツは対象的でチグハグだ 軽装で十分返って浮いてしまう職場の大方の外人達兵士や軍属はラフなスタイル Tシャツで軽装だ。

   《ヨシ子の実家へ》  

 翌 土曜日の朝を向かえ 二人して久しぶりの のんびりした休み、

 近くの ”海の公園” の海岸沿いを軽くジョギング中ヨシ子は突然走りを中断して 「リュウ!聞いてちょうだい」「なに」俺も足を止めた

 「私ね 以前から考えていたの 今の科も私に取って大事なことですが、その治療を受ける患者との治療内容や薬などインフォームド コンセント(informed consent)と云うのだけれど 簡単に云えば患者やその対象者とのコミュニケーション(communication)をとり理解して頂き 対象者の希望を取り入れ最善の治療法方を考えていく事なの、それには対象者の精神状態を知り理解を高める事が必要で大事だと思ったの」 「・・・」 ヨシ子は無言の俺を覗き込むように顔を近ずけ 「云っている意味わかるでしょう?」

  俺は ”それくらい分かるよ” と 少しムットしたが それだけ真剣な話だと思い 「うん解るよ」 と答えた・・尚ヨシ子は真剣な眼差しで「それでね リュウと知り合って もっと精神医学や心理学の勉強をしたいと思ったの」「それって! 俺みたいな人を見て?」「なに言ってるの! これからは世の中がもっと複雑になり 人間関係も色々心理学も必要よ、今回私もリュウも一つのきっかけで解決出来た事もあるでしょう?、今直ぐと云う訳ではなけれど」「・・・」俺は何時もと違うと感じとっていた

 「どう思う?」「いいじゃない」 俺の答えを聞いて もっと確かなものを求めるように俺を見つめた 俺達の例を挙げるまでもなく俺に異論などはない 「どう思うって聞かれても、身体や病気の事など解らないが?・・凄く良いと思うよ何時だって応援するよ 俺の事となら何の心配も要らないよ! ヨシ子が目標の有る俺が好きだと思う様に俺だってそう思うよ」

 嬉しそうに 「ありがとう 心療内科や精神病の様な専門的科は有るのだけれど、もっと気楽に悩みを聞く場が有れば良いでしょう 又その時が来たら相談するわね」ジョギングも終わり家に戻り朝食を取る。

  「リュウ 朝は野菜サラダとリンゴ バナナも確り食べてね 頭の回転が良くなるから、・・今日午後から私の両親に会いに行きますよ」まるで子供扱だが全然悪い気がしない むしろ揺ったりした安らぎを覚える 「うん 俺スーツ着て行った方がいい?」  サラダを出した手を止めて俺を改めて見る様に 「そうね? 初めて会うから其の方が良いと思うし 似合うと思うけど?・・・リュウの好きにしていいのよ」

yoshiko-太田屋前.jpg 朝食も終わりゆっくりコーヒー飲み、出かける準備を始めた「黒のTシャツにチャコールグレイの明るいスーツでノーネクタイにするよ それで良いでしょう? どうも俺 首絞められる様で息苦しいのダメなの!」

 「フッフ・・リュウは奥さんに首絞められるの嫌いで自由にしたいでしょうから・・少しラフだけれど家の両親気にしないから、それと皆と違ってリュウはセンス良いわよ それにとても似合っているわよ!」 「私もリュウ合わせて濃紺のスーツにタイトスカートにしたけど、どうかしら?」 俺に斜めに見える様に撓を付けて見せた、

 サイド・スリトがあるタイトスカート きりりと締まった足首すんなり真っ直ぐに伸びた形良い脹脛、魅力的な太腿がチラリと見え括れたウエストからのヒップラインが艶めかしい 「それって、何処かの大企業の社長秘書みたい」

 ヨシ子は訝しげに 「リュウ この洋服嫌いなの?」俺は意味ありげにニヤツキ顔になり 「そうじゃないけど かっこいいよ!眼鏡かけたら・・フフッちょっと違う事想像したから」多分俺が好色な顔になっていたのか 「なによ!なに考えているの? おあいにくさま目は悪くないわよ 其の顔 解かったわ、リュウ エッチな事考えているでしょう! それぐらい分るわよ!」 俺は慌てて 「それだけカッコ良く 魅力があるからだよ」「また誤魔化して」「誤魔化しじゃあ無いよ」

 俺は話題を替へ 「早めに出かけようよ! お昼 何所か外で食べよう」 「リュウにお任せ どこでもいいわよ」 「じゃー この近くの釣り船屋の近くで漁師の旦那と気さくの奥さんが夜は居酒屋で昼間食堂やっていて 鮨や焼き魚・煮付け等やって居る所で良い?」「うん! リュウが良ければ いいよ」

 金沢八景の野島公園に近い所で、魚料理は余り好きではなかったが、其処のは新鮮で料理も旨く何より処理もよく生臭くなくて 俺好み以前良く通って所である。

  居酒屋の看板の前で水を打っていた 人の良さそうな太り気味の肝っ玉かーさんの様な女将さんが俺を見つけ ガラガラ声で 「リュウちゃん!リュウちゃんじゃあない、如何したの 此処のところ顔出さないから?」俺は軽く会釈をしながら「今日は!」

 掃除の手を休め俺達に目線追いながら 「こんにちは じゃ無いよ! 音沙汰無いから心配していたんだから」 先生の姿に目を移し少し驚いた様に ・・「あら! 其方の場違いの綺麗なモデル見たいなお嬢さん! リュウの連れ?」 「ええ 此方 先生でお医者さん」 改めて驚いたように目を見開き 「まぁー モデルさんかと思ったよ!」

 俺は冗談に 「寂しくてさ! 女将さんに会いに来たのに」「なーんだか! そんなに可愛い子と一緒で 何を言ってるの!」 「ホント!久しぶりに顔見たくて それに美味しいお昼 食べに来たんだよ」 掃除道具をかたづけながら 「さぁー御世辞はいいから! そんな処に立って居ないで内へお入り 其方のお嬢さんもね」 先生 圧倒された様子で 「宜しくお願いします」が精一杯の様、

 中は畳の席で、大きいテーブルが6席、それにカウンターが人位座れる、まだ時間が早いので俺達だけだ、 カウンターの席の真ん中に座り 「今日は、おばちゃんにお任せだよ、お願いします」 カウンターに入った女将は 「はいよ、リュウおばちゃん じゃ、無いだろう、お姉さんでしょう!」 俺は苦笑で答えた 奥のキッチンから日焼けした漁師の旦那が顔を覗かせ目尻に深い皴をいっそう寄せながら 「久しぶりだな リュウ 何していたの?」 「又 車の方へ戻ったから」

伊勢海老の味噌汁.jpg 旦那は両手を前に出し上下に交互に振りハンドルを握る真似をしながら 「また これかよ? リュウはカッコよいからな、辞めたんじゃあないのか?・・!そっちの綺麗な人 紹介してよ」 「ああー お医者さんの鶴見先生」 ヨシ子は笑顔を作り軽く会釈して 「鶴見圭子です、これから リュウと一緒に時々伺いますので」 旦那は滅多に見せない万遍な笑顔で「リュウなんか どうでもいいの、鶴見先生だけで来て下さいね」 「それは ないよ! 奥さんに叱られるよ」

 女将は旦那を見ながら 「いいの このバカは、本当 美人に弱いだから、どうせ見るだけの楽しみだから」 旦那にゃにゃ顔で 「何言っているの、俺のモテルこと、知らないから」 俺は苦笑しながら「それより、腹へったよ!俺の飯 まだ?」 旦那慌てて 「そうだ!今出すよ」 伊勢海老の頭が入った、魚介類の味噌汁に金目鯛の煮付け・鱸の刺身・鮪の鰓(カマ)の肉をハーブと塩コショウ・ニンニク・バターでホイル焼に炊き立てのご飯、 先ずは味噌汁を手に口にしたヨシ子も思わず 「これ美味しい! リュウも頂いて見て」 俺も味噌汁を口にしながら 「だから 此処のは美味しいと云ったでしょう」

鮪カマ香草焼き.jpg 旦那さんがカウンター越しに 「先生 お代わりもありますから、一杯食べて下さい」 奥さん、旦那を誇らしげに見ながら 濁声で 「これは 顔と頭は悪いが 腕は確かだよ」 「そんな事ないです! 顔だって 味が有って魅力的ですよ、私 好きだな」 旦那嬉しそうに 「ほうら見なさい 俺はもてるから」 女将は手の平で旦那を叩くまねをして 「バカだね! この人は 方便や お世事も解らないから」 とにかく笑いが一杯で魚も美味しく二人してゆっくり過ごし満足した、

 支払いを済ませて 「じゃぁー又近い内に来るから 今日はご馳走様」 ヨシ子も満足したようで 「本当に楽しく 美味しかったわ ありがとう御座います」 女将さん嬉しげに 「先生の口に合ってよかったよ、リュウ レースは危ないから身体だけは気を付けてよ」 旦那も奥で手を上げていた ちょうどお昼時、近所で働いている人達がお店に集まって来た 「よぅー リュウじゃないか 珍しいな元気かよう?」 「あぁー 何とか生きているよ! 今日は急ぎの用事がありるから 又近い内に」「おお」互いに手を上げながら挨拶を交わし 彼らは店に入った、

 店中に入る彼らを見送りながらヨシ子は 「リュウ 本当に良い夫婦だね、料理も美味しかったし 本当 リュウは色々な人知っているのね、本当の暖かさが伝わってくるわ あんな感じのお店に入ったの学生以来だわ」 「気に入って良かった、 俺・・魚余り好きでは無いけど あそこのは何時も新鮮で美味しく食べれるよ」。

 さぁー! いよいよヨシ子の両親の所だ、俺はチョット躊躇したが 「..ヨシ子!」 やっと名前呼べた 先生は特別驚きもせず極自然に 「なぁーに?」 と優しく応えてくれた、名前が呼べた事に ほっとして 「前から思っていたが 歩き方綺麗だね」 「そーぉ・・ 学生の時にね スカウトされ少しモデルやった事あるから、そこで教わったの」 「モデル? あの洋服の?」 「ええーそうよ」「それでか 何時も決める処決まるからレースクィーンじゃぁ 余りいないよ」  「それにね 母がうるさかったからマナー教室に通っていた事があるの・・リュウもガサツに見えるが ちゃんとマナー出来ているね 一緒にいるから判るの」

 「俺 まだ子供の頃 お袋に ”なにがマナーだよ! どのホークやスプーンそれに箸であれ、手掴みだって その人が美味しいと思う方法で食べればいいんだよ と 嘯いた事もあったが お袋に叱られたよ ”お前が カッコ付ける為にマナーが或るのではないよ、他人が健司の耳元でクチャクチャしたり食器をカチャカチャ音を立てて食べたり喋っていたらいやでしょう、他人に迷惑掛けない様にする為だよ” だって 叱られたよ」それに これはヨシ子に黙っていたが前の奥さんの義父にホテルや高級レストランに幾度と無く連れて行かれ その時大抵の事は覚えた。

 先生の実家への途中 和菓子店でお土産用の綺麗なスイーツ菓子を購入、 いよいよ鶴見医院に着いた 駐車場にはアウディRS5・クワトロ(Audi RS5 quattro4.2L V8FSI)・・に驚き この車アウディはポルシェに変わりルマン24時間レースで勝ち続けているドイツメーカーの車 此れは義父と話が合うかもと内心思い、

 「ヨシ子 これお父さんの車?」「ええ そうですが なにか?」「これ皆の憧れの車だよ! お父さんと話が合うかもしれない?」「そうなんですか このオリンピックマークみたいの車 最近買い換えた様ですよ ちょと古臭いスタイルと思っていたわ、これからは もっとリュウの好きな車の勉強しなくてはね」 「別にそんなにしなくても いいよ」「あら 互いに お話し合わなくていいの? つまらないでしょう」「それも そうだね その車スタイル 最新の空力 流体力学を駆使した物ですよ」何だろう? 説明までして とても素直な俺になっている「へー そうなの!覚えておくわ」

 今日は鶴見医院の診察は臨時休業午前中で終わりの張り紙があった、きっと俺達の為であろう 何故か身が引き締まる思いである。

 裏手の家族用玄関扉を横に引きながヨシ子から先に入り 声をかけた 「ただいま」車の音で気付たのであろう 土間の上がり口に身構えた佇みは ヨシ子のお母さんと 直ぐに分かった ヨシ子似の顔で スタイルもよく賓の良い人だが まず俺を確り頭からつま先まで射るような目付きで一瞥され、穏やかに見えるが 俺に対して余り良い印象は持っていない様子だ!

 俺に向かって 「お待ち致しておりました どうぞお上がり下さい」 俺は緊張していたのか 少し大きな声で 「はい 失礼します・・ 龍崎と申します! 突然で申し訳有りません 宜しくお願い致します」もっと人付き合いの良い人なら こんなにぎこちない 挨拶はしないだろうと思った、

  奥の方には五十歳位の豊満な看護婦と オット 今は看護師と言うらしい、それに ヨシ子と同じ年位の細身の女性事務員らしき人が ちらちら此方を見ている、

 ヨシ子は母に向かって お土産の紙バックを渡しながら 「お母さん これ龍崎さんから  お父さんは?」 義母と呼んでよいのか兎に角 愛犬であろう パピヨンが尻尾をこれ以上早く振れないほど激しく振り ヨシ子に跳び付いて来た 俺なら大型犬をチョイスするのに 少しガッカリだ!

 ヨシ子に飛びついていたパピヨンを抱き上げ 「ルル今日は静かにしてね」ルルは初めて見る俺に ヨシ子の抱き上げた腕の中から乗り出すように 俺の匂いを嗅いだりそわそわだが 俺を見ながら嬉しそうに尾を振っている

 「ルルは解るようね リュウに吼えたりしないわ」 やはり飼い主が心を許している事が解っているのだろう、ヨシ子はルルの頭を撫でルルの頭を下げる様に押して 俺を見ながら 「ルル! リュウよ 宜しくねって」なにか風薬の様な名前だな、俺もルルの頭を撫で ヨシ子に向かって 「俺も小さい頃 近所にシェパードが居たので犬は好きだよ ルル宜しく」 と挨拶を送る、

 義母は まだ探る様な鋭い目付きで、俺にむかってお土産の袋を示し 言葉を投げ捨てるように 中身も見ないで「これ有難う これからは気を使わないで下さいね」と 作り笑顔が明らかに俺を嫌っている感じを受ける 「どうぞ お父様は応接室で待っていますよ」 ヨシ子は母にルルを預けながらドァをノックして大きな声で 「お父様 入りますよ」ドアを開けヨシ子と俺が入る

 俺は室内に入り緊張気味に 「今晩は 龍崎 健司です!」 義父は体格が良く全体にガッシリとしていて温和な顔だ 患者として訪ねたのなら 包容力があり安心できる人だろうにと感じたが 今は緊張でいっぱいだ、

  義父は待ちかねた様に 「おお 君か!其方にヨシ子も掛けなさい」俺は久しぶりに緊張していた 一刻も早く要件を済ませ この緊張から解放されよう考え ゆとりなくその場に立ったままで 「あのぅー お嬢さんと結婚しようと思いまして」と切り出してしまった

 義父は真っ直ぐ俺の目を見て 「その件はヨシ子から聞いているよ!まーぁ掛けたまえ ヨシ子も座って」何か罵声をうけると思った俺は身構え緊張しきって力が体全体に入っていた「はい」 俺は義父の差し出した手先のソファーに初めて気付き 少しホットして腰を下ろしたが 何か始めての就職面接試験を受けた時の様な緊張が戻り質問を待った、

 義父は咳払いをして 「ウッフン! ヨシ子は今までお母さんの言う通りのレールに従って来たが、ヨシ子が始めてお母さんに あんなに逆らって意見を言った事は無かったよ、最も もう親が色々言う歳では無いからな」

 義父は優しくヨシ子を見つめ私は ヨシ子が幸せで有りさえすれば それで良いと思っているよ」「はい 有難うございます」と俺は頭を下げ 余計な一言を発してしまった「経済的に幸せに出来るか解りませんが? 幸せで在りたいと思います」 義父は少しむっとした顔付きで 「龍崎君は変わっているね! 今まで沢山 娘を下さいと来たが 皆さん 幸せにしますからと云っていたがね、君の言葉に責任を感じられないよ! ヨシ子は今までいろいろな縁談があったのだが全部断って 結婚しないのか心配になっていたところだが・・」

  責任か!俺はおふくろからも云はれていたが 何故か意地になっていた 「はい、私は将来約束など出来ない事は言いたくありません、ただ今も将来も、心から幸せで有りたいと思いますし、今幸せに思っているから、お願いに伺いました」 呆れたようにヨシ子の顔を見て 「そうか ヨシ子! 変わっているな」 ヨシ子は慌て俺に助け舟を出し 「お父様!そんな事いいでしょう! この人正直なのよ!」

 義父は少し落ち着いた顔で 「まぁー 親として娘の幸せを望むものだよ、それに君の仕事は危険が伴うから心配だが! ヨシ子が承知の上今更何も云わないが 細心の注意を怠わらないようにしてくれ!」また やってしまった! 俺って奴は!お父さんの云う事はもっともだ 済まない気持ちで頭を下げ「はい 解りました! 心致します、先ほどは生意気な事云って申し訳有りませんでした 宜しくお願いします」俺はもう一度 深々と頭を下げた、お父さんはヨシ子の顔を見て苦笑していた、

 ヨシ子は父に 「それと お父様 私 精神医学の勉強したいと思い大学に戻ろうと思っています、その時は又ご迷惑掛けると思いますがお願い出来ますか?」「フム・・それも良いが お父さんの元気の内に頼むよ」 俺は神妙な態度で 「私もこんな事云える立場ではないのですが 賛成です、自分達で出来ると思いますが もし力不足の時は宜しくお願い致します」と頭を下げた、 義父は神妙な面持ちで 「ヨシ子の為に 私も出来るだけ応援するよ」 もう一度俺は頭を深々とさげ 「有難う御座います」

 ちょうど 義母さんがお茶を運んで来た 義父は 「お母さんも掛けなさい 龍崎君に話す事は無いのか?」 義母はヨシ子の顔を伺いながら 「ええ ヨシ子とお話しましたから、ただ一人娘ですから 医師の方で此の家を継いで欲しかったのですが 私の意見だけ押し付けてはいけないから」 ヨシ子は義母を制する様に 「お母さん その話はリュウには関係ないでしょう!」 「そうだったわね 龍崎さん 御伺いしたいのですが、ヨシ子に聞いた話では 如何してあの安定した会社をお辞めになられたのですか? それと何故、自動車レースなのですか? よく判らないのですが?

 危険で将来が見えない職業 何処の親であっても ヨシ子の母の言葉は間違ってはいないだろう、 俺は神妙に 「はい 私の母にもひどく叱られましたが、入社して二年そこでは 単に会社の派閥争いや歯車の一部でしかなく、生意気のようですが 私の技術や知識など何の意味も無く 人生が終わってしまうような気がして 嫌気がしていた処、自動車レースの触れ レースなら自分が生きている実感が得られ それに其のまま誤魔化しのない結果が得られると思いました」

 俺の説明では余り納得行かない様子でしたが 「そうですか 私には惜しい気持ちが致しますが」 俺は逆らはず 「今では地道な努力も必要な事も解っていますが・・」 俺の考えが変わらないと思ったのか「ともかく・・ヨシ子をお願いします」 小さく頭をさげた 「ハイ 此方こそ宜しくお願いします」 俺はもっと反対されると思ったが ヨシ子が全て話してあるらしく ほっとした。

鶴見家ダイニング.jpg 義父は両膝を叩き立ち上がり 「よし! 今日は家の従業員と云っても二人だけだが紹介しょうと残って頂いたから居間の方へ移ろう」 居間には仕出しの寿司や刺身手巻き用寿司セットなどダイニングと居間のテーブルに沢山揃え用意して有り、そこには中年女性の看護師さんと ヨシコと歳が同じ位の受付の女性が待っていた。

 義父は二人の向かって 「今度ヨシ子と結婚する 龍崎君です」と言いながら、俺を促すように肩を押し前に出した 俺は戸惑いながら 「龍崎です 何かとご迷惑掛けますが 宜しくお願いします」と軽く会釈を送った、

 看護師の小太りの方が 「安部と申します 此方こそ宜しくどうぞ」 続いて細身で眼鏡をかけているが 清楚で綺麗な感じだ 「私 受付をしています奥村ともうします 宜しくね、 想像していた方より全然違っていて驚きました」 俺は手を首に充て こすりながら 「はぁー? ご期待に添えなくて どうも」 すぐさま反応し その上ずばずばと物を云う人だ 「いえ! 青白く学問ばかりして眼鏡を掛けている人を想像した物ですから、若くて凄く精悍で好い男でビックリしました!」 俺は言葉に詰まり 「はぁーどうも 何と答えたら?」 ヨシ子慌てて 「奥村さん リュウが困っているでしょう それに そんな人想像していたんだ! 私だって 選ぶ権利あるんだから」皆の小さな笑い声が聞こえた、これは義母の影響かな?

 義父はビールを飲みながら 「さー皆 頂きましょう! 龍崎君も頂きなさい」 「あっ はい! 皆さんもリュウで良いですから リュウと呼んで下さい」 義父が 「リュウ君は 車のレーサーだそうで成績も良いそうだよ」事務員や看護師に向かい説明した「いやぁー それほどではないですよ」と頭を掻き 俺はヨシ子の両親をどの様に呼んでよいか判らず義父に向かい

 「お父さん..お父さんとお母さんと呼んで良いのですか それとも 先生とか? ヨシ子さんも先生ですから」義父は義母に向かい同意を求める様に「お前 それで良いよな! ちょっと 最近 呼ばれた事無かったから、お父さんか!?まぁーいずれにしても義理の父母だからな、まぁー その内なれるだろう」 義母は当惑した顔をして 「何となく ヨシ子ならともかく むず痒いわ」何となく寂しそうにしている、ヨシ子が俺をかばうように「お母さん! その内馴れるわよ」看護師の方が 「私達 おお先生と呼んでいるは」ヨシ子 それには不満そうに「それでは ちょっと! リュウのお父さんになるのですよ」 

 事務員の奥村さんが車好の俺に気を利かせ話題を変えてくれた 「あのうーリュウさん 大(おお)先生は車が好きで最近ベンツから買い替えたんですよ」 「あ!はい 私も駐車場で拝見しましたが良い車ですね 車好きの憧れですよ」 義父は得意そうな顔で 「そうか! リュウ君 友人のデイラーの奨めで購入したんだ、車のプロが言うのだから間違いないよ」と女性達に 少し力を込めて話した、

 多分 彼だけが男 女性陣に非難されて居たのではないか? 難しい説明をしても解らないと思い 「あの車はQUATTRO(クワトロフルタイム4WDハルデックス カップリングとコンピューター油圧システム)と云って音楽で云うリブラートですか?声を震わせる事ですが 波のようにクエバー(quaver繰り返し震える)凸凹した道でもスムーズに走れる事とクワトロ(quattro)の意味も兼ねて 足廻りが良く運転が楽でその機構がルネサンス(renaissance)的で素晴らしいと言う意味らしいです ですから非常に安全ですよ」俺の話を聞き先生は得意げに皆を見回し 「だろう!、だから良い車と言ったでしょう!」 だが女性には余り興味がなさそうだが 義母に一矢を報いようと思っていたのかも しれない!

 俺は話を変え 「奥村さんは 事務管理しているのですか?」「ええ?」「顧客・・では無く 患者さんのカルテと言うのですか? その整理に住所や連絡先・予約の管理・薬や血液等 外注検査の管理 それに税金の申請がもっと楽になると思いますよ、コンピューターのプログラム 個人医院用など色々有りますから」ヨシ子俺を援護するように「そうよリュウは米軍基地でコンピューターの専門で雇われているんだから 見て頂きなさいよ、仕事楽になるわよ ね!お父様」 義父は頷きながら 「それはいい そろそろ家もコンピューター入れようと思っていたところだよ」 皆も少しずつ和み始め 看護師の安部さんも好意的で 俺に食べ物を沢山勧めてくれた、先ず先ず一安心、

 夜も遅くなり帰る事にした、義母と女性の二人が見送りに出て お俺が運転席で挨拶を交わしている時に、高校生で在ろう身体の大きい男三人がすれ違いざま 義母に当たりその一人が罵声を発した

  「このクソババアー! 何 たしてるんだ!気を付けろ!」 俺は慌て 咄嗟に車から飛び降り 「おい!お前ら ちょっと待て! 俺のお母さんに何て事言うか! このバカが あやまれ!」 俺の余りの見幕に高校生達はビックリして後ずさり、追い討ちを掛けるように 「てめいらの おふくろが言われたらどう思う、ちゃんと頭を下げてあやまれ!」 もう一歩前に出て威圧した 学生達三人は俺の見幕に慌て 頭を深々と下げ 「おばさん すみませんでした」と何度も頭を下げた 「よし もうそんな事するなよ、お前へらのお母さんが悲しむぞ もう行っていい!」 「すみませんでした」 もう一度頭を下げ逃げる様に去っていった 俺は咄嗟の行為に 照れを隠すように 「一人では良い子だのに 仲間がいるとつい粋がってしまうから、それじゃぁーお母さん大丈夫ですね、皆さんお休みなさい」

 俺はヨシ子の実家を訪ねる前から 反対され快く思われていない事は解っていたのだが、義父母の雰囲気を感じ遣る瀬無く つい学生達に必要以上に怒りをぶちまけていたのかも知れない、もっと悪い印象与えてしまって少し後悔の気持ちであった 

 車で帰宅途中なぜか 互いに無言であった、助手席のヨシ子の携帯が鳴った 「はいお母さん・はい・・ええ・・ええ・・はい・・・分かりました おやすみなさい!」電話を終えニコニコしながら 「リュウ お母さんヤクザ見だってビックリしていたわよ」ちらりと俺の厳しい顔を見て「うそよ 凄く感動してリュウの事好きになったって お母さん単純なんだから リュウの事 良い青年ですって!」

 俺はビックリ 「本当?嘘でしょう! つい許せなくてカーとなり やっちゃった!、柄が悪くてお母さん驚いたと思ったよ!どうしても許せなくて きっと益々印象悪くなったね」「母からは本当よ! 私の方がビックリよ・・ でも素敵だったわよ」なんだ 自分だってお母さんと変わらないのか 「今までリュウの様に体を張って守ってくれる人に逢った事なかったから、それに ”俺のお母さん” てリュウが言った事 凄く感動したみたいよ」「本当てすか?何か信じられないな」「本当よ!・・ヨシ子も守ってくれる?」「当たり前でしょう ヨシ子だったら手が出ていたよ」

 嬉しそうに 「本当う嬉しい! それと..リュウは頭下げる事凄く嫌い見たいなのに 先ほど私の為にお父さんに頭を下げて頂き 本当に嬉しかったわ ありがとう!」 「そんな事ないよ理由さえ有れば こんなに軽い頭いつだって下げるよ」俺は人って変な所感動する物だと 解らんな??と思った、

 とりあえず少しほっとし「ヨシ子 結婚の事 前もって話してくれたんだね、でもお母さんの思いも解らない事ないし 悲しそうだったから、ヨシ子の両親に会って少し心が痛かったし そうとう反対されたみたいだね、初めてお母さんに逆らったの?・辛かったでしょう!」 「リュウそんなに 優しい事云わないで なお辛くなるでしょう!」やはりそうとうに 反対されたのだろう 窺がい知れる「ごめん! 本当にありがとう」 「リュウと同じよ 当たり前の事でしょう、私の為でもあるのよ もう云わないで!」

 「解ったよ ねぇー明日 鎌倉に行こうよ、俺達の報告と皆の幸せをお願いに行こう」「いいわよ そうしましょ、リュウが無事で入賞出来た事も 報告しなくてわね」

             ≪ 鎌倉 ≫

八幡宮.jpg 翌日 日曜日朝10時頃 鎌倉に付いた、初夏の日差しの中鶴岡八幡宮の前の駐車場に車を止め 大きな鳥居を抜け中央に石で組んだ急斜の太鼓橋があるが危険なのであろう渡る事は出来ない その太鼓橋の脇を通り過ぎ 広い砂利道の中央に石畳が長く真直ぐに続く八幡宮境内を手をつなぎ歩いた、神社の本殿に向かう上り口の長く急な階段左手の御神木、大きな銀杏の木のある石段を息を切らし上り切る、(下段の写真 今は倒れて見られない以前の大銀杏 現在再生が進められている

 俺は写真を始めたばかりで 余り解っていないが、先ずは形から 最新デジタル一眼レフカメラを持ちカメラマン スタイルのチョッキやパンツそれに気取ったハンチング帽を少し斜めに被り、 ヨシ子は 淡いクリーム色のパンツと黒の大きな襟をし 胸元がブイ字に大きく開いたブラウス それにパンツと同じクリーム色で透ける様な薄手の大きく長いスカーフ・鍔の大きな黒の帽子、背丈も170㎝の女性としては長身でスタイルも良く どう見ても目立つ、

 参門の両脇の仁王様を抜け大きな賽銭箱の在る仏殿前で 二人して賽銭を投げ入れ、仕来り通りに手を打ち 結婚の報告と家族皆の安全と幸せを祈り、参拝を終え ホとしてあたりを見回している俺にヨシ子は問いかけた 「リュウ何をお願いしたの?」俺は当たり前の返事をした「皆の幸せに決まっているでしょう ヨシ子は?」「フフ内緒」「俺応えたよ」

  ヨシ子は意味有りげに微笑んで「じゃー云うわ 可愛いリュウ似の赤ちゃん!」そんな事を少しも考えていなかった俺は内心驚いた「あっ俺 すっかり忘れていた! ・・もう一度お願いに行こうか?」俺は子供の事など全然思いもしなかったが 考えて見ればヨシ子は三十過ぎている 当然考えているだろうと しばらく後から思った「大丈夫よ どうせ忘れていると言うか子供に興味無いと思って、 リュウの事も確りお願いしたから 自動車レースの安全もね」「別にそんな事無いよ」と云ったものの その通りかも、自分の子供の事など考えても見なかった 「リュウは車の事だけだから そんなに無理しなくていいよ、・・私はリュウの子供欲しいから!、でもこればっかりは神様の贈り物だからね」

 これからの生活の事など俺には全く依存していない、それも少し男として不満で有ると思っているのだろうが図星である、そんな事を話ながら、境内をあちらこちら見学し、写真を写し、ヨシ子はモデルも遣っていた事もあり、ポーズも決まり人目を引く、

 二人の記念に近くに居た叔父さんにシャターを押して下さいとお願いし 叔父さんが 「モデルさんですか?綺麗ですね」面倒だったので、ヨシ子と目を合わせ 「ええ、そうです」と答えたのがきっかけか? 叔父さんも力が入った  ”もっと左に寄って” とか  ”二人共もっと寄り添って”  絵を描く人の様に両手の指を四角に作り覗き見して、プロ並の指示をしてきた、その仕種が余りにも滑稽で叔父さんに悪いと思いながら ヨシ子と顔を合わせ笑いを堪えて5,6枚撮って頂きました。

鎌倉鶴岡八幡宮の大銀杏.jpg しばらく境内を散策して ヨシ子がお手洗いに行きたいと云うので 大鳥居入り口近くの今は封鎖されている石で組んだ太鼓橋の左手池の処で待つ事にした、

 暫らく池をぼんやり眺めていると 年頃二十台後半から三十位で和服の如何にも鎌倉婦人と云う感じの上品な女性が声をかけて来た!

「鎌倉を撮影ですか?」俺は突然の質問に戸惑い 「えぇ まぁー」と曖昧な返事をした 「歴史を尋ねてですか? 私 ちょうど用件が済みましたので 名所などご案内いたしましょうか? それに そのカメラのレンズ ”ツァイス(Carl Zeiss)”でしょう?」しばらく和服女性の首筋と腰から足にかけて色気のある曲線に見入っていたが、慌てて返事をした「はい そうですが?」また何か話しかけ様としたが 俺は遮る様に 「貴女の思っている様なプロではありませんよ 有難りがたいですが 今日は連れが居ますので」と返したが少し残念 下心が出て一瞬今日でなかったら案内に応じていたのかもしれないと思った 俺の服装やカメラを見て写真家と間違えたのか? その和服の女性は名刺を出しながら

 「そうですか 残念で御座います、宜しかったら此方に連絡下されば何時でも伺いますので」 「・・えぇ? その時はお願いします」俺は虚ろに辺りを見回して「もう連れが見える頃ですので・・失礼します」和服の女性は淑やかにお辞儀をし 「では後日 お待ち致しております」と告げ内股で静かに立ち去り、俺は少し残念そうな顔で見送っていた、

 女性の立ち去った方向に目を向けると ヨシ子が優しく微笑んで立って待っているのに 初めて気付き 何故かドッキとした 「どうして 声かけてくれなかったの?」俺に近ずき これ見よがしに 和服の女性を見送りボゥーとしていた 俺の目先で思わせぶりに手を振り女性の見送を妨げた 「どうしてって! 此方が知りたいわ」

 俺の返事がないので「 リュウが楽しそうに話していたから、知り合いかと思ったの」・「本当はリュウがどんな対応するのか興味があったの リュウ モテルのね!」

 俺は初めて改め名刺をみた 着物の着付け教室の講師であった 「俺よほど暇に見えたのかな、何所か変だよ何かの販売?狐に摘まれた様だよ 逆ナンパだね」 「それだけ、リュウは魅力が有るの、私が惚れているだもん!」 「ヨシ子だってモデルさんですかて、聞いていたよ」他人が聞いたら、バカらしくなる話だが俺達はそんな話でも今は全て嬉しく楽しかった、

 境内を出て八幡宮を背にメイン通り右手の小さな裏道り小町通り.jpg小町通りに入り 少し歩いた所をさらに小さな路地を右に折れすぐ沢山一坪か二坪位の小さなお店が幾つも集まっている、そこで可愛いガラス細工の加工しているお店に入った、以前からヨシ子に何かプレゼントしようと考えていたから あちらこちら見ている内に薄っすらと微かにピンク色した真珠の入ったティアドロプ(涙の形、中に薄い水色の水の中に真珠が入っている)形で留め金部分を金網目のピアスと金のネックレスのセットが一際 目に付いた、

 何故か迷うこと無く此れにしようと思う「ヨシ子 これ付けて見て」女店員に申し出、取り出して貰った 「うん 思った通りとても良いよ、似合っているよ ねー店員さん」「ええ とても似合っておにあいですわ、今わバロック真珠もカジュアル向きに出ていますが?」 俺は冗談で「いえ! バロックも個性が有って良いですが 俺も不完全ですから 完全な物に憧れているのかな?」 女店員 何んとて答えて良いか困っている様子、

 俺はヨシ子に向き直り 「これで ヨシ子どう?」女店員 「お目が高い、少し金額がお高いですが、これは純正御木本で厳正されたアコヤ貝から取れたものです、御木本の保証書も付いています」何故か邪魔されたく無く 女店員を無視して「そうですか 其れよりデザインが気に入りましたので ヨシ子付けて見て」内裏雛.jpgヨシ子 胸にネックレスを充て鏡を見て 「素敵よ!でもいいわよ 高い時計戴いたばかりじゃない」「あれは別だよ それはそれ」女店員に向かって 「じゃぁー これ頂くよ! このまま付けて行きますから 今外したものを包んでくださいね」

 ようよう品物が決まりほっとしていた 処に ヨシ子急に俺の腕を掴み向きを変えさせ 「ねー、これとっても可愛いわ」と言いながら 10cm足らずの小さな球と云うのかドーム状のガラス容器の中に入った 其れは小さな可愛い季節外れの内裏雛を指差して「可愛いでしょう!リュウと私みたい・・でしょ」ヨシ子はそう云って俺を見詰めた

 「お姫様は兎も角 俺そんなに上品じゃないよ」「そんなことないわ リュウだって素敵よ ねーお願い ついでに買っていいでしょう?」 「そんなに気に入ったの?」 「うん」 とコックリしながら悲願する様に見詰める顔を見て、俺は女店員に 「これも一緒にお願いします」 ヨシ子の喜ぶ顔が眩しいほど美しいとその時感じた。

 思ったよりネックレスの値段が高かったが如何してもが気に入り欲しかったので余り、好きでは無かったがカードで支払いを済ませた 「色々の意味を込め! ヨシ子にプレゼントだよ」 「ありがとう 本当に嬉しいわ、リュウから初めてのプレゼント腕時計といっしょに大事にするわ」 店員さんに向かって 「良く似合っているでしょう?嬉しいわ!」と無邪気に質問した「はい 本当にお似合いですわ 宜しかったですね」 先生はなお 嬉しそうに「私達の記念なの嬉しくて!」 本当に子供の様に嬉しそうでした、店員さんもその表情を見て「それは良かったですね、お幸せに!” 」 店員さん達一緒に喜んでくれました こんなに素直な処が有り何か皆を幸せにする人だと思った。

 店を後にして 「お腹空いたね、お昼なんにするの」 「あの店員リュウが変な事云うから困っていたわよ・・リュウ、それよりいろいろの意味ってなーに?」 冗談で小指を立てて 「いろいろはこっち色気の色々だよ」 「こっちって?」 「いろいろはいろいろだよ 分らなければいいよ 深い意味無いから、其れより何か食べようよ」

 ヨシ子小首を傾げ 「おかしな人?..そうね、日本そば屋さん在るかな~ぁ お蕎麦にしない?」 「あぁ 確かもう少し行った処の四つ角左に入った所だと思うよ」 「リュウ良く知っているね 前にだれか..ごめん」 「気にしなくて良いんだよ 今までお互い其々生きて来たんだから、色々有って当然 前にも云ったと思うが互いに過去は変えられないよ 其れより過去が有ってお互いの今が有るのだから 余り気使いすると返っておかしくなるよ もっと素直に行こうよ」 「ごめんなさい リュウは私の過去を決して聞かないのにね 時々リュウのほうが大人だね、リュウって 本当に色々な面を持っていてビックリよ」

 考えてみたら、俺が生意気な事云っても ヨシ子は今まで俺を否定する事も叱ったも無かった 余裕なのか?母が子供を見守る様な優しさに溢れた目で見詰ている、益々安心と安らぎを感じる 「此処だよ 入ろう」 店に入ると お客さんが誰も居なく 主人らしき人がカウンターで ザル蕎麦をズーッズズーッと音を立て美味しそうに食べていた、俺達はその隣に座り 何をオーダーするか壁のメニユーを見ていると先ほどの主人らしき人が 「ここのザルで食べたら蕎麦の味が分かって美味しいよ 信州から取り寄せて私が打っているから」

 このまま 黙っていると 薀蓄を語りそうだったので 「私も信州に友達が居ますから、良く聞かされました、じゃぁ大盛のザルお願いします、それと天ぷら別に二つお願いします」 ヨシ子も困り顔で 「ザルでお願いします」 本当に蕎麦は美味しかったのですが やはり たれの付け方までのうんちく、その内お客が入りだし ほっとし味蔵漬物店.jpg二人して早々に食べ店を出た、

 「リュウ なにか食べた気がしなかったね リュウは不思議な人ね、何故か人を引き付けるのね?」 「そうかなぁー、でもそう云えば よく全然お客の居ないお店でも俺が入ると不思議に直ぐに混雑してくるだよ」「ふしぎね?」「この先に味蔵(あじくら)と云う漬物屋が在るから 美味しい漬物何か選んで行こうよ、ヨシ子のお母さんにも届けてよ 少しごますりしなければ」「アッハッハ! そんなにしなくてもよいのに でも ありがとう」

 この小町通りは何時でも観光客や東京方面の人達で肩を触れんばかり混雑している、紫いものソフトクリームや近所でおせんべいの焼く匂いが漂ている ここも有名店で 皆食べながら歩いている、

 向かいの美蔵漬物店の中に入る此処も人々で込み合っている 「わぁー 沢山種類が有るのね! 珍しい物ばかりで迷ちゃう」「味見出きるから 好きな物選んで」 私達の物とお母さんに届ける漬物を混み合う中 三・四点ずつ選び駐車場まで混雑の中を戻る。

 由比ガ浜.JPG海岸(由比ガ浜)まで足を伸ばし砂浜に入り 砂浜で二人が写真を写したり冗談を交わしジャレ合う様に暫らく楽しく波と遊んでいると、此方に 貴賓の有る初老の男が近ずいて・・何処かで遭った様な?でも如何考えても思い出せない!・・その老人が俺に向かって 「これ 宜しかったら差し上げます」 と云って 小さなクスリ入れの様な透明な袋を差し出し 「桜貝です 綺麗ですよ 沢山拾いましたから どうぞ」と差し出した

俺達二人して覗き込み ヨシ子は「綺麗!淡いピンク色で本当に綺麗!ねーリュウ」と俺れに同意を求める 「これ頂いてよろしいですか?」 「ええ どうぞ!貴方方に・・」 その老紳士はヨシ子に桜貝の入ったビニール袋を手渡した 俺とヨシ子は揃ってお礼を述べ「有難う御座います」 その初老の賓のある人は低い嗄れ声で 「どうぞ、お幸せに!」と返事もろくに聞かず 踵を返す様に向きを変えた

 ヨシ子お辞儀をしながら「有難う御座います」とお礼を述べたが その老人は振り返りもせず後ろ向きのまま片手を上げヨシ子に応えながら 砂を踏む気配もなく 驚くほど静かにスムーズに立ち去って行った、俺は目の錯覚か!?その老人の後ろ姿を呆然と見送り 何か一瞬寒気を覚えた!

 ヨシ子嬉しそうに「 綺麗ね! リュウと居ると不思議な事が起きるわ」 思わず俺は 「如何して何だろう? こんなに他にも楽しそうなカップル沢山居るのに?」 なぜか俺のsixth-senseが騒ぐ! 何故か心に引っ掛る 何処かで合ったのかと考えたのですがその初老の紳士を思い出せない 俺は何か浪子不動jpg.jpgその時一瞬不吉な気持ちになった、

 其れは 徳富 蘆花 の不如帰 ”ほととぎす” の小説(病弱の浪子の台詞...人はなぜ死ぬのでしょう)を思い浮かべたからだ、逗子の海岸に石碑が立っているからか?

    作詞:土屋 花情       さくら貝の歌 

うるわしき 桜貝一つ  去り行ける 君にささげん  

この貝は 去年の浜辺に 我一人 ひろいし貝よ

  ほのぼのと うす紅染むるは 我が燃ゆる胸のさざ波 

    ああ なれど 我が想いはかなく うつし世の渚に果てぬ

 「どうしたの?」 ヨシ子が俺を覗き込む 「うんうん 何でも無いよ、これはね さくら貝の歌があって こ桜貝.jpgの貝殻に二人の愛が実る様に願いを込めて集め 集めたさくら貝の中からお気に入りのさくら貝のひとつに恋の願いを込め いつの日か願いをかけた桜貝を胸に 憧れの人に自分の気持ちを告げ 恋の成就は さくら貝が海に帰るとき、 桜貝を拾った海岸を訪れ 成就したらお礼の気持ちを込めてその海に戻すんだって、きっと さっきのお爺さん ヨシ子が余り綺麗だから若い頃思い出して 自分の若き日の失恋か壮絶の悲恋の思い出と重ねたのかな」・・「それとも俺達 年が離れているから不倫の仲と思ったのか?とにかく旨く達成する事を願い渡してくれたのでは?」折角 あの老人の好意だが 俺の心の中で何かもやもや納得がいかない

 俺の不安の気持ちはくみ取らず 綺麗の言葉だけ残ったのだろう「また!リュウはおせいじ云って! それじゃぁー 私達に必要無いね リュウと私上手くいってるもの! でも凄くモダンで賓のある人でしたし願いが籠っているから」「・・」「それと この貝殻 さくら貝と云うのね 淡いピンクで綺麗よね! リュウとの記念に持って帰るわ! 赤ちゃん出来たら 一つずつ戻そうね」俺はこれ以上訳もない不安を考えるのはよそうと思った

 それにしても せっかくの好意だ 「ねー これ いったい幾つあるんだろう! こんなに作るの?」 「大丈夫 リュウなら出来るよ」「こんなに?オットセイだよね」 「その位 健康で有って望しいから」

 又 しばらく二人で写真を撮り波と遊び  ヨシ子が躊躇するように「リュウ 前の奥さんの事だけど 気を悪くしないで聞いてくれる!」 「うん 何?」 「一度 合いに行ってらっしゃい、リュウ何か何時もひっかかっているみたい」「如何して? 俺はもう何とも思っていないよ」「解かるのよ! 男女の愛ではない事は解っているの でもね リュウは正直で優しいから 判ってしまうの!」「・・」

 「 私の事は気にしなくて良いのよ、其の方が私にも良いの 何時も気になって吹っ切れない気持ちのリュウを見ているのが 私 辛いの!」「・・」「 心の中でも ちゃんと別れて来てと思うから 気持ちの整理ついてからで良いから そうしなさい、私の為にもリュウ自身の為にも  ね!」 語尾はかなり強くなっていた

 凄いな全て分かっているよ、俺が、幸せを感じれば感じるほど、もう、心の傷は癒えたのか、一人で大丈夫なのか?彼女の事が気になって心配になっていた事も事実だ!それと前の奥さんの父からの資金の提供スポンサーの件、先生に対し後ろめたい 「ご免なさい、その内ね」 ヨシ子が決してやきもちや怒りで無いことは、解っていた、ヨシ子は優しい言葉で 「そうよ、もうリュウの一部だから、分かるのよ、そんなリュウを感じる時、少し寂しいな!」 俺はもう一度 「ごめん!」 言い訳は言いたくなかたし 見透かされている、俺の気持ちを尊重し傷付けまいと時々お母さんかお姉さんの様だが 俺の心が別の処に在る事がヨシ子に取って一番辛い事である事は痛いほど解っている・・・が!俺は心の中で ”すまない もう少し待ってくれ” とつぶやいていた 

 ヨシ子は気持ちを変える様に 楽しいそうに「本当にリュウと一緒だと楽しい事ばかり、今までこんなに楽しい時を過した事無かったわ リュウありがとう」 「俺も同じだよ!ヨシ子と居ると安心して自分になれるよ」 「本当 私勇気出してよかった、リュウを誘う時 本当に勇気出したんだから、リュウたら考えろって 威張って帰ってしまうだもん 悲しくて泣けてきちゃった、でもそれで今が有るから良かった」 「ヨシ子は 俺の荒んで歪んだ心直してくれたんだよ、今のこの気持ち何時までも大事にしようよ」 「はい!大事にするわ、人を好になるて事は理性や論理知性では無いのよね」

 「だろうね 俺と全然違う生活をしているヨシ子を好きで好きで堪らなくなったから 不思議だよね、帰りちょっと寄り道して美味しいビーフシュチュウ食べさせてくれる処あるんだ 寄って行こうよ」 「はい 嬉しいわ 行きましょう、アッハッハァ リュウはムードでると直ぐにお腹に来るんだから!

来来庵.jpg  由比ガ浜から八幡宮へ戻り建長寺をへて21号線を北鎌倉方面へ長寿寺近くで駐車場を捜し其処から徒歩で2,3分、店は通り沿いにある来来庵(ライライアン)看板門をくぐり、石段を登り玄関になる、昔ながらの民家ふうで山を生かした庭は情緒豊かで、店内は左手が座敷、右は土間にテーブルが一列に並び、テーブル席に案内された 「リュウ 本当に色々な所知っていて驚いたわ 凄く風情の在る所ね」 ここの特性ビーフシチューにライスとサラダ それにデザートに抹茶とレアチーズケーキを注文した 

 ビ^フシチュー.jpg「此処のビーフシチューはかなり昔から始めた様で、軟らかく煮込まれた鎌倉牛が美味しいよ、デミグラソースもまろやかで優しい味だよ」 「隠れた人気店なのね、古い建物と庭との境が素通の様で気持ち良いね」注文した物が運ばれ店員が 「長い事 お見えになりませんでしたね、これ店で初めたばかりの品 サービスですからお二人で召し上がれ」 凄いな タンシチューだ!

 「本当に良いのですか? 有難うございます 余り来ていないのですが如何して?」 「何か貴方 印象ぶかく覚えていました」 御ゆっくりして下さい」 「はい なんだか申し訳ないが有難難く頂きます」「どうぞ 御ゆっくり」軽い会釈をして厨房に戻った  ヨシ子 俺をマジマジとみて「ほんと!リュウって不思議な人ね」

 「いや 今日は特別だよ、ヨシ子と一緒のせいだと思うよ さぁー食べよう」俺にもサッパリ解らなかった「はい! 本当軟らかくてとろけそう ソースもまろやか美味しいね、今日は本当に幸せよ」 「 俺 ヨシ子の笑顔が一番好きだから・・ 少しキザぽいね!」 「そのキザな言葉 リュウだったら許せる、もっと聞きたいわ 日本の男性は云わなさすぎよね」 「俺も抵抗有ったが 外人の処で働く様になったからかな?」

抹茶とレアチーズ.jpg  食事を済ませ、出入り口の会計に支払いに、先ほど食事を運んで来た女性がいた 「リュウちゃん まだわからないの!私よ」 「え!..だれだったかな?」 「分からないの? 小学年の時 同じクラスの藤森よ! 待って居たのにリュウちゃん結婚しちゃったから あちらの方なの?..綺麗な人ね」

 「あぁ! ヤッちゃん?(泰子)」思い出した! 成績優秀な可愛い子で俺の隣の席で 確か国語のテスト合わせで隣りと交換した時 俺ほとんど解らず白紙で、ヤッちゃんがビックリして ”私全部直して上げる” と言って 答え全部自分で書いて回答に丸付けて 全部正解100点にして 俺がそんなに出来る訳無いのに、後で一緒に職員室で先生に叱られた事があった、でも少し面影が残っていたが本当に女性は変わるんだと改めて感じた

 「そうよ あの時結婚してくれるって 私 待っていたけど先に結婚してしまうから 辛かった!・・それで前から話のあった此処に嫁いだの」「俺そんなこと言ったの?..それに小学生の時だよ 本当に?」 「本当よ ズーット待っていたんだから!」

 「ごめんなさい、そうだったの 何って云って謝れば良いやら..本当にゴメン、でも良かったね俺に比べ こんなに良い所へ嫁ぎ 本当に良かったじゃぁない!・・それでさっき変な事言うなと思ったよ 解からなくて悪かったね」 「もぅーすっかり忘れているんだから いいわ許してあげるから時々来てね」 「もちろん!そんな事覚えていて許さないって云ったら..あぁ びっくりだよ!」多分 俺の前の奥さんの顔も 離婚の事も知らないのでは?

 御手洗いから戻り 少し離れた所で待っているヨシ子を呼んだ、きっと話をあわせてくれると思い 「えぇと!家内のヨシ子です」「 何か変だと思ったが こちら小学校の時の友達 泰子さん だよ」

 ヨシ子も話を合わせてくれ「あぁ そうでしたの 妻のヨシ子です 大変美味しく頂きました よろしくお願いします」泰子はかなり客慣れして 「此方こそ これを機会にどうぞ御ひいーき下さいね」何を思ったのか ヨシ子に似つかぬ御世辞「その頃 龍崎にいたずらされ お困りでしたでしょう?」 「いいえ 凄く正義感が強く良く助けて頂ました、懐かしくつい声を掛けてしまい よろしかったら時々 お訪ね下さい」

 「はい ありがとう御座います、とても美味しく頂ましたわ 又伺わせて頂きます それでは失礼します」 たった少しの この会話 女は澄まし顔で 俺にはなにか冷たい火花を感じた様に思えた!

 「リュウ?あの人と何かあったのかな~、ちょっと変だったよ」女性の感は鋭い「まだ小学生の頃だよある訳無いでしょう でも話合わせてくれて有難う」 ヨシ子は冗談ともつかない顔で 「女性はもっと大人よ..」 「ヨシ子もそうだったの モテタでしょう?」 ヨシ子は澄ました顔で「私は..何にもなかったわ」 俺は冗談らしい話振りで 「本当かな?」 フッと膨れた顔で 「リュウと違います!」。

 その数日後、鈴鹿行き前々日のヨシ子 「リュウ、今回私仕事で鈴鹿に行けないから」 「うん、分っているよ」 「それでね 私リュウのお母様にお会いして来ますから」 「いいけど 俺と一緒に別の日に行けば?

 「リュウ ダメです! もう私達一緒に暮らして居るのですから、遅い位 だらしない事は ちゃんと報告しなくては駄目よ、今連絡して下さい!」 俺は首をすくめ 「はい! 解りました」 おぉ恐い!、ヨシ子に初めて叱られたが 何故か凄く安心感に包まれた、俺はお袋にヨシ子が1人で訪ねる事を電話で報告し了解を得た。

タッチおじさん ダヨ!.jpg  フー!まだかよ!..此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【前編7】へ続きますクリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2010-12-11-3是非お読み下さる事お願いね


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編3】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

   ☆=ストーリ【前編2からの続きです、是非お読み下さい=☆ ?

                                                                       《富士サーキット》 Fuji Speedway

Fuji_Speedway1.jpg

 次の日から いよいよ待ち望んだ富士サーキットで俺のドライブ(運転)に合わせたレーシングカー(racing car)のシェークダウン(shake-down)性能テストの走行と調整作業が始まった、

 これは富士だけではなく国内それぞれのサーキット毎に行われるが ?特に俺にとって全て初めての挑戦 、FJは国内最上位クラスのカー・レース? パワーや反応が繊細で このレシングカーになれる為にも念入りにテスト走行をし リノベーション(renovation)を行われなければならない、

 エンジンの分解 メンテナンスは言うまでも無く変速機のギャー比の調整交換、サスペンション、アブソーバーの調整、ダンパーの交換、アライメントの調整、トーイン、キャンパー、タイヤの減り具合温度、ダウンフォースのフロント・リアーのウイングや肝心要のエンジンの調整 主だっては負荷に対しての立上がり良さ等、今思いあたるだけでも沢山の仕事が有り 同様に各チームが凌ぎを削り遭う場所でもある。

 このクラス”FNフォーミラー日本”ではF1とは異なり、日本での規則と規格ほとんどワンメイク(同じ仕様の車体 排気量)と 唯エンジンのメーカーが違う、これは車の開発に余りお金を掛けなくて済む事とで 自動車レースの拡大を目的にしたイベントである、本当にチームの技術力とチームワーク この圧倒的なパワーと軽量 機敏さ!真にドライバーの腕が試される処である。

  何度も車の走り込みと調整(adjustment & run)です 又この車(FN.machine)の特徴は ”オーバーテイク システム(over-take system)?レブ・リミッター(limiter)エンジンの回転数10,700rpmの制御や開放” が有る事でオーバーテイク(追い越し)が楽になり 使用中ロールバーのLEDが点灯 競技中の各ドライバーやチームに知らせ5回までの使用できこのFNレースの特殊な規定である、もっともこのロールバーのおかげで横転した時に助かったのです。

 今年は富士・鈴鹿・ツインリンクもてぎ・オートポリス・スポーツランドSUGO、各サーキットで行うが前半3戦は先輩ドライバーが家の事情でエントリーを辞め 4戦から俺のドライブに変わる 久し振りに しかも待ちに待った日本でコックピット.jpgは最高ランクのレースマシーンV型8気筒・排気量3,400cc・出力600/hp+α・パワーステアリングホイール(power steering wheel)にパドルシフト(paddle shift)をドライブ出来る期待と喜びがあり、今までレースに全てを優先させてきた俺が 他の雑念や邪心に惑わされている場合ではないのだけれど・・、

 大事な時だと充分理解しているにも関わらず、

 振り払って忘れようと思えば思うほど先生の優しい微笑みが浮かび頭の片隅にあったものがいつしか俺の脳全体を覆い初めて行く、

 如何したと云うのか!何時もならステアリング(steering wheelハンドル)を握ったら 新しい恋人に出会ったように期待と喜びに全てを忘れ充実を感じ もっともっと このマシーンに触れドライブしたいと感じるのに!、

 増してやレースを初めて以来待ちに待ったレーシングマシーン初めて乗り込んだ時 まるで妖しく青く光る抜身の名刀を握った時 心の奥底から湧き上る ぞくぞくと震える 妖しいときめき覚えた様に このマシーンの瞬発力と反応の鋭さに驚きと興奮を感じた、ジャジャ馬の様な600hpの大出力で車両重量670kgの軽量で繊細、国内最高峰のレースマシーンを如何に乗りこなすか、期待と喜びに燃えあがって来た筈なのに?

 ・・・こんな事が起るとは考えても見なかった・・・ レースが全ての俺に いったい何が起こっているのだ!

 俺が長年追い求めてきたレースマシーンが俺の手の内に入ってしまったからか? 其れとも それ以上に魅力がある人なのか? 躊躇いながらも幾度と無く携帯電話に手がいくがそれを止める、

 何の約束をした訳ではないが? 何を次を望んでいるのか!いやこれは別の次元だ!いや先生の事等を今考える時ではない 止めるべきだ!? だが思えば思うほど俺の心を支配してしまう。

 心此に非ずと感じたのだろう、北原監督の顔が益々渋くなり低音で重みある声が俺に刺す様に響いた

 「リュウ なにか悩んでいるのか? 突っ込みの切れと立ち上がりが全然駄目だ!・・何時もは激しくマシーンを壊してしまうほどなのに 如何した!」 俺は誤魔化す様に 「あ!ハイ別に何もないです」

 俺は心を隠すように 元気に振る舞い冗談で 「壊して良いですか?」 と応えた

 監督笑いながら 「バカ! 例えだ! 」 俺は明るく 「でしょう!次は本気で壊す処だったよ」「お前ならやりかねないな 高価なマシーンだ壊すなよ!」 ピリピリ感の中でのメカニック達も交えた笑いである

 待ち望んだレースマシーン(車)をドライブ出きる事に 最高の喜びを感じて良い筈なのに? 何時もと違う? やたらと先生が気になる 全てを捨てたはずなのに いったい俺はどうなってしまったのだ!

 監督 レーシングカーに手を置き 普段と違う俺を感じ取ったのだろう 「リュウ!何処か気になる箇所は無いか?」 と俺にたたみ込むように質問を重ねた!

Swift_017n1.jpg  長い間のブランクと新しいマシーンにも関わらず 体に染み付いているのか意外に簡単にマシーンに馴染みドライブ感覚を取り戻せたがもっと攻め込まなくてはならない。

 スポンサーを獲得するのが遅かった為、まだチームカラーやスポンサーの宣伝用スッテカーも塗装も していない新しいブラックカラーボデイのレーシングマシーンのエンジン部分を見ながら 俺は気を取り直す様に率直に感想を述べた

 「レスポンス!(response反応)・・エンジンの立ち上がりが イマイチ フケがわるいよ! (フケとは吹き上がる意味で回転数が最高になるのが遅くトルクがアクセルとずれ車速の上りが悪い)、多分変則ギヤー比がコースにあっていないか吸排気か?ハイスピードではアンダーステアー(under steer フロントが流れるハンドルを切っても曲がらない外側に膨らむ事)スローではオーバーステアー(over steer ハンドルをあまり切らなくても内側に曲がってしまう)気味です」 「それに・・いや!」・・ つい思わず出た愚痴に少し恥?気持ちを変え ・・「次はもっと攻めてみます」 と明るく返事をした 監督「そうか!その他ないか?」「今のところは!」

 俺の感想を聞いた監督 流石にテキパキと指示をだす 「 井原君 聞いたか! 調べ直してくれ それにリュウ何か元気が無いぞ!」 「ハイ!」流石に細かいところまでよく見ているな 俺とエンジニアの井原君が同時に返事をし互いに顔を見合わせ苦笑する 今まで余り時間も取れなくマシーンの整備や調整が出来ていなかった様だ! まるで反応が悪く本当に乗りづらい まだまだ細部の調整が必要だ、 この調整はレーサーの好みもありとても重要な事である。

 ”あぁ~先生に逢いたいな!” あの時何故逃げ出したか悔いが残った、 今はこんな事考えてる場合ではない もと真剣にアタックしマシーンを仕上げなければならない、先生への思いを消すように 頭を何回となく横に振った、

 テスト& ガレージ(調整)で5日間 普段なら ア と云う間に終わって もっとレースマシーン乗りたいと思うのだが 早く先生から連絡が来ないか やけに気になってしかたなかった、 こんな自分を如何処理して良いのか こんな事は初めてで戸惑うばかり。

孝ちゃんタイヤ交換.jpg チームのメカニック達がエンジンを分解しバルブ・フェイスやバブルスプリングの傷や歪・ピストンリング等部品のチェク交換、組み立てと懸命に働いている、

 エンジニアとメカニックは 其々かなり個性の強い人達だ、 一人(井原君)は寡黙でコンピューターとにらめっこ 又 分解した部品を丁寧に洗い一つずつ傷などを細かく調べバブル等のタイミングを決め丁寧な仕事をする、不言実行とはこの人の事だと感じた、それに助手と思われるレーシングスクールの生徒が二人付いていた いずれも井原君の指示に従い控えめな人達だが無類の車好きだろう、

 もう一人(鈴木君通称孝ちゃん)は井原君とは正反対 良く喋る男だ?だが女性のような体付きと顔 喋り方もそうだ、初めはなんだ ボーイッシュな女かよ! と思った位だが、 かなりメカニックとして感が鋭く主だって足回り調整力が優秀である、レースコースによりコーナリング等が違いタイヤの温度を内側と外側を正確に測りネガティヴキャンバーをピッタリと決めてくれる、俺も機械いじりはかなり好きで調整や組み立てを手伝い少しずつコミュニケーションも取れてきた 俺の乗るレーシングカーもかなり調整が進み凡そ仕上がってきた、

 俺は悪戯心が涌き 「孝ちゃん! 顔にエンジンオイル付いているよ! 好い女 台無しだよ」 幸ちゃん トーンを高めに 「やだ~ リュウたら、ほんとう?」 俺は只にやついていた 幸ちゃん慌ててカーバーオール(つなぎ作業着)の胸ポッケトから鏡を取り出し自身の顔を念入りに眺め 「な~に 何でも無いよ!、リュウの意地悪」 「へー、何時も鏡持っているんだ」 「リュウ 怒るわよ!、この鏡顔見る為だけじゃないの!見づらいマシーンの裏側や底を見るのに都合良いのよね」

 「ごめん ごめん へー凄いんだね、それで安心してドライブできるよ、 このレーシング・カーも大分扱い易く孝ちゃんのように反応も良くなったよ!」 「もぅー!」 孝ちゃん嬉しそうに答え、

 井原君達もエンジンの組み立てが終わりに近づき最終の工程に入る処で一息入れ 笑顔で二人の会話に耳を傾けている これなら 我らチームも和やかに行けそうだ、俺は両人に 「お疲れさん、コーヒーでも飲んで一息入れてよ」労をねぎらい 俺はもう一度コースの再チェックに出かける事を告げた。

 富士サーキットのコース脇を再確認ため徒歩で何時もの様に念入りにチェックを開始した、コースの荒れ ブレーキングやクリッピングポイント(富士特有のカーブやブレーキングポイントなどの目標点の確認)、最速ラインの目標の確認を一時間位かけピットに戻った、実際には其々のレーシングカーにより多少コース取りや目標点が異なってくる。

 こんな大事な時に コースを歩きながらも先生の顔がチラ付く..これでは駄目だ!こんな事ではもう駄目だ、俺は一体如何したのだ!あんな別れかたをして 先生からはもう連絡が来ないのでは?不安で一杯だった!、

 俺から連絡を入れるか迷いながら携帯に手を掛けた途端 呼び出しベルが鳴り、余りのタイミングに思はず声を放ち 「オォ!」 驚き、携帯を覗くと先生からだ 期待と裏腹に一瞬ためらったがとても嬉しく 思わず喜びで俺の顔がほころびるのが解る、 落ち着きを取り戻し 待ち望んでいた事を隠すように少し低めに素っ気無い声で 「ハイ、リュウですが!」

あいたいな1.jpg たぶん、先生は外来の患者の診察が終わった頃だろう 「ヨシ子です、リュウ元気にしている?」 「あぁー」 ヨシ子は病院の屋上で ポニーテールに纏め上げた髪に海のそよ風を受けながら 東京湾の深い部分をゆっくりと行き交う大きな貨物船・原油タンカーや球体を3・4個並べた様なガス タンカーにぼんやりと目を移し 「今 お話し出来ますか?」

 「エェー!何か?」 「・・・」先生からは無言で何か躊躇しているか言葉を探している様で 俺は慌てて今の状況を話した 「今度乗るレースカーのテストで富士サーキットに来ていますが?」・・周りを見回して「ここ煩くてちょと移動します」? 時折走るレーシングカーの排気音で言葉がかき消されてしまう、ガレージの隣接する部屋に移りドアーを閉めて 「はいお待たせ!・・どうぞ?」 「リュウきこえる?凄い音がするのね、レースカーなの?」 「ええ!今のは俺の車では無いのですがテストや練習に来ている人達のレースカーです、ドアを閉めましたからもう大丈夫です!」

 先生は何故か慎重に言葉を探す様に「リュウ突然でごめんなさい・・私どう考えてもリュウを失う事出来ないわ!」 突然一方的な告白に驚きも有ったが それにも増してとても嬉しく 堪らなく思った 「・・!」咄嗟に何を話して良いかわからなく返事に詰まった

 口早に先生は喋り続ける まるで先生自身に言い聞かせる様に?「理由なんて解らないし、知る必要もないのよ!、勝手に思い込みリュウに叱られるかも知れないが 充分悩んだの、でも自分の心は否定出来ないし 何時だってリュウの顔がチラつくのよ!、私自身予想もしなかったし 理性では如何する事も出来ないの!・・この先リュウが居ないなんって..!」

 ワァー!スゲー気持ちが良い位 何って率直で素直な人なんだ、俺と同じ事考えていたんだ その上はっきり自身の考えを云う人だ!俺は嬉しく思った

 ..何時も取り澄まし、理論的過ぎるほど冷静沈着で少し冷たさを感じる あの先生が、こんなにも率直に自分の心の内を情熱的に告白するなんって、俺の方がもっと予想できなかった、しかも自分の気持ちを正直にはっきりと此れほど素直に話す人に出会った事は無い 何か人間的で共感した!・・”あぁー よかった 心からほっとした!”、

 だが反面異常な不安に襲われ、こんな事をしている場合ではない 余にも住む世界が違い過ぎるのではないか何時も心を支配していた、何時かこんなに正直な先生を傷つけてしまうのでは?

 それにも況してスポンサーの件も頭を過ぎった、これから俺のレース人生に影響しないか?何時か邪魔な存在にならないか?ましてやレースに全財産を投入して自身の生活すらままならないのに! 目まぐるしく頭の中で駆け巡っていた。

 俺は一体如何したのだ!・・駄目だと思う心が逆に一層止められない衝動に突き動かされていた・理屈じゃないよな~ぁ..全く先生の云う通りだ 今俺は先生に何も考えずに会いたいと心から感じていた!

 先生は少し合間を取って 「私のこと嫌で無かったら、其方の車のテスト終わったら来てくれる?..もし私と付き合う気が無ければ、今断って!」 なんて、素直で積極的なんだろう 俺も全く考える余地も無く今断ったら全てを失いそうに思え衝動的感情に押しまくられ不安も何もかも飛んでしまっていた!、

 不安を打ち消す様に自分勝手に言い聞かしている 「エェー・・・」あれほど待ち望んでいたものを 断る理由など無いでゃないか! 気を取り直し「ハイ!俺も同じ事思っていました!、明日夕方には着くと思います 夕食はチームの皆と食べて行きますから」 異常なくらい携帯電話を握りしめている俺に気が付き、レーシングカーのステアリングさえこれ程強く握り締めた事は無く苦笑交じりのため息が出ていた ”あぁーとうとう言ってしまったか・・・”

 「嬉しい!本当に良いのね!、待っています、リュウ!無理しない様に気を付けてね」 「ハイ、なるべく早く伺います」 ..無理しなければ勝てないのに..苦笑いしながら電話を切った..、普通女性なら思わせぶりな言い方をするが本当に率直な人だ ..俺は凄く好感をもった..これを断ったら二度とチャンスは訪れないだろう。

 メカニック達の呼ぶ声でパドックの修理部屋に戻った、今までは以前のドライバのシート(運転席の椅子)を隙間にクッション・パットを入れ調整して使用していたが最近メジャーした俺れにピタリと合ったファイバーグラスのドライバー・シートが出来上がりサーキットに直接届き早速交換、メカニックの指示に従い最適なポジションもピッタリ決まり操作やマシーンの動きの感覚が判り易くなった、

 それに先生の事も一先ず解決、その後げんきんな者でメカニック達と楽しく昼食後 後半のテストドライブは自分でも呆れるほど 今度はマシーンに集中出来かなり自分を追い込んだ走りが出来た、

 マシーンの足周りの調整もタイヤ表面の外側と内側の温度差がなるべく平均に表面の減り等からホイールアラメントを調整し仕上がりに近ずき・・一連の作業を見守っていた監督の眼鏡がキラリと光 俺れに近づき

 「リュウ後半の走り、別人の様だった、まだ調整必要か?」? 後半は大分路面との食いつきも良くなり、ギヤー比を変えた為か、コーナーからの立ち上がりもかなり良くなり、走り易くなったが

 「そうですか?まだケツ(車のリヤタイヤの横滑り)が流れ気味で押さえきれないから、立ち上がりで、アクセルを踏み込めないのでワンテンポ遅れてしまいます、もう少し食いつき良く出来ませんか」 監督もホットした様子で 「そうか リュウも何時もの調子取り戻したようだ! 皆 後ひと頑張りだな今晩調整して明日 朝一にテストだ!今日は皆 休んでくれ!」 監督の顔つきも少し柔らかくなった様に思えた。

 レースはもう此処から始まっている。 次の朝、ある程度調整も終ったことにメカニックと労をねぎらい監督も加え食事をした、メカニックの鈴木 孝三さん(孝ちゃんと呼んでいる)は馴れ馴れしく俺の体を良く触る、言葉も女性の様だが、かなり好意的で気が利く! 「リュウ、切れも良く早くなったわ、凄いわね」 俺は照れながら「まーな!、孝ちゃんや井原君のおかげで だいぶ運転し易くなったよ」

 井原君は相変わらず真面目な顔で 「エンジンの回転良くなりましたか?シリンダー・ライナーの傷のチェックやピストンリングの交換はもちろん、シリンダー・ヘッド、バルブの傷や歪等、吸、排気マニーホールド内を良く磨きをかけ、ジョイントのズレも直しておきました」これは少しのずれも空気抵抗がでてしまうからだ

 俺はエンジンカウル部分を見ながら 「うん井原君! それで基本からチェックし直してくれたんだね! アクセル レスポンス(反応)が良く、エンジンの回転立ち上がりが以前より敏感に反応して全然良くなったよ・・本当にありがとう」終わりの語尾は井原君の肩に手を置き力を込めた、余り態度に出さない気難しい井原君の顔が初めて綻んだ! テストが一段落付き何時もは夕食を交え雑談などだ、予定時間より調整が大分遅れてしまい俺は食事もとらずに ”監督に他に用事があるからと伝え” 後の事はお願いして早速帰途についた。

 富士スピードウエイからの帰り道、車を運転しながら、スポンサーの事も少しは気になり常に頭の片隅に残っていたが 今は俺の頭と心は完全に先生に奪われていた、こんな事は初めてだ 何時もならレーシングカーの調整と俺のドライブの反省とでも云うのかドライブ・コースを思い浮かべ考えるが、それに此の事でスポンサーを失いかねない、まるで富士を回り山梨側にある本栖湖付近にある青木ヶ原の大樹海に入り込んで出口が判らなくなってしまう様なものかも知れないが もうそんな事は今ではどうでもよくなっていた、 先生に会いたい!只々会いたい今の俺にとって逢う事が全てだ、

 途中でマックのドライブスルールが目に止り、初めて腹が空いて喉もカラカラである事に気が付き それに先生に夕食は済まして帰ると伝えた事を思い出した、慌てて車のウインカーを出し飛び込む様にドライブスルーに入りビックマックとポテトフライ・オレンジジュースを注文、

 今は先生に会える嬉しさが全てであった、ビックマックを受け取り、休む事もなく齧り頬張りながら運転、喉に閊えたマックをジュースで流し込む様に食べた 無論味など解る訳でもなく 一時の空腹を満たせばよかった。

 俺の頭の中は先生と逢ったら何を話せば良いかそれだけで一杯であった、・・初めに 今晩は!それでは 当たり前すぎてインパクトが無い、ヤーか、ヨォか、オッスか、待った!それとも・・元気!何していたの?電話で話したばかりだ!おかしいよ、素直に 会いたかった!・・いや そんな事言えないよ、如何したんだ! ろくな考えが浮かばない、御殿場から東名高速に入り横浜へ向かった。

 俺の気持ちを話すべきか..綺麗で魅力が有りますね、そんな歯の浮く様な事、俺先生が好きです!いきなり云えないよ、いや、率直に云うべきか?それとも先生の事をもっと聞くべきか、

 長い間彼女を見て来た訳では無い まして医者の話しや医療の話など解る訳が無い 一体何を話せば良いのか?・・何かムードの有る話?俺に出来る訳が無い、うーん・・解らない!俺は何を考えているのか、

 何も浮かばない、只只一刻も早く先生に逢いたい!・・こんな戸惑いは初めてだ!先生の家が近づく程に異常に不安になる一刻も早く会いたいのに逃げ出したくもなる、レースのスタートラインに着いている待ち時間の方がまだ耐えられる!

     《再出発》

龍崎3.jpg 富士からの長い道のりを、まとまりが付かぬまま、先生の待つマンションに着いてしまった、

 何の恐さかわからないが初めての体験と戸惑いの様に感じた!部屋番号とチャイムを押す指が躊躇いを招いたこの場に立っているのは本当に俺なのか?、マンションのドアガラスに映った俺の姿を見、髪を手櫛で整えた、こんな事を初めて行った自分に照れを感じる、落ち着け!様々な負の要素が頭を過ぎる ここまで来て何を悩むことがか もう一度ガラスに映る俺を見て深く息を吸い込みチャイムを押した 、

 ドア・ホーンから明るい応答 ”はい” と云う返事があり 俺は何故か焦りながら答えた 「リュ!リュウです!」 先生からの軽やかな声で 「おかえりなさい!今開けます」 余り待たずして玄関ホールのドアーが開いた!俺はもう迷まずエレベーターで最上階に向かった、

 部屋の前で先生がドアー開けて待っていた、 お互いに言葉は要らなかった先生から俺の胸に飛び込んでくれた、黙ったまま極自然にどちらからでもなく確りと抱擁の後、お互いの目を見つめそれが自然であるが如く唇を交わし、お互い高ぶりを押さえようと先生は俺の胸に顔を埋め押し付け暫らく其のままにしていた。

ヨシ子心音.jpg 「リュウの心音、乱れているわ」 「ハッハァ、先生職業病だよ!・・当たり前でしょう、小心者だからこんな美人で可愛い先生に抱きつかれれば、乱れるよ!」 ..あんなに車の中で、悩み戸惑ったのに..アハァハ..言葉なんか要らないよな

 先生は悪戯顔を俺の胸に押しつけ 「冗談よ!正常よ、リュウは口が旨いから、今日は帰らなくていいでしょう?コーヒーでも飲む?」 俺は心の中で何って可愛い人なんだと思いながら ”うん” といい、先生の目を見て頭を小さく 立てに振った 

 やはり年の差、俺に気を使って自然の流れを作ってくれ ゆとりある気持ちになれありがたかったが、以前の結婚の失敗 これからのレースに対しての不安が一時過ぎったが嬉しさの方が数段勝っていた、全て先生に任そう..

 富士スピードウェイでのレーシングカーの準備や調整の話しをし 又先生のことも知りたく先生の職場や両親の話を暫らく聞いて時が過ぎた、

 なにか揺ったり穏やかな時が流れ、先生が俺に合わせた会話をした訳でも無いが 何か先生との波長が合い俺の心の中で変化し始めていた 以前から此処に住み暮らしていた様な何かゆったり落ち着いた気持ちを得られるのか?

 先生は俺を優しく見詰めながら 「ねーリュウ 先生って呼ぶのやめて」 「どして?..じゃぁ、なんて呼ぶの」 少し恥ずかしそうに 「そうーね、ヨシ子でいいわよ」 「なんか 急に無理だよ」 「じゃぁー 二人の時だけでもそうしてちょうだい」 なにか一層可愛く感じ あの理論整然とした先生の人間的面を垣間見た思いだ きっと少しでも歳の差を縮めようと思っているのだろう 「わかったよ、なるべくそう呼ぶよ」

 マジマジと俺を見て 「私 こんなに苦しく人を想った事無かったわ..どうしてこんなに惹かれるのかしら!、不思議な位」 ..俺だっておなじだよ! 何でこれほど惹かれるのだろう..その見つめる黒い瞳の中に俺が映し出され吸い込まれてしまいそうだ 俺は心の不安を見透かされのではないかと何故か慌て目を反らした、

 俺から富士サーキットでの車の作業を一通り大まかに説明を聞いた先生は 「リュウ、富士から直接帰ったのでしょう疲れていない?」 「大丈夫だよ」実際 先生との会話は楽しく疲れなど感じていなかった

 先生は念を押すように 「練習後直接来たのでしょう?」 「はぃ?」 「シャワー浴びるでしょう?」 そういえばシャワーも取る暇もなく急いで来てしまった 心の余裕が無い俺自身に苦笑した?「俺 臭う?」と問ったあと自分の両脇を変わるがわる 嗅いでみた、

 先生は俺の動作を面白そうに笑いながら「そうではないけど ゆっくりリラックスできるでしょ!」 「あぁー ありがとう」 先生は自然に立ち上がり俺を促す様にバスルームへ案内して「此方よ、バスタオルこれ使って」 全て受け入れてくれたのだ!これが年上の気使いなのか これからの展開に一抹の不安があったが 今さら躊躇しても尚傷つける事になると思い従った、

 人の出会いとは不思議な物だ一月前には何も知らず何も無かったのに、それも六・七年前、美奈子と出会った時から手繰り寄せられる様に運命の歯車が廻り始めていたとは!。

 シャワーを済ませバスタオルを腰に巻いたままの俺は、覆い纏っていた全ての鎧や楯をはぎ取られた無防備の兵士のように戸惑いながら着替える間もなく、

 「此方よ!」先生に手を引かれるままに寝室に移る しかしこれがその後 俺の心の鎧も取り払う事になる、其処には大きなシモンズのダブルベッドが部屋の大半を占めていた、先生でもやはり女性 家族の写真やカーテンなどそんな雰囲気の部屋であり綺麗に整頓されている。

 二人は熱く唇を重ねもつれながらベッドに倒れ込む、もうこの女性の前では何も護るもの無く母でさえ見せた事の無い心の全てを曝け出せる思いが心を蔽う、

 やがて先生は以前の俺の結婚生活が余りにも子供で幼稚に思えたのだろう、そんな気使いは要らないのに、

 後ろで纏め留めた髪止めシュシュを外し 息を詰めた様に静かに俺を見詰める瞳、なんと深みのある優しい眼差しか、何故か今までの様に攻め奪う感覚では無く、他の人には得られなかったものを互いに求め この女性なら全てを委ねられ素のままの俺でいられる 初めて不思議な位ゆったりと心から休める感覚であった。

 美しい瞳で俺の目を改めて食い入る様に見詰めた先生は、両肩にそっと手を添え今度は様子を伺う様に不安そうで懸命に見つめる瞳が恥じらいと優しさを含みながら 今度は肩から両手で頬を挟み優しく熱く唇を重ねた、

 しばらくして 俺が今まで経験したことのない安堵感に浸り消極的であったのか それとも今まで経緯から察して 年下で何も知らないと思ったのだろうか 兎に角俺の心を傷つけ無い様に恐る恐るガラスの容器でも扱うように

 先生は恥じらいながらも けなげにゆっくりと優しく導き 「リュウ・・、慌てないでいいのよ・・優しくゆっくりとね・・」 耳元で優しく囁いてくれた、

 羞恥心を帯びながらもゆったり横たえた先生の体は、静かに波打つ曲線を描いたスロープ 投げ出された長く伸びた脚 眩しく光る柔らかく透きとうる肌から、微かに欲望を誘う香りが それを望んでいる様でもあった。

 それは俺にとっても長い禁欲からの燃える様な奪い合う渇愛ではなく、意外にも静かに優しく厳かな儀式の様に 互いを確かめるように目を離す事なく お互いの心の中を確かめ合う様に見詰め合い、定めに導かれるように ごく自然にゆっくりとゆっくりと結ばれ、先生は短く息を吸い込み 小さく開けた口元から 安堵の吐息と共に 俺の背中に廻した両手に優しく力が加わり..

 俺の全知全能のあらゆる感覚と感情や思索を優しく暖かいアロマオイルの中に包み込み体の奥底の芯からじんわりと人肌の温もりが安らぎの香りと共に全身を覆った、慈愛に満ちた眼差しに安住の中に溶け込み飲み込まれ ささくれだった心の空洞までもじんわりと満たされて行く!(Your love, adoring eyes, almighty & passion with peace of mind, My destined soul mate)、

 優しく受け入れくれた先生に 全てをさらけ出し委ね その気高さと気遣と優しさに感動さえ覚えた、いままで何をしょうと空虚感に襲われ カーレース意外 ”心の空洞” を埋めてくれるものは無かったが、こんなに満たされ それがフッとレースを失うのではないかと恐くなるくらい素晴らしく ゆったりした安らぎと安堵感を与えられた事は嘗て一度も無かった

 又こんなに愛おしく切なく感じた事も、あぁーこのまま時間が止ったらどんなに良いか!、

 心から信頼され言葉こそ無かったが ”私が望んだ事よ 全ての責任は私ですから安心して休みなさい” と語りかけているようだ、だからこそ嘗て誰からも決して得られなかった 安らぎと安住を与えられたのだと、

 俺は初めて感じた、例え俺が先生に刃を突き立てようが 先生の優しく包み込む様な眼差しが、貴方が其れを望むのならば 好きにして良いのよ..貴方の全てを受け入れるわと囁いているようだ..たとえこれからなにがあろうと、こんな巡り合いは二度と起こらない!このかけがいのない愛! 

 生まれる前から迷いつまずき傷つき 長い間探し求め 此処にたどり着くために やっと出会えた様な気がした!そして此の不思議な安堵感 遠い昔忘れていた香り 幼い頃父を亡くした俺には母に感じた香りであったのではないのか?

 あぁーこの安らぎ、どんな言葉でも勝るものは無い 永遠にこの愛の中に留まりたい!..もう引き返す事も止める事も出来ない、そして あのみなと未来での再会は何か運命的なものさえ感じられた・・・・どれほど時が過ぎたのだろうか?

 先生はそんな俺を優しく愛しげに俺の頬に手を添えて見守るように暫く見詰めていた、俺が落ち着いた頃を見はかり 呟く様に

 「リュウ、私だって全てを忘れリュウだけを感じ 全ての束縛を外し自由になりたい時も有るのよ 凄く嬉しかったの お互いに全てを受け入れ これが本当の愛なのよ、居るだけで心を通わせあい愛を感じ 安らぎを感じ 互いに愛しさを感じる者なのよ、人は生きている限り求め続ける者よ 心やお腹を長い間 空にする事は出来ないのよ」

 尚も はにかみ顔で、何も知らない年下の俺に教えるかの様に語る 「リュウ、貴方は何かに反抗し悪がっているが 本当は純粋過ぎるのよ、もう自分を偽る事をしなくても良いのよ、貴方には火の様な激しさと 優しさ暖かさが有るのよ、そんなリュウが愛しく大好きよ!..ただ欲を云えばヨシコって呼んで!」「うん」「遠慮することないのよ、もっと自由にしてもうちょっと目茶目茶にして欲しかったな」 こんなに知的先生が後に付け加えた言葉が何故か急に現実に戻され滑稽に思った 何かを忘れたいのか?それともストレスを払い除きたかったのかは解らない、それに年齢差を気にしている。

 意外な言葉だったが、たぶん俺が初心で気を使い先生に遠慮でもしていると思ったのでしょう、本当は長い禁欲生活と先生の優しさに何時までも、したって、全てを委ねていたかったからだ 羞恥心から少し頬を染めながら、そんな事を云う先生に驚きと滑稽さも覚えたが、飾りもなく素直で しかも 大凡の女性が言いたくても云えない事を はっきり自分の望みを主張している、

 又 どんな女性でも欲望が起きる時が有り愛する人を心から信頼出来るからこそ、自身に素直になれ本当に心からの安らぎを得られると、今までの俺の結婚生活に対してと、年下の俺に全てを身を持って教えている様に思えた、又 先生自身何か抑圧された心と戦って解き放したいのではないかと思えた。

 今までの俺ならそこまで云はれ、男として許せなく間違いなく再び牙をむき出し挑んだ事だろう、しかし先生の眼差しは 母にも似た無償の愛を感じ 優しさと愛に満ち溢れどんな凶暴の牙でもその眼差しで溶かしその軟らかい胸に包み込んでしまう(Love, true love is to ask nothing in return like a mother & your gentle gaze

 それにより俺自身の心の奥底に有った、今までの性に対しての不純な罪悪感や自身の心を閉ざし終わった後の遣り切れない空しさや孤独感が消え去り薄らいで ゆったり心の全てを解放する事が出来た、女性を征服するのでは無く 愛により生まれる 相手の全てを知り 俺の全てを開放し共有したい気持ちから起きる物だと感じ、又こんなにも無防備な中でゆったりとした幸せ感が得られ 遠い遠い昔こんな安らぎの中に居た様に思え 何時までも浸っていたい思いであった。

 そして、あの頑なまで守ろうとしていた封印と精神は!、脆くも崩れ今までの俺は何で有ったのか? ..もう、疲れた、本当に疲れてしまった!今、この安らぎを知り、生きると謂う事に脆くも崩れ去って行く、封印を破ってしまった俺自身に少し虚しさを覚えた事も事実であったが、今どんな言葉であろうと この安らぎを言い尽くせなく返って言葉にする事で薄らいでしまう様に思えた。

何故だ!?こんな時に!少し悲しげな顔の別れた妻美奈子を思い出す、俺が幸せ過ぎるからか?急いで打ち消す様に振り払うが暫く頭に残る、先生はあの包み込む様な優しい瞳でのぞみ込むように 「どうかしたの?」 俺は目を伏せ 「余り幸せすぎて・・」 スポンサーの件も然り、こんな幸せは返って不安を呼び起こす、

 俺は先生の胸に潜り込む様に顔を寄せた、先生は黙ったまま俺をきつく抱締めてくれた、まるで女の台詞、何の違和感も無く俺は呟いていた。

 条件は違うが俺も世の中や自分自身に反発した様に、先生も何か固定された常識を破りたかったのでは?だから俺の様な別世界の物に興味を持ったのでは! それも純粋の愛で一適の邪悪な心が無い事をものがたり ある意味尊敬さえ覚えた、又年上の女性にも関わらず可愛くも感じていた、今まで俺が感じた罪悪感や嫌悪感など微塵も覚えず心から休めた人である。

 そして静寂と安らぎの中で富士スピードウエイの疲れも有り、何時の間にか先生の優しい温もりと香りに包まれ眠りに落ちていく・・・かすかな記憶のなかで 此の人と一緒になるのかも・・そんな予感がした。

コーヒー.jpg 翌朝、俺のレーシング・カーに得体の知れない老紳士が乗っている 「おい其れは俺の車だ!降りろ!降りるんだ!」 何処かで遇った顔だが?思い出せないそのうえ、声を出そうにも、声が出ない!、

 その男を掴み出そうとして驚く!宇宙人の様な得体の知れない下半身タコのように変わっていく、身構えようとするが体が金縛りなった様に動かせない!俺は初めて恐怖を感じる、何故か先生が奴から逃れ俺に救いを求め走り込んで来るが寸前捕まってしまう、

 なんなんだ!・・何時ものエンジンの排気の匂いではなく、爽やかなコーヒーの匂いが漂う?、不思議だ!だがその男のタコ足が大蛇の様に俺の首に巻きついてくる ”くるしい!息が詰まる!”

 其処で、ハット!目覚めた、なんだ!ベッドのシーツが俺の体に絡まって手足の自由を奪っている、そのうえ自分の腕が俺の首を絞める様に絡まっている!相当寝相が悪かったか!嫌な汗が残っている、

 やっと掴んだレースのチャンスと先生を心の底から失いたくないと、その二つを失うことが そんなに怖いのか!そんな気持ちがこんな夢に! 親しくなったのは最近の事なのに 見る筈の無い夢、しかし以前何処かで見た様な不思議な感覚だ?

 そうだ何年も前レースを始めた頃 同期生が練習中 単独事故でヘルメットが真二つ割れるほど激しさでサーキットのガードレールに激突 病院に運び込まれたが息を引き取った、

 その時駅から病院迄ご両親と彼の妹を迎える事になり、車両の中で両親の話 手や足が無くなっても良い生きていて欲しいと痛切に話かけたが 事実を話す事が余りにも悲しく可哀そうで現実を話す事が俺には出来なく曖昧な返事を繰り返した、その道のりが異常に長く感じた事を覚えている、

 その両親は病院で受け付け嬢の案内を受けたが病室とは異なった通路を案内され、初めて俺に何故なの?と疑問と不安の目を向けた、俺は何故か!目を伏せたまま黙って立ちつくしていた、

 暫らくして受付嬢に催促される様に静かな口調で 「こちらです」 霊安室に案内された両親と妹、その時の何処に怒りや悲しみをぶっつけて良いか解らず俺を見詰めた父親の怒りの顔だ!

 後でレース場の係り員の説明を聞いた父親が俺の脇にそうっと寄り添い、君は本当の事を話せなかったのですね 解りますと囁いてくれた、 何故!今頃夢に出るのだ!。

 部屋の出窓の白いレースのカーテンから朝の光が漏れている、そうか此処は先生の所だ 隣脇にはもう先生の姿はなく 何だか訳の解部屋1.jpgらぬ嫌な夢だ!振り払う様に打ち消し手早く身支度してベットルームを出た、

 ダイニングへ海から来る爽やかな風に 夢の事は忘れようと大きく両手を広げ胸一杯吸い込んだ、朝の柔らかな太陽の光 何もかもやわらかく感じ 香り良いコーヒーの匂いと共に

 「リュウ おはようコーヒーどうぞ」 何も起きなかった様な、穏やかな声にほっとした ヨシ子後ろ食事.jpg「あ、せん・・えーと・・おはよう」

 「リュウ 呼びづらい様だからケイでも良いですよ 私の漢字(佳子)ケイ子とも読むの」 「うんうん ヨシ子で良いよ、これからそう呼ぶから」

 バスルームでシャワー浴び体を洗っていると 「リュウ! 歯ブラシとタオル私のだけど新しいから使って、後で必要な物買いに行きましょう」ドアーの外から声を掛けてくれた  擦りガラスのドアー外に向かって「あぁー ありがとう」と 返事をする

 衣服をととのえダイニングへ 「リュウ・・朝食ハムエックにカリカリベーコンとウインナ、とトーストで良いでしょう」 「ハイ!充分です」 「さぁー座って、用意出来ているから、野菜サラダ食べてよ!云われているでしょう」

 俺はハットしたが、先生は無意識に美奈子のあの置手紙に書いてあったサラダの事だと思った、俺が美奈子を思い浮かべた事を感じたのか?すこし気まずい思いもあったが今はその事には触れずに無視をすることにした、それより私はこんなゆったりとのんびりした待遇を受けたのは母以来だ

 トースト.jpgオレンジジュースを出しながら 先生は優しく 「リュウ、本当に愛していなく欲望だけで私を抱けたの?・・違うでしょう!、リュウの中の何かが壊れた?愛の形には色々有ると思うけど お互いを認め全てを与え全てを奪いたい物なのよ、本当の意味での理解が出来たからと思うわ、全てではないけれど そう思わない?」 ”俺だって愛を感じない人など抱けないよ”

と思いながら黙って聞いた、先生は何処からこんな自信が生まれるのか?本人の目の前で欲望だけで抱きましたと云える男などめったにいないよ!

 だが凄く愛している、何故か余り悪い気持ちは起きなかった、と言うより先生は俺の感じている全てを解っている様な気がし先生の云う通りだと思った、素直に受け入れれば こんなにも安らげるのに自分が少し偏った考だと 今まで先生に出会う為に先生に向かって迷い 戸惑い 辿り着いた気がし 体全体の力が抜け本当に心から安らぎを持てた、

ベーコンエッグ.jpg 俺は心からそう感じた事を言葉に出した 「やっと出会えたよ ここなんだ!この安らぎだ!、心からそう思ったよ でも先生に甘え駄目になってしまうような 何か恐さも感じるよ・・エェ!何んだよ女が云うような事 俺が云ってる!」 

 「本当にそう思っているの?」 「本当だよ!本当に出会えて良かったと思っているよ」 「本当なら嬉しいわ!・・そうよね、これからは良い所をなるべく見ることね、私はどんなリュウで有っても 私が世間から非難されボロボロになっても愛し続けるわ、それを覚悟出来たから リュウに又合う事が出来たの」

 少し前の俺だったら ボロボロに傷つくと聞いただけで、そんな風に思っていたの!それならもういいよ そんなに我慢してむらわなくても と そのまま出て行ったと思う、しかし 今の俺は以前と捉え方が変わって 先生が其処まで覚悟して俺を選んだ事に 素直に有難うと思った.."俺は変ったな!"

 「俺・・、嬉しいよ!でも こんな俺で本当に良いの?」 先生は覗き込む様に顔の下から 「バカね!困った事に こんな俺が大好きなのよ!」 先生は自分自身に対して ”私 バカね” と発したのだろう 「・・・」 俺は照れもあり、応えにつまっていた 先生は覗き込み 少し改まり 「よろしくお願いね」 と優しく俺を見詰めた、やはり予感が当たった、俺は照れながら 「こちこそ頼みます」 と首に手をあてた。

 幸せすぎたのか今朝のあの嫌な夢を思い出す、あれは何だったのか?先生とこの様になって 俺のカーレースでのスポンサーが以前の妻の父である事が心に痞えて気になっているからか、その上まだ自分の目的も達せられない不安定な俺が家庭を持つ事への?不安が心を過ぎる..

 「リュウ、これからリュウに再会した横浜のラウンドマークに行きましょう、あそこでリュウと手をつないで堂々と歩きたいの、行きましょうよ!」 その時俺は何って子供の様な人なのかと思った 「いいですよ、行こうよ!」と答えたが それは先生自身の何かの決意にも思え 質問を投げかけ様と思ったが 何か気まずさが残る様に思え 飲み込んだ、

 早々と食事を済ませ 先生は俺の食べ終わった食器を洗いながら?「リュウ!私し 何着て行こうかしら?」 「なんでもいいよ!」先生は食器を洗い終わり手をふきながら俺の方に振り返り「リュウの好みが知りたいの」「そんなの急に聞かれても・・」 「どうでもいいの?」「う~ん、 俺 昨日の様なラフなスタイルが好きだよ、それと俺も着替えたいから 俺の処に寄って行くよ」 「ハーイ、そう言うと思った」先生は何か楽しんでいるように思えた

 今日の先生は 誰も医者とは思へ無いスタイル、膝辺りに穴の開いたビンテージ物のジーズと黒の胸の開いたTシャツ あのセクシーな匂いの香水 胸と腰が強調され足の長さと相まってとても魅力的だ、

 「いいね!俺そのスタイル好きだよ!」 「ほんとう?リュウの好みなの?以前にもそう云っていたわね、そう言う処 自分に素直で好きよ」 「まーね!感じたままで何も考えないバカだからね」 俺はこの人には思いのままを何でも話せる人とだと感じた

 俺の住んでいるマンションは横浜本牧の元米軍基地を返還した跡地(マイカル本牧)に有る 先生が部屋を見たいと云うので 一緒に俺の部屋に入った 暫く珍しそうに見回していたが、

 「意外と綺麗にしているわ、それに車のトロフィー沢山有るのね」 「うん 大凡はカーレース、特に始めの時は思い出があるよ でもレーシングスクールで飾る事にしたの」 「そうね その方がトロフィーも生きるわね それにあの賞状と金のバッチは?..COMMANDER FLEET ACTIVITIES..って?」

 「あ~あれね、カーレースを始めた頃は、当然それだけでは・・いや!今でも生活出来るわけでもないので米海軍の横須賀基地で働いているから」 「・・そうなの?」

 「当然レースでは食べる事も出来ないし、笑うかもしれないが世界で認められるレーサーになりたくて英語の勉強を兼ねてなんだ」 「笑いはしないわよ!そうだったの」

 「あの賞状は特別な賞で滅多にない事だよ そのほか毎年仕事で賞を頂いているよ」 「見掛けによらないね、レース以外興味が無いのかと思った」 「なに? そんな風に!見ていたの」 「冗談ですよ! そんなリュウだったら惹かれる訳ないでしょう」 「まったく!」

 「リュウ 下着と他の着替え2,3持って来て 今日も私の処に泊るでしょ?」 「俺も週末休みだから良かった そうさせてむらうよ」

 サーキットなどは週末はレンタル料が高いうえ色々な模様し物が有りマシーン(車)のテストには不向きで マシーン(車)のテストも終わり 後は本番1,2日前位まで予定が無い、おれもカーゴーパンツとTシャツに着替え 予備の着替えをバッグに詰め込んだ、

みなと未来駅付近.jpg みなとみらい駅、地下ホームからの長いエスカレーターは相変わらず途切れる事のない人波が続いている、

 クイーンズスクエアの有名店をあちらこちら、先生は以前の何か嫌な思い出を消すかの様に 開放され俺の手を引き約束どうりまるで二十歳前後の若者様に楽しそうに歩いた、

 ..男達の目が先生に向けられる、ある者は釘づけされ じーとなめ回すように見つめる人、又ある人は慌てて目をそらし 振り返って見ている男、その気配を肌で感じ 俺は少し優越感を覚えた、

 暫くウインドショッピングをし 「リュウ こんなブルー・ダニューブ(Blue-Danube)の食器揃えたいね」 「それなら 俺 一式持っているよ、ベースの外人の友達に頼んで取り寄せてむらったんだ」「本当?良く知っていたね」「以前イギリスのレースの学校に行った時に知ったの、イギリスの皇室で使っているとか とにかく俺も気品が有る品だと思って」 「リュウて不思議な人ね 何処か影があり、そのくせガサツな人と思っていたのに何故か人懐っこい処もあり 物を見る目も有るのね」

 「へーそうなんだ! そりゃあー良い物位分るよ、そんな目で見ていたんだ!先生を選んだ目だよ 確かな物ですよ」俺はこんなに楽しいデートは何年ぶりだろう 「ごめん!リュウは口が上手ね、私の事は解らないわよ リュウの買い被りかもガッカリしないでね」 「俺が良いと云っているから それで良いの」先生は目を細め本当に嬉しそうな顔で「嬉しいわ!」

 少しお腹も空き、海の見える屋外のオープンデッキが有るお店を探し そこに決めた。 ピザときのこのパスタを注文しデッキテラスの席をとった、太陽と海そして青い空 開放感を満喫しながらの会話

ベイブリジッチ.jpg 先生は遠くの景色に目を向けて笑顔で 「すごく楽しいわ、来て良かった、これが本当のデートよね、リュウ、嬉しいわ!」 子供のように楽しそうにしている先生を見、俺も楽しくなった、以前何か有ったのかな? 「俺も本当に楽しいよ」 先生は運ばれたパスタを口にして 「ここのスパゲッティより、トニーの処の方が数段美味しいね」 「俺もそう思うよ、あれはね、俺が伝授したんだ」

 先生は信じられないと云う様な顔で 「まぁー偉そうに良く言うわ」 「本当です イタリアの人は日本のお醤油使わないから、アサリのワイン蒸しを作る時にオリーブオイルにニンニクの香りを付けて種を抜いた鷹の爪 少しに白ワインでアサリを蒸しアサリが少し開いた処に 黒コショウ バター パセリの微塵切と そこにお醤油少々使って本当に味が良くなったんだよ」

 説明で少しは納得したのか 「ふ~ん、リュウって応用が利きアイデアマンね」 俺はちょっと自慢げに 「だろう」 ピッザも食べ終わり、暇そうに海を眺めていた 「リュウお腹空いているでしょう私のピッザ食べなさい」 「いいよ!お腹減ったら何か注文するから」 「顔にお腹空いたって!書いてあるわよ、私はもう充分だから食べてよ」 「それじゃー戴くよ」

 店を出、臨港パークを左手に大桟橋、右手には横浜ベイブリッチが見えるベンチにゆっくり並んで座り、爽やかな風と何処までも青く広がる空と海を眺め、

 先生はピザに齧り付いている俺の顔を覗き込む様に 「ねーリュウ 私・・以前彼氏がいたのよ、こんな話して良いかしら?」

 先生だったら誰も彼氏がいなかった事の方がおかしいと思っていたから驚く事もなかった 「余り聞きたくないが必要だったら いいよ」

スクエアエリア.jpg 先生は少し躊躇いがちに 「その人はね、始めはいい人だと思ったけれど、僕の彼女や妻になる人は淑女であってこうあるべきだとか、何かと云うと慎みなさい、世間体ばかり考えている人だったのよ、その家族と同僚の男達もそれに近い人が多かった」

 やっはりそんな気がした、その年まで何も無い事はない、以前何か此処での思い出を消してしまいたいか塗り直したかったのかも知れない 「もう何も云わなくて良いよ、解ったから、俺は先生の、ごめん・・まだ先生がぬけなくて」 「いいのよ、続けて」

 「先生の云いたい事解かっているよ、誰も先生の自由は奪えないし妨げられる物ではないよ、だいち個性が無くなるよ そこら辺の似合いもしないブランド品を身に付け中身が空堂のPTAの噂好き欲求不満のザーマス、おばさんになって欲しくないよ、過去はどうでもいいよ知りたくもないし知れば嫌な思いも生まれるし、知った処で過去は何も変えられないよ、今が大切だから・・もっと個性ある先生らしく楽しく実りの有る生き方をしようよ」

 そうか、俺だっていろいろ、先生も俺以上にトラウマが有ったんだ、それで今までの先生が言ってきた事が、自由をさまたげる障壁を取り除きたかったのでは、何か理解出来た様に思えた、

赤レンガ倉庫.jpg 「ごめんね!リュウはそんな人では無いと思うし、ただ、後から何かと言われるのが嫌だったから、この出会いを本当に大切にしたと思ったから..嬉しいわ、リュウは意外と大人ね、でも世の中、偽善と虚飾ばかりでは無いのよPTAは言い過ぎよ、それなりに皆、頑張っているのよ、子供みたい処有るけれど、そこが好きよ!」・・・「ねー、赤レンガ倉庫に行って、歯ブラシ、湯のみ、など揃えましょうよ明日の食料もね、リュウはお腹満足させればご機嫌だから、リュウと一緒だと本当に楽しいわ」

 「そうだね、俺ってそんなに単純!なの?..でも、先生もユニークな人だね、あの時の表現が、何か俺も納得させられたよ」 「バカ!恥ずかしいじゃない、あの時だから云えたのよ

 「そうでなくて先生が俺の為に ”女だって疲れたり寂しかったり要求があったりするのよ、生きているって!とても大変な事” だって」 「・・・」 「それと今までの周りの環境から抜け出し何か抑圧された物を変えようとして何かにぶっつけ全てを壊したかったから、自然に出た言葉と思うよ・・長い間自分を殺して生きていけないよ、俺がいやと云うほど経験した事だよ、上手く説明出来ないが」

みなとみらいの夜景.jpg 「そうね・・リュウも苦しんで解っているのね」 「うん、俺もそんな時があったから」 「リュウは一見変わっていてガサツに見えるけど、そのへんの気取った男より、本当に経験も有るし意外と教養も身に着けているね」 「そんなに、煽てると舞い上がるよ」

 「煽てじゃぁないよ!自分でも気が付かなかったけれど、リュウに言われその通りと思うから、だから一目見た時から全然違う世界のリュウが気になっていたのかも」

 「そんなに褒められた事無いよ、上げたり下げたり忙しいね、俺レーサーですから瞬時の判断が出来なくてわ、冗談ですけどハァハァ・・さぁー、行きますか?」

 ?二人は本当に素直に自分の気持ちをさらけ出し、精神的面も含め全てを裸になり、いっそう絆が深まり、安らぎと、愛情が生まれ始めていた、楽しく買い物して何時の間に日も落ち

 大桟橋の夜景が余りにも輝く様に綺麗に見え立ち寄る事にした二人は言葉を失う様に暫らく肩を寄せ合い無言で見詰め、俺はこの時あの息を呑む程キラキラ綺麗に輝く夜景の中でも沢山の人々が蠢き生活があり其々の物語があるだろうなと感じ暫らく見入っていた、夜景に感動し寄り添う先生を受け止め やっと俺は二人の年の差も余り感じなくなり初めていた

 流石に沢山歩き廻ったので俺の腹も空き中華街に足を伸ばし夕食も済ませ、足早に家路に向かった。

   ・・・先生のマンションにて・・

 新しいマグカップにコーヒーを入れて 「なにか、新婚さんみたいね」 俺は冗談ぽく、両手を広げ 「みたい、じゃあ無く、新婚だよ、さ~ぁ、こっちに、おいで、スィートハァーッ(sweet heart)」 「それって、大根役者の演技みたい、ダーリン(darling)と言えばよいでしょうが、笑っちゃいそうよ・・それより、リュウ!レースの事、聞かせて」

 「なにから話して良いか、・・俺の乗っている車はフォーミュラカーと言って早く走るためだけに無駄を省き、各国やランクにより規格規定が定められ作られているんだ、今乗っている車は大体3400cc位で600/hp(馬力)位有り、普通車の半分以下の重さで最高速300km位出るの」 「・・・」

 だまって聞いている先生を見て 「こんな話つまらないでしょう?」 先生は慌てて頭を横に小刻み振り 「うんうん 大丈夫よ!新幹線が200kmでしょう もっと狭い道で!・・なんとなく凄さが解かるわ、 それよりリュウが車の事話している時の目キラキラ輝いて生き生きして、好きよ! ねぇ~続けて・・」

 俺は少し得意になり話を続けた 「う~んそれにマシーン・・レーシングカーや機械は人を裏切らないから、レーシングカーで一番大切な事はエンジ音や排気音は楽器のバイオリンやピアノの音の様に繊細で気温や湿度等で微妙に変化するがそれと同じに変化を感じ取ったり車体の足回りのタイヤの減りや滑りを、レーサーの体全体のセンサーつまり五感で・・いや六感 全てで感じるだよ」

 綺麗な目をいっそう大きくして 「そうー凄いのね・・なんとなく解かるわ!」 先生は急に何かを思い出したように 「そうだ!・・時々街中で大きな音させドリフト(drift)?しているグループが有るけど、リュウもした事あるの?」 「良く車の事、知っているね」 「入院患者で小学生に入る位の男の子が車大好きで、良く私に話してくれるの、遊びたい盛りなのにね、リュウの車も、最近その子からミニチアで教わったの」

 「そうなの..俺や本物のレーサー達は、そんな運転はしないよ、傍迷惑だし、ただ、腕自慢したいだけで、スタントマンは別にして本当にレースを目指している人には誰もいないよ、並のレーサーだったらドリフト位(車のタイヤに急激にパワーを加えたり急激なブレーキを加え車を横滑りさせ方向を変えたりする事)、皆んな出来るよ」 「・・・」

 「レースは人より早く走る事、あんな無駄な走行は、しないよ、無駄な横滑りさせれば、それだけ遅くなるし、タイヤやブレーキ、そのほかの部品の消耗になるよ全部悪影響そんな馬鹿げたレーサーは誰一人いないよ、少しでも、ドライブもマシーンも如何に無駄なく走る事が早さに繋がるんだよ」 

 「・・・」 「それとカーレースはガソリンの無駄使いと思っている人が多いが、車の開発や安全に関わっていて如何に安全で少ない燃料で早く走れるか凌ぎを削っているのだよ、それとヨーロッパでは意識が高くイギリスなどレースで活躍した人をサー(sir:閣下)の称号を与えられているんだよ」 先生は納得したように頭を二度ほどコックリして 「凄いんだね、解ったわ じゃぁーただの暴走族と同じね」

 「そうだね、本物のレーサー達は限界まで走り込み常に五感を高めているんだよ、だからこそスピードの怖さを知っているから公道でそんな無謀な運転はしないよ、もし間違えでも起こしたら自分の職を失う事になるからね」 「そうだよね、だからリュウの運転安心出来るんだ!」

 「それに 今の車は性能が良くなり、自分の腕でなく 車に乗せられている若者が多く 見ていて危なく思う事が沢山有るよね、彼らに時々サーキットを開放してやり 思いっきり走らせれば、スピードと車の恐さも解かり無謀な運転は無くなると思うよ、・・もっとも今ではドリフト専用コースも大分有るけど有料で料金が高いから、時々無料でサーキットを解放して上げたら良いのにね」 「そうだと良いのにね リュウ いい事云うね、あの子にも話すわ」

 俺は尚も得意に「それで レーサーは其々自分とマシーンの限界ぎりぎりを見極め走り そのタイトロープを集中し護り通し気を緩めた者が負けだよ、俺が最も好きなのはレースの駆け引き 相手を射程距離に治めたとき 相手のマシーンの特性を知りプレシャーを与え相手のミスを誘う、相手の苦手なコーナーや相手の車の特性を見極め此方アウトから抜くと見せかけ インから抜き去った時 ちょっとした快感だね」

  尚も開催日程や場所等を話し..得意げに身振り手振りで話す、俺をまるで母親が子供の話を聞くように見つめている。俺の話が一区切りつき留まった処を見定める様に確かめ「リュウのご両親や兄弟は?」と聞いて来て

 俺の家族の話になった、父は俺が小三の時に白血病で亡くなった事、父の職業は新聞記者の政治部で時々社説等書いていた事、母は高校の教師で今は定年退職して家で学習塾をやっている事、女二人、男二人の四人兄弟の末っ子で俺は 工学系の専門学校を出 暫らくある企業で勤めていたが派閥や人間関係が嫌になり、

 ある日 自動車レースのF-1を観戦し虜になり この道に入った事など 大まかに話した 「あぁ~ それで! 何となく解かったわ リュウが時々 難しい言葉使うから」「俺は父母と違って文学は全然駄目 機械いじりばかりして勉強嫌い家では異端児扱い 変わっていたのかも」

 「リュウ、おおよそ解かったわ..それでね、私達のこれからの事考えてみたの 当分はこのままで良いけれど、 いずれ考えなければいけないわ 私は病院辞めたく無いし・・ リュウの子供欲いし ・・リュウの夢も叶えさせたいし色々考えなければいけないね」「俺まだ何も考えていないよ」「・・」先生は俺の対応に無言であった 俺は慌てて後を続けた「俺が何処まで出来るか解からないし これからどうなるか俺にも判らないが・・・マジで! 絶対先生を失いたくないよ

 「嬉しいわ!、 リュウが 逃げださない誠実な人だって 前の奥さんの事で解かっているわ、 うちの病院の女性の看護師達が言ってたわ、毎晩 疲れ切って帰って来て奥さんの手を握りながらベッドの下で眠っていたって、あんな旦那さんだったら良いねって、皆憧れていたのよ」

 「そんなんじゃーないよ!看護婦さん達は現実を知らないから、結局 惨めな破局、・・・マジ同じ過ちは絶対出来ないよ!自分が許せなくなる・・ 話変わるけどさ、あの時 前の奥さんの看護で、そのまま寝てしまって時々毛布が俺の肩に掛けて有ったの、看護婦さんに聞いたけど誰も知らないて、・・もしかして先生では無かったの? 何かそんな気がして」

 「そうよリュウ、今はね看護婦と言わないのよ 今は女性ばかりではないの、それで看護師と呼ぶの。 それは兎も角 夜勤の時にね」 「・・」 俺は無言で次の言葉を待った

 「あの時のリュウはね、今もね目が澄んでいてキラキラして 私を見つめ他の方法は無いか又調べたのですが こんな方法はどうなんですか?て懸命に質問して来たの・・・大半の患者やその家族の方は私や他の先生方の説明を聞くだけで ”そうですか” で終わってしまうの」 「・・・」 俺は黙って聞いた

 「何故かあの時 こんな弟がいたら良いなと思い 時々ね・・」 「そうなんだ!やっと解った あの時はありがとう」

 「リュウの気持ちとっても嬉しいわ、今日は遅いから又考えましょう」・・・「さぁー シャワー浴びて来て、 そう云えばリュウのパジャマ買うの忘れたね、 まだまだいっぱい色々する事あるね」

 「うん、今夜は期待どうりするからね」 「バカな事云ってないで!早くシャワー浴びてらっしゃい」 こんなところは お姉さんの様だ 「私のパジャマ用の 徳大なTシャツ出して置くから着てね」

? シャワーを浴びながら ふと思った俺は未だガキだな、先生が何を考えていたか少しも考えていなかった、先生の両親、俺の母、そして世間の皆を説得させなければ成らない、

 先生の固い決意 少しも汲み取れなかった、年上の上に先生の地位全て責任を取らなくてはいけない、少なくても世間はそう思うのだから、俺にそんな心配少しも掛けまいとしてそれなりの決意をしている事、今までの女子達と違うんだ なんって俺はノウテンキなんだと!

 俺は改めて 先生がシャワーを済ませあがって来るのを待った 「リュウ 如何したの? ベッドに行っていると思ったわ、 パジャマ合わないの?」 「そうじゃないよ、こっちに来て座って」 「如何したの?改まって!」

 「ごめん 先生の事何も考えていなくて、これから 先生の両親と皆を説得しなければ成らないし、俺そんな事少しも考えていなくて」

 「良いのよ、リュウはそんな事 心配しなくても、 云ったでしょ!リュウに電話入れるまで 色々悩み考えたの、結局は私たちの決意が変わらなければ大丈夫よ!必ず説得出来ると思うわ、 リュウはそんな心配しなくて いいのよ、 リュウの夢 壊したくないし リュウに迷惑掛けたくないよ」

 やっぱり五つも歳違うんだ、 そこまで考え 全部自分でやろうとしていたんだ そう思うと一層愛しく 「なんで?俺にだって出来るよ! 一人でやろうと思わないで 二人の問題でしょう?、二人で乗り切ろうよ!」 先生の瞳が急に潤み 俺に抱きついてきた 「リュウって優しいのね、..うんうん..うん」 と子供をあやすように俺の頭をなぜた

 「何でも二人で考えようよ、あまり役に立たないけどね」 今度は冗談まじりに 「抱き付くのは此処ではないよあっちのベッドだよ」 先生はそのまま 真面目に 「うん! でも先生はやめてね、 パジャマ大丈夫そうね よかった!」

 「パンツ無いから 女の子ってこんなに下からスウスウして大丈夫なの? それとこれ先生の良い匂いするよ」 「そうよね 何時もスカート履いているから慣れよ」

 「病院で会った時はキリットして誰も寄せ付けない顔して、狭心症 弁膜症 右心室 左心室 大動脈瘤とか今と全然違う顔だね、俺もあの時少しは覚えたけれど 今の顔どっちも好きだなぁ~」

 「リュウたら からかって! 女は恐いよ!営業用の顔と二つ持っているのよ フッフ フー」「下から掴んじゃうぞ!」 少し先生の笑顔が戻ってきた 「おぉ怖!、俺 先生のじゃぁー無くヨシ子の泣き顔より今の笑顔が大好きだよ もう寝よう~よ」

 あえて この後の事には触れないが この言葉で理解して頂こう。 女性をレーシングカーに例えたら失礼かも知れないが 俺にとっては同じ気分だ、空気抵抗を抑えるため極限までに削ぎ落としたボデーは女性の曲線美に等しく  繊細で扱い難く直ぐに燻ってしまうが、一フェラーリF458.jpg度エンジンが掛かると押さえきれない程の高回転に燃え上がる。

 扱いは女性と全く同じだ、時には繊細に押さえ 時には床を踏み抜くほど此れでもかとアクセル踏み込み、幾つものカーブを微妙なハンドル捌きとアクセル ワークで操り まるで情熱のタンゴを踊る様に!、後はオーバーヒートでブチ壊れようがゴールに向かって走りきる。

 その極限の車を操れ自分の手足に出来た時、男たちは究極な喜びを得られ 美しいスポーツカーに憧れる。 これは俺の持論だが 少なからずそう思っている男は多いはず。

 (ワゴン車も実務的で良いが 時には無駄の遊びが有っても良いと思う、スポーツカーで夢とロマンを持ち続けて欲しいものだ、芸術や科学も其処から生まれ決して無駄にはならないはず)。タッチおじさん ダヨ!.jpg

  此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【前編4】クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-30》次に続きます 是非お読み下さる事お願い致します


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編1】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

小説ですので【前編1】~【前編17】の順にお読み下さい、読み易く登録が逆に戻る様になっています 

   《回想:reminiscencesFormula Nippon Twin Ring Motegi(フォーミラ日本 モテギ・サーキット 8/9日) 

リュウヘルメット.jpg

 真夏のギラギラした太陽を千切れ雲が時折遮り 汗ばんだ肌に気休めの風がそよぐ

 ここモテギ・サーキットは畑や田園に囲まれた静かな農村であるが、暑さを物ともせず この日ばかりは流行のファションに身を包んだ若者達や派手な車が集まり交通麻痺が起き この暑さ以上の熱気に包まれ賑わっている。

 サーキット内では前座の各レースも終わり、本日のメインレースであるフォーミュラ日本の始まりである、

 前日サーキットのコース一周のタイムが早い順に予選順位が定められ コース上に決められたスタート位置に運ばれたフォーミュラ・カー(formula car)にレーサーが乗り込み、

 その日の天候や温度風等に併せ疾走ぎりぎりまで各マシーンのセッテングを行いキャスター付きバッテリーとダイナモスターターでエンジンをスタートさせ タイヤのグリップりょくを高める最適温度に保つ為のヒーター付のタイヤカバーを外し終わったメカニックや関係者、派手で大きなスポンサーの宣伝用パラソルを翳した華やかなグリッドガール達 (grid-girl :日本ではレース・クィーンrace-queenと呼んでいる クィーンは一人のはず) も立ち去り、

 サーキットのコース上フォーメーション・ラップ(formation lap)を迎え 各レースカーが予選順位順にペースカー(pace car)の先導に従い各マシーンが蛇行したり急激に速度を早めたり緩やかにして ニュータイヤのスクラブ(scrubや適切なタイヤ温度を保ち グリップ力を増し 其々少しでも良好な方法でマシーンの性能を上げ より レーサーのモチベーション(motivation)を高め 予選タイム順に規則正しく定められたスタート・ポジションに着き初めている、

 サーキッド・スタンドを満席に埋めた観衆の歓喜や騒めきも今は消えスタートの瞬間を固唾を呑み この暑さにも増す眼光で見据え、 今 正にFN(フォーミラ日本)マシーンがスタートの時を迎えている。

 スタート位置に着いたフォーミラ・カーのコックピットに納まっている13人のレーサー達は剣豪が命を賭け戦いに挑む様に誰も寄せ付けないビリビリした緊張感を漂はせ、 其々孤独とプレッシャーに耐えながら闘志を胸にスタートの時を今は遅しと待ち侘びている、

 彼らの操るマシーンのエンジン(3.4ℓ・V8・90°600+α/hp)からは一斉に高圧縮高回転のレーシングカー特有な甲高い排気音(この時ばかりはexhaust noseとは云はずexhaust soundと呼んで欲しい)を奏で ”ヒューンフォフォーンフォーンクォーンフォーン” と戦場の雄叫びの様に鼓膜が破れんばかりに響かせ 聞く者の腸(ハラワタ)に染み渡り 燃料の焼けた匂いと共に 身体の奥底から湧きあがる 痺れるような官能を呼び起し嫌が上にも興奮が高まっている。

 二番グリッド(grid:ポジションposition)のフォミュラーカーに収まった俺は一人狭いコックピット(cockpit)の中 幾度この時を迎えたことか 軽量化され機能のみ追求し体にぴったり合わせたクション無しカーボンファイバーの無機質なドライビングシートに6点式シートベルトで体を確り締め付けられ 無機質であるが故に 改めてマシーンと一体化し魂を吹き込み命を蘇らせるかのように ”さぁーいくぞ!” とマシーンと俺自身に気合を入れる、 この様に同一基準のフォーミラカーであるがメカニックの調整と整備レーサーの好みや性格で各マシーンの個性が生まれるのです。

 斜め前に見えるレーサーやバックミラーに映る百戦錬磨のレーサー達の自信に満ちた顔が圧迫する 短い待機時間がこれほど長く耐えきれない孤独感に包まれるのか! その都度これまでの念いと不安を一層誘い不思議と過去の出来事が鮮明に蘇る、それにミラーに見え隠れするレーサー達の執念や決意の思いがじわじわと覆いかぶさる

 このじりじり刺すような日差しと熱気の為 陽炎が立ちのぼるコース上 耐火耐熱用レーシングスーツに特殊耐熱用上下アンダーウエアーそれに足先から頭より全部を覆う耐火マスクやグローブ・ソクッスは安全対策に必需品で着衣し待つ 緊張のあまり気にはならないが かなりの暑さ体力消費になる やがて最後尾のマシーンも所定のスタート位置に着き 更に緊張が最高潮に高まる!

 スタートライン前方上部にスタート合図の為に横に並んだ五つのシグナル・ライトを見詰め、 逸り高鳴る気持ちを抑えるように静かに計器とスイッチなどを改めて確認し 不安を打ち消すかの様にステアリングを暑さと緊張で少し汗ばんだ両手のグローブ越しに強く握り返した、 ”唯 勝つ事のみ無心になれ” 己を奮い立たせ闘志に変え戦闘態勢に入る時でもある、

 ”・・たのむ 機嫌良く していてくれ!・・” と心の底から絞り出すように 繊細で気まぐれのマシーンに呟き・・・ ヘルメットのバイザーを右手で確認し 瞼を静かに閉じ 一度大きく深く長く息を吸い込み静かにゆっくりと息を吐く レーサー達の気迫と己の不安に押し潰されそうな 心を鎮めようと試みるが 尚更不安が募るばかりだ

 何故か何処かで見たのであろう しなやかで贅肉が全く無い 黒ヒョウの獲物を追う躍動豊かな優美な姿が鮮明に浮かぶ・・・狙った獲物は決して逃さない あの強さとしなやか(強靱)さ 俺の願望なのか!?・・・改めてステアリングを強く ググッと握り締め!

 おもむろに瞼を開き 力強くスタート・シグナルを凝視 スタートの瞬間だけに集中する、

 おそらく2列に整列した13台のレーシングマシーンから 否応なく高らかに戦闘意欲有る轟音を放っているだろうが スタート位置の前方上部に 横に並んだ信号機のランプだけが クローズアップされ 相反する様にそれ以外 全ての物や音が掻き消され 集中した俺には静寂其の物だ、

 ただ自身の心臓の鼓動だけが ”ドックン、ドックン、ドックン” とやけに大きく響く!、剣豪が立ち会いの時 無心になる様に ”慌てるな 冷静にしろ 何も考えるな!” と心中で反復する。

 五つのグリーン シグナル・ライトが一斉に消え、今度は網膜一杯に 一つずつ真っ赤なシグナルライトが映り始めた!

 さぁーいよいよだ そのまま握っていたステアリングをドライビンググローブを透し少し汗ばんだ手で握り返す緊張と逸る気持ちを抑えながら スタートの瞬間にタイミングを合わせ、

 赤いスタートシグナルライトがワン・ツゥー・スリー・フォー・ファイヴ・・一つずつ5つ全て点灯 次の瞬間 全てのライトが消えた! ブラックアウト(blackout)

            Go-ahead・・・ ・・・ スタートだ!・・

 握り締めたステアリング(steering wheel)を更に握り込み中指でパドル(paddle)を瞬時に押し上げギヤ(gearshift)を繋ぎ 神経を集中させた足先のアクセルペタル(accelerator pedal)をほぼ同時に踏込む!

 静寂を破る様に はちきれんばかりに張りつめた緊張を一気に解き放つ!スタート前 あの心細く不安の気持ちが嘘の様に消え 心の奥で眠っていた野生の血が目覚め一気に体じゅうを駆け巡る!

 ヘルメット越しの頭上に口を開けているインテイク マニホールド(intake manifold)からまるで生き物の様にピストンルーム(肺一杯にヒュヒューンと空気を吸い込み 背中に置かれた3.4ℓ・V8エンジンがこの時を待っていたとばかり応え 8個のピストンが力強く上下に動き 激しく身震いを起こしながらモンスターが目覚め 俺の足先のペタルに合わせる様にクォウォ~ンと高圧縮高回転の独特な唸りを上げる!

 サーキット全体の空気が嵐の海岸に激しく岩をも打ち砕ける波の様に全マシーンの甲高い排気音がクォーン フッォフォーン フォーンと爆発的に響きわたる まるでマエストロ(maestro)の指揮に従い各車が其々シンフォニー(symphony)の様にエキゾースト(exhaust の金管楽器)から これでもかとたたき付けるように大音響を轟かせる、同時にレース用燃料の焼ける香りを満席に埋めた観客席にまで漂よわせ否が上にも興奮を盛り上げている

 路面に密着しやすい特殊コンパウンド(compound)で作られた幅の広いレース用タイヤが力強く路面に食い込み 激しく蹴る様に回り始め白煙を上げながら焼け焦げる匂いとスリップ痕をくっきりと残し

 一斉に13台のマシーンが満月にしぼり込まれた弓の弧から矢が放たれる様に 全マシーンが猛然と飛び出す!

 俺は力強く後方に押し付けられる 強力なGを受け (添え字Gは大気圧標準を表し/圧力度を数字で表す) ドライビング・シートに体と頭も動けなくなるほど押し付けられ張り付いてしまうが、逆らう様にステアリングを確り握り締める!。

      ”よし!上出来だ!(good job!)” 俺は心で呟く、

008-1.jpg ”スタートは微妙で難しいものだ!

 アクセルでパワーを急激に加え過ぎてもタイヤが激しくスリップを起こし地面との摩擦抵抗を失い空転しマシーンは前に進まない (これぞ俗に云うカラマワリ)、

 極限までパワー(power)を求めたレース用エンジンはトルク幅(torque-band/rpm)が狭く、アクセルが弱すぎてもエンジンパワー(PS:f/HP:uk)を失いノッキング(knocking)を起こし立ち上がりが悪く相手に交わされ遅れを取ってしまう微妙で難し

 そして云うに及ばず高回転高出力に耐えられるクラッチ板やバブルヘッド等ベアリングに至るまで 全ての部品が軽量堪つ強化精密に作られ 新素材(アルミ合金・マグネシュウム合金・チタン合金やセラミック・カーボンファイバー等が有りこれからは加工し易い セルロース ナノ ファイバー(cellulose nano fiber)や異種類材料接合技術が期待されている(例えば:鉄とアルミ合金等) 尚バブルタイミングや点火等エンジンの制御センサー類が進みコンピューターの導入がある"

 飛び出す様に走り出すマシーンの強烈な圧力(G)に逆らい反射的に手足が反応、それと同時に周囲の状況変化を瞬時に読み取り 僅かに出遅れた前車の僅かに開いた脇を擦り抜ける、

 第一コーナーを目指しステアリング・バドル(steering-paddle)を指先で押上げシフトアップ(shift-up)、空かさずアクセル・ペタル(accele-pedal)踏み込み又戻す、もう一度反射的に素早くバドルを握り三度目のシフトアップ、

 今度はこの世の中の抑制された全てを否!俺自身の抑圧された心の全てを取り払うかの様に、これでもかとアクセル・ペタルを床が抜けるほど強く踏み込み加速する 観客席に見える人々が 一瞬に後方に消え去る!

 エンジンは俺の意思を汲取るように立ち上がり良く 激しい振動を起こしクーオッオンと吠える!回転数はレッドゾーン(red-zone)を遥かに越えている

 俺はマシーンが壊れない事を祈り ”よし!相棒 たのむぞ!” 間髪を入れずアクセルを戻しバドルで変速ギアーを4速に入れもう一度力いっぱい加速する、 このレース用車は普通の車と違いミッション(transmission-gear)はパドルシフト6速(F-1はギアーミッション シフトが7~8速・エンジンは点火プラグの無い希薄燃焼lean burn engine)まで有る。

 此処までの一連の操作は 字数にしたら かなり多いが スタートから僅か2秒足らずの間で 訓練されたレーサー達は計器とエンジン音で反射的に動作する、此のクラスのレースでは性能がほぼ同じ、第一コーナーまでの先頭争いが重要、其の後のレース結果にかなり影響するからだ

 解き放たれた野生の狼達が獲物を追い詰める様に13台のマシーンが第一コーナーに群れを成し一斉に傾れ込む、 俺は瞬時にバック・ミラーを確認しスタート時に僅かに出遅れたトップのマシーンをアウトから素早く交わし押さえ込む様にコースのインに付く、スピードに慣れない人は充分広いコースの幅もスピードが増すごとに極端に狭く感じる況してやカーブは極端に曲がって見え 初めてこのスピートを体験した人は恐怖すら感じるだろう

 迫り来る第一コーナー後続車を少しでも引き離す為 ”ここも勝負処” 何時もよりワンテンポ先コースを飛び出す寸前ぎりぎりまで引っ張り ブレ-キングを遅らせ

 間髪をいれず思い切りブレーキング! 同時にエンジンブレーキを併用してシフトダウン・ギヤーを2速まで落とす目の前に見えるフロントタイヤウイルのブレーキディスク(PFC社製6ピストン中空carbon ceramics disk brake )が熱をおびて真っ赤に染まる マシーンが微妙に左右にブレながらアウトに向かう! その激しさは想像つくだろう!

 (これも微妙でタイヤをロックさせたら制動距離も長くなりタイヤにフラット スポットが出来てしまい その後バイブレーションが起きタイヤはもちろんの事 車体にもレーサーにも悪影響を与える、 一般にブレーキシステムは忘れがちになるが早く走るのには必要不可欠なもので 前後左右如何にバランス良く短時間で速度を落しせるかメカニカルな調整が重要、 普通の車のディスクブレーキでは余り激しく使うと時にはフェードアウト現象”fede-out”が起きてしまう事がある

スタート事故1jpg.jpg  こんどはタイヤをロック寸前で解き放つ !同時にマシーンの方向を変える為に一瞬の恐怖心を抑えステアリングを切り込み同時にアクセルペタルをオーバーに踏み込み後輪を横にスライドさせる このブレーキングからの一連の操作は一瞬の躊躇が危険を招き一歩間違えればコントロールを失いコースを飛び出してしまうからだ

 ステアリングに集中しマシーンの挙動に全神経を集中、ブレーキを遅らせたぶんマシーンがアウト側に流れてしまうが クリッピンポイントを奥にとりオーバーステァ気味にパワーを加え後輪をスライドさせ鋭角に直線的にアッタク(attack)し向きが変わったところでパワーオフ

 続いて徐々にパワーを加えながら微妙にカウンター・ステァ(counter steering)を充てフロントやリヤーの横滑り(drift ドリフト)を抑えアクセルワークを併用しながらマシーンの挙動を研ぎ澄ました全身の五感で特に背中や尻から動きを感じ取り小刻みに車体のバランスを取り次の動作に供える この時 このモンスターと初めて一体化でき巨大なパワーと共に体の一部になったと思えた、

 左サイドに頭と体に激しくG圧が加わり(特に高速カーブでは遠心力により三半規管のリンパ液の移動が起こったり 耳石に影響を与える)平のコースが斜めに傾きを感ずるが ステアリングに細心の注意を払いアクセルを小刻みに調整 空かさず3速へシフトアップ

 今度は本能の儘に全てのしがらみを振り払い周りの景色がすじ状なって流れ去る様に出来れば真っ白に光の速度をも超え時空をも湾曲させ異次元に行け!とばかりにアクセルを踏み込み4、5とギヤーをシフトアップ フルスロットルで加速する、  (蛇足:ワープwarp・・時空の湾曲・宇宙空間での歪みを作りだす・・・実際には巨大宇宙を歪ませるのだから想像を絶する莫大なエネルギーが必要だ 宇宙には謎の重力波が存在すると云う

 目的に一直線に増々高まるエンジン音の雄叫びの中 ”しなやかで力強い黒ヒョウのギラギラ金色に輝く 射る様な鋭い眼差しが浮かぶ” それは俺が生きている実感を取り戻し 野生に戻った俺自身を確認するかのように 第一コーナーでの激しい先陣争い!、

 突然!、俺のドライブするマシーンが予期せぬ衝撃を受けコントロール不能、一瞬にして激しく前後に回転マシーンのリヤーから体操のムーンサルトの様に前後左右錐揉み状態で持ち上げられマシーンと共に舞い上がる 「Oh!何だ!・・?!!?・・」 地表と青空が真っ逆さまに見えた次の瞬間! 俺は闇の中へ・・・・・・・・。 

   蜉蝣(ふゆう)kagero^ heat haze 

ポピー.jpg 春霞が薄らいで薄青色に広がる日差しの中 ポカポカとした昼下がり 陽だまりが眠気を誘う、 何処までも広がっているポピーの花畑と枯草の香り中で大の字に心地良く寝そべっている俺がいる、

 子供の頃から今の俺の生きて来た生活が、まるでビデオの早送りかフラシュバックの様に脳内のスクリーンに映し出されている、人は走馬灯の様にと言う、夢は色付では見られないと伝えられているがポピーの花が赤や白、ピンクに、空は何処までも青く澄んで鮮やかに見える。

 すっかり忘れていた、近所の人の良いおじさんやおばさん、小学校好きだった同級生、俺の兄貴、ガキ大将、先生、職場の同僚、自動車レースの仲間達と練習中に亡くなった友人と家族、外人、行き付けの喫茶店の叔父さん、女店員、焼鳥屋のおやじ、レースの時のグリッドガール(レースクイーン等)、コンパニオン、行き付けの食堂の叔母さん、レストラン経営の陽気な外人とその妻、居酒屋の女将、以前別れた妻の汚れを知らない天使の様な笑顔、和服の女性、そして入院中の男の子と時間軸もバラバラに次々と写し出される、

 フッと見詰めるとなぜか解らないが辺りが一変して電車の中だ なぜ電車の中に俺がいるんだ! それが変だと考える余地も無く次から次へと追い詰められたように押し寄せて来る!

 ・・突然!向かい席に座った戦慄を覚えるほど恐い顔のおじさんがゆっくりと立上がり 冷たく鋭い眼光で俺を睨み ゆっくりと一歩 又一歩と迫ってくる、恐怖に戦きながらも 何故か彼の鋭く氷付く様な眼差しに吸い込まれながら 意外にも話し掛けたくなる衝動に襲われる ・・が!

 これほど無表情な顔に微かに頬を歪めた 冷ややかな微笑に背筋がゾゾーと寒さを覚え 曽て感じた事が無い恐怖が沸き上がる 俺の頭の片隅で止めろ止めろと必死で囁く!この人は冷静に笑いながら平気で人を刺せると感じ危険と恐怖心で 体中が氷付くような冷や汗で覆われる!、

 かろうじて流れ去る海辺の遠い水平線に目を移す、その状況を考える余地もなく 何時の間にか!辺りは深い深い底なしの真っ暗闇! 何処かに掴まろうともがきながらゆっくりと何処までも落ちて行く、 俺が受け入れようが受け入れまいがその時も与えられず次から次えと状況が変化し映り変わる!

Formura-RYy.jpg 映像が今度はスローモーションに変わる、何故か宇宙のような暗闇の中を不安定にふかぶかと漂い、

 二度目の結婚・入籍したばかりの妻、ヨシ子が何故か、俺の頭をかばうように懸命に抱きとめ柔らかい胸の暖かさに安らぎを感じていたが、

 突然嵐の渦に巻き込まれるように、ヨシ子の意思に反した様に苦悩と悲しげな表情に顔を歪め徐々に俺から離れ漆黒の闇の中に吸い込まれる様に消えかけて行く、

 如何したのだ!一体何が起こっているのだ!俺は懸命にヨシ子を捕まえようと試みるが無情にも離れ続けている、

 いつの間にか俺の腕の中で今にも壊れてしまいそうで どの様に抱いたら良いのかそれすら判らぬまま 不安定に膝の上に置かれている見知らない女の赤ちゃんは 何んなんだ!?。

 ただ声も発せず懸命に俺を見詰めている此の小さい物体に阻まれ 何故か体を動かす事も声すら出ない、ましてや手を離せばもっと何処までも広がる墨汁を振りまいた深い々海の中に引き込まれ、その子が飲み込まれてしまいそうでヨシ子に手を差し出すことも出来ない、それは強力な別の星の重力波か磁場の中を漂って得体の知れない不思議な磁束や重力に体が縛り付けられているかの様に!

 ふと・・ファラデーの法則やフレミングの右手の法則が蘇りオシロスコープの波形が浮かぶ 磁気や電波が人に危害を与える話は余り耳にした事は無いが強烈な磁力や重力波が集まり津波の様に受ければ?デシベル? P(dB)=10log P2/p1・・ 増幅回路?・・エミッタ・ バイアスAu=Vo/Vi=-(Rl//Rc)hfe/hie ◎×▽Ai= 振幅変調 Vam=Ve(1+m sin ω mt)sin ωet/Vfm=Ve sin(ωet-mf cos ωm t)・・???此処は空気があるのか? 揚力L=1/2PV²SCL など脳内を無意味に駆け巡る 見えない重圧に心も体も耐えきれず粉々に吹き飛ばされてしまいそうだ!

 まるで支離滅裂 (fragmentation)だ!ロバスト(robust)010101が利かなくなっている!デフラグメント(Defragment)かブートアップ(boot-up)だ!(PC用語defrag フアイルを置き換え最適化/reboot ) 再起動を行え! だが俺がもがけど 打つ手は無く まるで思考停止の異常状態が続き 勝手に状況が変化する!

 俺は引き込まれる様な漆黒の暗闇に漂いながら徐々に底なしに広がる淵に、まるで宇宙の光まで吸い込んでしまうブラックホールに俺と見知らぬ女の赤ちゃん以外全て吸い込まれ 濃霧に覆われるようにヨシ子の足元から消え始めて行く、

 悲しげに俺から離れて行くヨシ子を、赤ちゃんを膝に抱いたまま ただもどかしげ見守り、声にならない叫びをあげる ”何故なんだ ヨシ子!俺を確り捕まえて放さないでくれ!もっと確り・・” 必死の抵抗を試みるが、ウウッ!どうしたんだ助ける事も出来ない 俺の心と頭は張り裂けんばかりだ、いったい何が起きているのだ・・クーゥ!?

 ・・頭の中で混乱状態が続く 何故なんだ!訳が解らない!・・恐怖の潜在意識なのか?それとも抑圧された何かの欲望なのか?思いも因らなかったが このままレースを続ければスポンサー絡みでヨシ子を失う事になり兼ねない そんな不安が強いのか!?それとも未来への警告なのか?一体今のはなんだんだ・・・!。

上高地 河童橋.jpg 混沌とする中、自分の意志と全く関係なく 目まぐるしく場面は又突然変って!!

 今はトレッキングブーム(trekking-boom)で大分様が変りしたが、

 (余談ですが歩く行為は脳内での活性化に大変役立っている それは瞬時に次に出す足の位置を危険から避け安全を判断し進む方向と体のバランスを経験とあらゆる知識の蓄積から決めているからだ それもなるべく早く歩く事と 舗装されていない山道のほうがより良い思う 今では認知症の予防や改善にも役立っている事が証明された、脳内組織網の活性化と云い 如いてはカーレスに繋がる。

 それは幼い頃の夏の思い出 父の関係もあり兄弟と姉の担任先生達の微かな思い出 その頃河童橋は 小学生にもならない俺にとっては吊り橋が途轍もなく高く感じ きっと怖かったのだろう たぶん橋を渡れずあの冷たい梓川を姉の先生の幅広く暖かく安心感のある背に背負はれ渡った記憶があったからなのか、

 月日が過ぎ俺は高校生になり 今考えれば無謀な事であるが学校をサボり 母や家族に内緒で、其の頃は余り訪れる人も無く確か5月も終わる頃 松本からバスの運転席が谷底にはみ出しやっと通れる曲がりくねった崖淵とその昔修行僧が年月をかけ鎚とノミで堀った様な短いトンネルを幾つか経て上高地の河童橋を友人と渡り大正池や冷たさで一分も手を差し入れていられない雪解けの清流梓川に繋がる。

  澄みきった群青色の深い空 木々に囲まれた清流 爽やかで少し冷たい透明感を覚える、頭がズキンと痛くなる様な清涼感とマイナスイオン(minus-ion)に満ち溢れた空気 思わず深々と深呼吸してしまう、其処からの朝日に浮かぶ北アルプス穂高連山の山頂付近の残雪が銀色の輝き、時々突風に舞いきらめく粉雪のスターダスト、全てが新鮮で美しく素晴しく感動した。

明神池-1.jpg 大正池から焼岳では初日足慣らしに 未だに上がる噴煙 硫黄の臭いに咽、その日は大正池付近に友人の父から借りたキャンプ道具・テントや寝袋で暖かく一泊、まだ寒さが身に染みる翌日朝 日の出前に重いキャンプ道具を背負い出発 河童橋方面にもどり梓川上流の明神橋を渡り徳澤園まで二時間位黙々と歩き 朝食を軽く取り なお~横尾で遥か先に屏風岩が見える~本谷橋を渡り尚奥深く進む まだ寒さが残る雪解けの頃 残雪が所々残る奥穂高岳では天候も良く涸沢ヒュッテ を過ぎ涸沢小屋で昼食そこに再びテントを張り

 そこからは軽装備で照り返す雪渓を友と二人アイゼンを付け黙々と上がり岩場を少し恐く緊張したが踏み外さない様に岩にしがみつき、鉄梯子や鎖につかまりロープを頼りに時にはピトン(piton :f /ハーケンhaken :g)に足場を委ね 屏風岩を右手に眺めながら、慎重に慎重にやっと涸沢ヒュッテから辿り着き穂高岳山荘に一泊 、

 満天の星空に感動し、翌朝陽の上がる前に頂上の社(やしろ)に登り着き友と二人喜び合い 頂上で見る雲海からの御来光 余りの素晴しさに息を呑み言葉を失う!更に尾根続きで岩場の馬の背・ロバの耳・ジャンダルムジャンダルム2.jpggendarme:f)まで攻める(写真は まだ当時 当然カメラも持てない頃でしたので季節も違いますが 参考に示しました)。

 疲れも忘れ全ての雑念が洗われ大袈裟では無く、その雄大に広がる光景に宇宙と魂の融合すら感じ心が揺さぶられるほどの感動を覚えた、一歩踏み出せば良質な羽毛が果てし無く広がる雲海の上を子供の頃日干した布団の上で寝転び飛び跳ね遊び回った様に誘惑が襲い苦笑する、

 神秘的な宇宙との関わりを感じ始めたのはその頃だろう、 禁断の山頂で暗黒に蠢く雲海に一筋の光が我が目を貫いた一瞬 ” 我が魂 獣にならんと欲す ” その美しさに皆心の洗われる時であるのに 何処かの家の床の間に飾った昇り龍を思い浮かべ まだ若き高校生の精神的に不安定な俺は 自身の存在意義の模索中マルクスの思想など余り判らぬままに (一見理想に思うが よほど確りした指導者がいない限り腐敗と無気力・堕落を生み出す元にもなる もっとも何処かの国でも官僚や既得団体が国の発展を邪魔している、最近は資本主義も格差社会が広まり崩壊の一端が見え隠れする 話がそれるので

 革命家チェ・ゲバラに憧れていた俺 こんな言葉が浮かんだのだろう きっと自分が生まれてきた意義や何者でどの様に生き進めば良いのか解からず(今もって解らず)俺に欠けた弱さと生き甲斐を見付けたかったのかもしれない (だが!これも革命に名を借りた暴力であったのかも知れない)。

 又中学三年生の夏 山梨県から長野県にまたがる八ヶ岳連峰 赤岳を登った記憶が逆行し蘇る、 この一連の二つの事がらも強烈に印象に残っていて鮮明に浮び上がる、友人と母を説得し 険しい山の危険とその頃病弱な私しを案じる気持ちだろうが、それより父を早く亡くし経済的に余裕がない母に俺の我儘で無理をさせ登山用品を揃えさせ そればかりか何かに付けて母を困らせた事が何時までも俺の心に残っていたのだろう

 ウワァー!今度は何処かの岩山の絶壁から足を踏み外したのだろうか・・・何処までも真っ暗闇を何処までも落ちて行く!、

 眼下には武田信玄の四男 勝頼の危急を知らせるため 政略結婚を強いられた勝頼の母 御諏訪様(八重垣姫)が勝頼の戦い用の兜を脇に抱え 凍てつく氷に覆われた諏訪湖に入水自殺した、戦国の悲劇そんな事を思い浮かべたのは多分兜をレース用ヘルメットに見立てたからだろう。

お神渡り諏訪湖1.jpg やがて青く澄んだ水を湛える信州諏訪の湖が見え初め、突然体全体に震えが走り耐え切れないほどの寒気を覚える うぅ寒い!如何したのだ 身体が凍りつきそうだ!、

 今では滅多に見られないが真冬湖一面に分厚い氷が張り不気味な音と共に膨張して割れ目に沿い盛り上がる、その高さは50cm~70cmはある、不思議とそれはちょうど上諏訪神社(大社)から(下社)下諏訪の神社に架けて割れ目が盛り上がる、それは上社の男神が下社の女神に逢うために歩き渡った跡だと語り継がれ、御神渡り(おみわたり)の神話が有る。

 今度は体がやけに暑い如何したのだ耐え切れない暑さだ汗が滲み出てくる、そしてこの湖畔には10m位吹き上げる間欠温泉があり 茹卵のような香りが漂い硫黄の湯の花が出来 鉄分も含んでいる、その周りは冬でも暑いくらいだ。

 尚此の地方には七年に一度の神社の柱の建て替えの意味もあって御柱祭りがある、茅野からの山出しの大木が人々を跳飛ばし崖を下る様は圧巻である、御神体は自然が神 諏訪神社の奥に広がる山々そのものである、尚毎年お盆に諏訪湖での花火大会は盛大である。

蓼科山.jpg 激しく目まぐるしく光景が移り変わる。 諏訪の町を右手に立石方面に駆け上り、霧ヶ峰高原 車山の女性の様な 嫋やかな曲線を描き広がるグリーンの景色に目を奪われながら ビーナスライン添いに白樺湖を通り過ぎると、蓼科湖が朝靄の中に現われる、目の前には少し丸みをおびた諏訪富士と呼ばれる蓼科山が迫って見える確か信州の蓼科高原。

 天候は変り初夏の日差しの様に暖かく、ぽかぽか陽気 やけに喉が渇く 辺りを見回すと日差しの中に小川が見える、漣が太陽に照らされキラキラ光って眩しいほど美しい、足首ほどの水嵩に小石が敷き詰められている川底が見える、裸足で水と戯れその冷たさが心地良くしばらく川底の小石を踏みしめ遊んだ覚えがある。

 何処かで見た光景だ、確か小学生の頃 夏休みキャンプで遊んだ場所だ、時空(space-time)を飛び越え 何故ここに居るのかは解らないが、山中から雪解けの湧き水 澄んで冷たく美味しそうだ、きっとこの体の火照りと渇きを癒してくれるだろう、早く喉を潤し渇きを止めよう、その美味しい湧き水を飲みに起き上がろうと・・

起きて!.jpg その時、何処ともなく  ”リュウ!リュウ!起きて、ねぇ起きて!” 母の呼ぶ声が幾度となく聞こえたような気がして目覚めた。 ”アゥゥー・・なんだ夢か!遅刻だ!早くサーキットに行かなければ” だが肩と腰の辺りに痛みが走り頭は割れる様に痛い・・ 一体如何したと言うのだ?・・・何時もの俺の部屋ではない!レース仲間がなぜいる?母は何処に?・・そうか!母だったらリュウとは呼ばず 健司と呼ぶはず、何故 母と思ったのか不思議だ?!・・・・・・。

 朦朧状態から、徐々に現実の状況に戻り・・俺は、レース・スタート直後第一コーナーへ全車なだれ込むなか、ライバル車を頭一つ押さえ突入、ブレーキングと同時に減速 後方から突然俺のレース・マシーンに思わぬ何かの力が加わり車体は前後に回転、何かに背中を吊り上げられた様に空中に舞い上がり、逆さまに地面に叩き付けられて後頭部を強く打ち意識を失ったまま病院に運ばれ ベッドにいる事が解った。

 頭への衝撃により異常興奮や発熱、脳内のメモリー回路(neuron-synaose)に異常電位差を起しシナプス(synapse)が勝手に作動しイメージ・メモリー(image-memory)が遠く昔の忘れていた記憶を激しく呼び出したのではないか?。 この長い夢は俺が目覚める、ほんの数秒前のわずかの間の事と思われる、其の上、体温調整も狂っていたのかもしれない。

 余談だが、脳内にはもう一つ論理メモリーがある(logic-memory)、その全てを空中から眺めている別の俺がいる それを人は幽体離脱と云うが、全て頭の中で起こっている事と思う。

 あの、ゆったりと心地良い暖かさ、お花畑の光景は幼い頃、母に包まれていた追憶か(nostalgia)憬れの慕情なのか(longing for one's home or mother?)、だが不思議だ!このまま死を迎えたら俺の世界は消えてしまうのか?何が起きようと暗黒の無の世界なのか?それとも あの赤ちゃんに俺の魂が移りこの宇宙と地球の変化 人の営みを映し出すと云うのか?、人の願望で有ってありえる訳が無い希望的観測に過ぎない 誰一人死から生還した人はいないから、それにまだ明確に解明出来ない世界それは魂、それを人は神の世界と呼んでいる。 近い将来ロボットにも怒り苦しみ楽しさ仲間を気使う心 等々を埋め込めば自身をも守る感情が生まれ 魂にも似た世界が広がるのではないか?

   ・・ 《町医院の病室 ・・

北原 監督気が付いた.jpg 「おう!..気づいたか、心配かけやがって!」 チーム監督(北原)の顔が眼の前に迫る、こんなに優しい監督の顔は見たことがない、しかも俺を覗み込む眼鏡越しの目には微かに潤んで見える、俺はただ笑顔を作り無言で答えた。 監督は以前同チームでレースに出場した事もあるが現在我がチームのオーナーで監督である、アラ・フォー四十代に入ったばかり、顎から口に繋がる髭と眼鏡が似合う渋めで論理派タイプである。

 俺は..夢の中で悲しい顔を浮べ消えて行く 入籍したばかりの妻・佳子(ヨシ子)の姿を思い出し、再び起き上がろうと試みるが肩と腰の辺りに痛みが走る、慌て辺りを目だけで探る、俺の胸元で心配そうに見詰めるヨシ子を確認、俺の手を確り握っているその手を握り返し確認の意味の合図を送る、ヨシ子の優しく温かく軟らかい手で握り返して来て安堵した、

よし子&リュウ.jpg そしてあの俺を呼ぶ声がヨシ子で有った事とあの子供を抱いているおもさはヨシ子の頭の重さで 俺を呼ぶ声が母と間違えた事がなんとなく納得できた、たぶん此処はモテギ・サーキッドの近くの病院のベッド上だ。

 その後 自宅近く横浜の妻の勤務する病院に移り、翌日 主だった検査を受ける 結果良好、ヘルメットや肩首ホルダー(nack-holdar)ロールバー(roll-bar)、6点式シートベルト、チャーシは強化アルミ合金ジュラルミンのモノコック(duralumin moncoque chassis)のおかげ脳や骨にも異常も診られず、 熱も下がり奇跡的幸いで打撲だけの負傷、もしステアリング(steering-wheel)から手を離していたのなら かなりのダメージが有ったと思われる、頭をかなり打ったが その後横浜に移動し検査の結果翌日直ぐに退院出来た。

   ・・ 《レーシングチーム事務所》 ・・

 その後 打撲の痛みも治まり体も回復に向かった。 事故から数日後 都内 錦糸町駅より2,3分のビル五階一郭にある 俺が所属するジャパン・カーレーシング カー・アカデミー(J.Rc.A)事務所を妻ヨシ子と訪ねた、

事務所.jpg チーム監督の北原さんやメカニックのクルー達と挨拶を交わし、

 あの事故の話になり、レースでは良くある 後続車がカーブで行き場を失い俺の操縦する車脇に接触 後続車の前輪タイヤと俺の後輪タイヤの前脇に接触 後続車の前輪タイヤに噛み合うように乗り上げテールを上げ前後に車体が回転、

 レーシングカーは高速で前進する為に造られ 車体を浮き上がらない様に地面に押え付ける為のウイングが逆効果 後ろ向きでは弱いもので、飛行機と同じ原理 揚力で舞上がってしまった、

 幸いレースコースから外れ他車への衝突も免れ砂地に逆さまに叩きつけられる様に落ちたとの事、砂地と燃料に引火せず火災にならずに済んだ事、本当に運が良かったと聞かされた。

 今でも鮮明に覚えている 目覚める寸前に体験した夢の話を、流石に得体の知れない赤ちゃんとヨシ子が消えていった処は省き説明したところ、

 物知りの監督が真面目に 「その電車の中の怖いおじさんと喉が渇いて川に入らなくて良かったな、それが三途の川だったんだよ!」・・・「まさに それを臨死体験(near-death experience)と云うんだよ ね先生!」 とヨシ子の顔を見ながら同意を求めた 急に振られたが 落ち着いた表情で 「はい そうですよ」 と答えた

 同意を得た監督は尚も寓話に近い話を始めた 「リュウ お母さんが助けてくれたんだよ お母さんに呼び返されたのだよ、もし呼ぶ声が無かったら..見知らぬ恐い顔のおじさんと話をしていたら、きっと川を渡り戻れなかったよ..」

 俺は無言でスクールの皆を見回した それは死を意味し、始めて死に対し意識させられ なんとなく皆も無言でしんみりとした様子である、

 知性的で物知りな監督 曰く 「お母さんは偉大だ!リュウ、お前も皆も、母に感謝しなければ駄目だぞ!」 車好きで集まったチームの仲間、お母さんには頭が上がらない様子だ(こんなにお金がかかり それ程の成果も上げられない金持ちのボンボンが夢を持たせてむらって迷惑掛けているからと少なからず世間ではそう思っているのだろうが 実際にはその様な人ばかりではないが 少なからず母親には心配をかけている)それぞれの胸の内に母との思い出に心を馳せ 心なし慌て照れた顔が物語っている。

 監督ヨシ子に目を移しながら 「それに医師とは云へ、無闇に動かす事無く、怪我が無いか冷静にチェックして懸命にリュウを呼んでいたよ、ヨシ子さんの気転の有る対処が有ったからだよ、本当にリュウは幸運児だよな」 俺はなんと答えて良いか ただ 「ええ・・・」 とだけ答えヨシ子に目を移した ヨシ子も無言で俺を見つめた 二人の間には言葉はいらないほど解り合っていたのだろう

 我がチームのメカニック 孝ちゃん黙っていれば 何処から見ても可愛い女の子?、ふっくらとした頬と可愛い目をクリクリ輝かせて甲高い声だが何処か違和感のある話し方だ 「リュウちゃんは西遊記の石猿みたいに石頭だよね~!」 と語尾を伸ばしこのしんみりムードを打ち消す様にトーン上げる

孝ちゃんラブ1.jpg 俺は苦笑交じりに冗談で 「そぅーか? ・・ 俺は孝ちゃんの期待するような 孫悟空のあんなに延びる如意棒は持っていないよ」

 孝ちゃんは すぐさまハスキーな声で反応し 嬉しそうに 「やだぁ~ん!リュウちゃんは 相変わらず下半身の事ばっかり! 頭あんなに打ったのに少しも頭良くなっていないよね、益々下品だよね~!」

 皆笑って良いものか迷って笑いを堪えている、後ほど紹介するが孝ちゃんこと鈴木孝三、レース用車のメカニックで感性も素晴しく高い技術の持ち主であるが、俺も女と見間違うほど可愛く綺麗だが性同一性障害者である、

俺はちょと皮肉を込めて 「俺は肉食系だよ!幸ちゃんの様に米や麦のジュース(酒、ビール)ばかり飲んでいる草食系ではないよ 彼女の一人や二人位作れよ」

 少し言い過ぎたかな?だが其れ位の皮肉は慣れているのだろう、幸ちゃんは俺の言葉に応酬する様に 「だって私、リュウちゃんの事 大好きだもん!」 と俺にウインクを送ってくる 「ワァーォ!俺まだそちらの方は駄目だよ カンベンしてよ!・・・今は只管 勝利の女神を追っているから」

 幸ちゃん 「あ~ら!それじゃぁ しょうがないわね、 でも 私の気持ちは変えられないわよ もぅ~悲しいよね~! 

 その雑談に黙って耳を傾けていたヨシ子は 冗談顔で自分の立場を強調する様に俺に目を移し 「リュウ!勝利の女神じゃ負けるわね」 笑いを込めてみる 俺は何故か内心慌ててしまった

 その後 徐に微笑交じりに幸ちゃんに目を移し 「幸ちゃん!私はどうなるのかしら?」 孝ちゃん顔を上に向け天井を眺め おもむろに俺に目を移し俺に問いかける様に 「う~ん..どうしよう・・も~ぅ!しらな~い リュウに聞いてよね~!」 孝ちゃんの言葉に 皆 和やかや笑いに包まれる

 孝ちゃんは自分の生き方に否定をせず堂々としている様に思われた、皆大笑い 俺は内心変な戸惑いを覚え ”フゥー孝ちゃんが男?であって良かった” と安堵を覚えた。

 俺達は今年初めてビックレースに参加 資金もままならぬ弱小チーム 予備のマシーン(レース用車)も無い、 今後のレース予定の不安が過ったがレーシングカーや予定の事には一再触れず たわいもない話に終始 監督はじめ皆これほどの心ずかいと心配していてくれた事 心に沁みるほど嬉しく感謝の思で一杯だった、

 それに帰宅途中 ヨシ子が事故当時の事に触れ 「北原監督に あのように云って頂いたが 他人と違い リュウの事になると 気が動転してあわてていたのよ」・・・「まだまだ だめだわー」 と実感のこもった感想を話した 「そんなことないよ!俺凄く心強く安心できたよ」 噛み締める様に話した 「本当? それならよかった!」

 「それに・・・ 俺だってそうだよ・・これから俺たちのレースどうなる事やら?」 ・・・不安が過ぎる ヨシ子が力付けるように答える「いま考えても仕方がないでしょう」「ああ・・」まだレースの事など あまり知らないはずの 彼女だが 妙に安堵感があり納得できる

                                        ==*==*==*==*==*==

 

 

 ・・・今回のレースから4・5か月ほど前にさかのぼる・・物語はここから始まる!・・

                ・・・ =《商談》= ・・・   

 

  ラウンドマーク.jpg横浜みなと未来、地上69階の展望ラウンジフロアーを持つラウンドマークタワー内の35階事務所にて、我がレーシングチーム監督兼オーナーの指示に依り、予てから話しの有った、メインスポンサーとの商談と顔見せに 監督の都合でとりあえず一人で出向いた、以前のドライバーが家庭の事情(父の事業ホテル旅館等を引き継ぐ事に)で降板し、年間レース後半、俺がドライブする事になった件に対しての従属契約や契約金の話し合いである、チームとして予め話はついていたが 少しでも状況改善の為に出向いたのですが予想どうり不況のため以前の契約に僅かの上乗せで それ程期待した金額は示されなかったが、今後ともお付き合いさせて頂ける事になり先ず先ずほっとしたが まだまだこのFJレースを続ける為には資金的に不十分である。

 ラウンドマークタワー35階の事務所から高速エレベーターで1階出入り口へ、3月の終わり横浜の春ははやいフロアーには冬から解放された爽やかな姿のOL、ビジネスマン、イベント会場や観光、アウトレットのお店が並び、遊園地、公園、赤レンガ倉庫、半月形のコンチネンタルホテル等あり、横浜のファションの地である老舗が並ぶ元町、中華街が近いため、観光客、子供から若者、お年寄りまで、ビジネスマン等、目的の違う人々が何時でも大勢入り混じり行き交っているが、不思議と違和感なく馴染んでいる港街である。

 俺は出入り口近くに広がるフロアーで螺旋階段(spiral stair)の様な半円形の珍しいエスカレーターを使い、中二階風のフロアーに上がり喫茶店へ、左側ショーウインドーにスイーツ類が美味しそうに沢山飾られている、中に入ると着飾った女性達のグループ、オフィスレディー、ビジネスマン、観光の人々で賑わっているが以外に静かである。 品の良いウェートレスに空きテーブルに案内され、俺の余り意味のない こだわりで 今風の何とかラテではなく 昔ながらのホットコーヒーを注文した。

 とにかく、レースを続ける資金を得る為スポンサーの獲得に深刻に悩んでいた、他の上位レーシングチームのいくつかは外人ドライバーを雇い、メーカー(車の製造会社)から直接援助が受けられる名門、俺達のチームは立ち上げたばかり実績の無い弱小チーム その上ビックレース出場は今年が初めてである。

 レーサーであっても安穏としてはいられない、資金面でも大変!ドライバー兼営業マン時にレースカーの整備などもしなければならず カーレースのチームを運営する事は並みの資金では出来ない、 俺もこれから各社に資金援助の交渉に出かけなければならないほど危うい立場なのだ。

 カーレース経歴や俺達のチームが記載されている車のスポーツ誌や成績表など集め、昨年此のレースの観客動員数等 宣伝効果について・・などなど、冷めてしまったコーヒーを飲みほしながら 何処の会社にお願いに行くか 取り留め無く考えを巡らせていた。

ヨシ子出会い.jpg 「龍崎さんですよね」 突然、淡いスズランの香りが仄かに漂い、素晴らしい魅力ある声で、背丈も高くスタイルも抜群、白のスーツにパンツルックでなんとも爽やかでエレガント(elegant)、顔立ちも整い見詰める瞳は大きく澄んで印象的だ、如何見ても年上で気品ある女性が目の前に佇み声をかけて来た。

 突然の事で、ただ呆然と見つめるだけだった、たしか何処かで会った様な?何か返事をしなければと当惑している俺を察したのか 「あのー私、以前貴方の奥様、美奈子さんの担当医でした鶴見ですが」 以前離婚前に妻(美奈子)と共にお世話になった、先生である

 「ああ!思い出した横浜X大の、 何時も病院では 大きなマスクをして白衣しか見ていなかったもので!」 余りにも突然で長い間会っていないうえ 私服の姿を見るのは初めて、こんなに魅力的な人とは..

 俺は畏まった表情で「其の節は大変お世話になりました」 鶴見先生微笑みを湛えた瞳で見詰め 「同席しても構いませんか?誰かいらしゃるのでは?」 「いいえ、ちょうど用件が済んだ処で休んでいたので・・どうぞ」 どの様に接してよいのか戸惑い仏頂面で答えた

 何か言い訳のように 先生は説明じみた口調で 「私 空きテーブルを待っていて貴方が目に止ったの、丁度お話したい事も有り 少々構いません?」 気の利かない俺自身に慌て・・ 「あっ!失礼しました!・・どうぞ」 と俺の座っているテーブル越しの席に手を差し伸べた

リュウ先生.jpg 真向かいの椅子に優雅に座った先生は、柔らかな瞳で俺を見つめながら 「何をお飲みになっていらしゃるのですか?」 「俺、いや私はコーヒーですが!」

 先生は俺のわずかに残ったコーヒーカップに優し溢れる瞳を落し スーと右手を優雅に上げウエイターを呼ぶ 「私にミルクティーとこちらにコーヒーの追加お願いします・・よろしいですか?」 と小首を傾げ俺を微笑を湛え見つめた、なんと美しく魅力的なんだ!なんだろう  この衝動は

 俺の心を見透かされた様な気がして おもわず目が泳いでしまった、如何したと云うのだ 俺はただ圧倒され 「あ!はい」 と返事するのが精一杯、何時もはレースクイーンや沢山のコンパニオンを相手に冗談の連発、どうにもインテリ諷(intelligent)には弱く勝手が違う、何時もの俺は?戸惑うばかり、

 何の話だろう..かろうじて 「何か..俺、..私に?」 と途惑いながら尋ねた 「貴方達の事あれからずうーと気になっていたのよ、と云うよりも貴方の事かな!」 「俺、いや私達2年半位前に」 優しい微笑みを浮かべ 「離婚の事知っています、奥様・・いえ美奈子さんから全て聞いていますわ、それから気を使わず”俺”で良いですよ」

 「えぇ・・」 俺は何故か圧倒されていた 尚も先生は 「心不全と狭心症で奥様が救急で入院なさって、私が担当になり初めて貴方にお会いになったときになぜか引き込まれてしまいそうな貴方のキラキラ澄んだ激しく生き生きしている目と、純粋で直向な心に触れこんなにも奥様を愛している人がいる事に感激したのよ」 俺は何と答えて良いのか 「・・・」 ただ聞き入っていた

 あの頃の先生は冷静沈着な人と思っていたが意外に情熱的に話続けた 「あの時の貴方は自分の全てを失っても、奥様を助けてあげたい思いが痛いほど伝わって来て、其れで印象深くある意味恐いくらいに感じたのよ」

 「あぁーそんな事ないですよ それって 相当かいかぶりですよ 唯あの時は俺自身の事で精一杯で!」 いっきに、説明している鶴見先生に照れとあっけに取られ暫らく聞き入っていたが、俺も少し冷静さを取り戻し 不謹慎と思ったのですが説明とは関係ない事を頭の半分で考えると云うより感じていた

 ”どうしてだろう、今まで沢山素敵で可愛い人と出会ったのにどこか違う、これが大人の女性の気品と魅力なのか・・顔や体が綺麗なのは言うまでも無く暖かく繊細な心の動き、生活から養った知性や情熱 優雅な振る舞い、此れを淑女と云うよりもっと活動的な本当のエレガントと言える人だ・・今まで俺の世界に無い不思議な魅力に引き付けられていた”

 あの頃は何時も顔いっぱいの大きなマスクに白衣姿の先生であったが 何処となく綺麗で優しい人だと思っていた、また あの頃は自分の事でそんな意味で見る余裕など全く無かった

 俺は離婚した妻 美奈子の入院中の事を思い浮かべ、当時の気持ちを解かりやすく先生に説明した 「今までの俺の生活の全てを捨て 自動車レースで成功する事を目標にして生きてきたのに 妻の病気の事でレースを辞め無ければならず 全く他の生き方もしらず、・・俺は奈落の底でもがき本当にあの時は苦しんでいたんです!」 「・・・」 先生は黙って次を促す様に俺を見詰めた

 「俺は何としても妻の病気を治し、レースに復帰したかったから 必死だったんです!」 先生は頷きながら

 「だから!だったのね、あの恐いくらい真っ直ぐに見詰めた目、それで貴方のこと気になって?・・・・聞いているの!」 先生はあの頃の院内での鋭い目で俺を見た! あぁーこの人とだったと思いつつも、もっと話したい こんな気持が生まれた事は初めてだった、 とっさに思いついた言葉が 自分でもなんと浅はかと思いつつ 「あ!はい、聞いています・・先生、お腹空いていませんか? 何処かでゆっくり話が聞きたいと思い、俺 何時も一人で寂しい食事で 夕食御一緒できますか?」

 何時もは言葉にした事が無い そんな言葉が出る俺自身に驚きを覚え 顔面が少し赤く火照るが 以外にもスムーズに一気に出てしまった、それに今まで頑なにこだわっていたものが何故か薄らいだのも別れた妻の担当医だからだったからなのかもしれない。  

 考えるように可愛い唇辺りを指先で押さえ 「そうーね・・?云われれば、その方が良いかも・・私も・・日本丸.jpg何処か?」 ヨシやった!俺は一気に 「俺の知っている所で良いですか?ここから1時間位かかりますが、逗子海岸にイタリアンの美味しい処知っていますが?」 先生は指先を唇から頬に移し 「そうね・・私も久しぶりにウインドショピングに夢中で云われればお腹空いたわ、そこに連れて行って下さる?」 まさか了解が出るとは!

 後で知った事だが 普段の先生ならば あの時の返事は絶対有り得ない事、いったい何に突き動かされたのか今でも解らないの?ただその時そうしなければならないと思ったからよ、それに貴方の其の後をとても知りたいと思ったからかな・・それが運命なのよ!

 喫茶店を後にして、JR桜木町駅へ向かう動く歩道手前の階段を下り、帆船日本丸を左手に、俺達レーシング・クルー達が夏、時々利用しているイタリア人がオーナーの逗子のお店に携帯で予約を入れた 「グラチェ!(
grazie:it)リュウ女性と2人だけなんて珍しいね、待って居るよ」連絡が終わりタワー左手の地下の駐車場に向かう

タッチおじさん ダヨ!.jpg *******此処まで読んで下さり有難う御座います、前の申請(以前)の順に戻りながら物語が展開します*又は下記、URLのクリックにより次のペイジ(申請の古い方)に順次物語が進みます(枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編2】)→クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-10-02是非お読み下さる事お願いまで*****


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